貴方に会えて嬉しい。だけど・・・
天空の島の、最奥の間にはすでに集められた者たちがそろっていた。
風の精霊王が封じられていた頃の棺はすでに無く、壁のあちらこちらにはアリシアたちが邪精霊と戦った際に生まれた多くの亀裂が残っている。
闇に包まれていた空間にはほのかな明かりも灯され、その殺風景な様子が手にとるように分かった。
光と地を除く精霊王たち
それぞれに仕える高位精霊
ある者達は物憂げに
ある者達は苛立ち気に
その時を待っていた。
『森の姫』様の願いを考えると、目を逸らしてはいけない。
そう思うのだけれど、水の精霊王様がアリシア様に寄り添っているのを見るのは本当につらいものです。
けれど私がこの広間に足を踏み入れた時、僅かに驚いて私を見たような気がして、少し嬉しいと感じてしまいました。水の精霊王様が、私のことをいらないと言ったあの方が、私を覚えてくださったのかと思ってしました。
それにしても、遅いですね。
「先の風の精霊王を連れてくるのは俺の役目だ」と言って聞かなかったあの方が来なければ、全ての話は始まりません。
「遅い。奴は何をしているんだ」
ほら、気の短い火の精霊王が苛立ちも頂点に達しているご様子です。
このままでは、アリシア様を連れて、そして水の精霊王様もご一緒に、お部屋に帰ってしまうでしょう。
「わりぃ、遅れたな」
ようやくいらっしゃたのは良いのですが、その物言いは無いと思います。
何も知らない方々が驚いているじゃないですか。
真面目な堅物、威厳ある知識者、そういう存在である地の精霊王様がそのような軽い言葉を発するなんて誰も想像だにしてませんから。
「ど、どうした『地』。
どこか調子でも悪いのか?」
「そ、そうだ。お前、頭でも打ったのか?」
水と火の方々が怯えていらっしゃる。
世界が変調を来たしている中、地の精霊王まで狂ってとあっては本当に世界が終わるとでも考えてしまっているのかも知れません。
「あっそっか。なかなか馴染んじまってるから忘れてたわ。
これ、親父の身体だったんだよな。」
当時もあまり関わりのない方でしたが、その噂はよく聞こえていました。
「親父?」
「まさか!」
「そうだぜ、おっさん共。
俺はクロノスだよ。地の精霊王の息子の。
ちょっと、親父には薬で眠ってもらって身体を借りたんだ。
親父なら今頃、夢の中でお袋といちゃいちゃしてんだろ。
その為に、魔王のところから夢魔を一人借りてきたからな。」
ちょ、そんなこと聞いていませんよ。
眠らせるだけって、『森の姫』様も言ってらしたのに。
あぁ、思い出話を始めると頭を抱えだす、地の高位精霊たちの気持ちが良く分かりました。
どうして、あの御父上の御子息がこれなんでしょう。
「むぅうう」
ふと、音のする方へそれに気づいた者達が目を向けると、それは地の精霊王の姿をしたクロノスの腕の中、毛布でぐるぐる巻きにされて片腕で抱えられている物体に、そして毛布の間からのぞく少女の顔へと向かった。
「姫様!!」
風の高位精霊たちが駆け寄り、クロノスからその少女を奪い取った。
そう、それは先の風の精霊王だったマリアンナだったのだ。
「クロノス様!
貴方が姫をお連れするというからお任せしましたのに。
なんで、簀巻きなんですか!!」
風の高位精霊の中で唯一の女である第三位がクロノスに怒鳴りつける。
その後ろで他の高位精霊たちは慌ててマリアンナから毛布を剥いでいる。
ただ、第五位だけはアリシアの後ろに立ち、キョロキョロと忙しなく辺りを見回していた。
「いや、だってさ、暴れて嫌がるから。
ここに来てくれないと、話が始まんないだろ。」
バンッ
クロノスの額に、ぶ厚い本が投げつけられた。
配下たちによって解放されたマリアンナが投げつけたものだ。
きっと、簀巻きにされる前に手にしていたのだろう。
毛布が無くなると共に投げつけた本は、見事にクロノスの額を赤く染めることに成功した。
「暴れるに決まっているでしょ。
このロクデナシ!」
「おま、旦那に対して酷くないか!!?
久しぶりなんだから、抱きしめて歓迎してくれてもいいもんだろ」
「姫、姫。落ち着いて下さい。」
風の高位精霊たちが宥めようとしているが、マリアンナとクロノスはにらみ合い続ける。
その様子を周囲はただ、呆然と見ていることしか出来ないでいた。
「はっ。
子供が生まれるってのに姿を見せなくなるような奴、ロクデナシで十分なのよ!
だいたい、寿命であんた死んだんじゃなかったの!?」
「姫、言葉、言葉。」
「しょうがないだろ。
色々、実験とかで忙しかったんだからよ。」
「実験?」
「そう。お前と一緒に生きる為の、な。」
やんちゃ系×お嬢様って好きなんです。
このシリーズの次の話が出来ちゃったので、終わったら書きたいなぁ。