表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/30

閑話:とある辺境の村の話

大丈夫よ。

村の中にいる限り、何が来ようと村の精霊たちが守ってくれる。

知っているでしょう。

ユージェとジェニー、二人の精霊がとても強いということを。


さぁさぁ泣き止みなさい。


分かった。

分かった。

本当にお前たちは、あの話が好きよねぇ。




それは、風の精霊王様と他の精霊王様たちが大きな喧嘩をしていた、遠い昔のこと

空を漂う島で、風の民たちとお暮らしになっていた風の精霊王様は

他の精霊王様たちが魔物や悪しきモノたちから人々を守り、その暮らしがより良いものであるよう力を振るわれる中、その力を人々に与えることなく、僅かな己の民を島に囲い、彼らにだけ風の力の恩恵を与えていらっしゃった。

精霊王様たちが、そんなことを止めて人々に優しくしてやれと言われてもお聞きにはならなかった。

そして、世界中を巻き込んで大喧嘩をされたんだ。

大喧嘩の末、精霊王様たちは風の精霊王様を封印することにした。

いつかは仲直りしたいと願ってね。


風の精霊王様が封じられて喧嘩が終わっても、すぐには世界が元通りになることはなかった。

特に、この村は大きな、精霊王様たちの加護を受ける国からは離れているからね。

近くに他の村や街もない辺境だ。

川は消え、森も枯れ始め、魔物たちも徘徊し、

村人たちは逃げることも出来ずに、もう死ぬしかないと涙を流していたんだ。


もう本当に麦一粒も水一滴もないと覚悟した時、

村に錆びた鉄の色をした髪の男と、大地を焼くほどに照りつける太陽の中黒い布で全身を覆い唯一顔の口元だけが見える女がやってきた。

村人たちは、こんな場所に何故来たのか。

そりゃあ怪しく思ったそうだ。

でも、最早死ぬしかないと思っていたからね。

村に残っている財産を好きに持っていってかまわないから、動ける内に元来た道へ戻れ。

ここまで来れたのなら、戻ることも容易いだろう。

そう言って、彼らを追い返そうとしたそうだ。

そうしたら、男が笑ったんだ。

「変わらないな、この村は。」

村の長老は不思議に思った。

ここ何年も村に行商人以外が来たことなんて無かった。

それなのに、何故か男に懐かしさを感じた。


「この村の果実酒、お袋が好きだったんだよな。

 この様子じゃ、それももう口に出来ないのか・・・

 懐かしい景色だがこんなんじゃお袋も悲しむな。

 何より、何もしなかったらド叱られるに決まってるな。」


そう言って腕を空中で一振りした男。


「約束しろよ。

 村が元に戻ったら、果実酒は絶対に毎年作るってよ。」


さらさらと風が吹く度に宙に舞い上がり散っていた土が色を変えていく。

そして、色が変わっていくのを追うように花が咲き乱れていく。


村の中心にあった開けた場所がひび割れ、水が吹き上がった。


「うし。

 これで、しばらくしたら元みたいに戻るだろ。

 あとは・・・」


『聞け。

 俺の声が聞こえたなら、この地に住まう地に属するモノたちよ。

 俺の前に姿を見せろ。』


すると、男の目の前の地面から一匹の大きな狐が出てきた。


「う~ん。やっぱ土地が痩せてんな。

 中位精霊しかいないのか・・・

 ちょっと物足りないな。」


『風に住まうモノ。

 地を統べる王に敬意を払うのなら、俺の前に姿を見せろ。』


一陣の風と共に、大きな狼が現れた。


「中位が二人もいれば十分だろうが・・・

 まぁちょっと手を入れておくか。

 ちょっと弄って・・・


男が狐と狼の頭に手を振ると、

その姿が変わり始め、頭に狐の耳が生えた女と狼の耳が生えた男になった。

「やっぱり、俺の力じゃ弱すぎてここまでしか出来ないか。

 お前たちを上位精霊に近いところまで引き上げてやった。

 この村は、地の精霊王の妻が愛した場所だ。

 その存在全てをもって守れよ。」


「「承知いたしました。」」


「そうだな。

 なぁ、老人。この村の名前はなんだ?」


跪いて頭を垂れる二人に満足そうに笑うと、男は長老に声をかけた。

呆然としていた長老だが、答えなくてはならないと無意識の内に口を開いた。

といっても、村には呼ぶものもいない為名前が無い。

長老は素直にそれを伝えた。


「無いのか・・・。

 村の名前とこいつらの名前を繋げれば、認識の力で守りの力が増すんだが・・・・


 あぁ、村の名前。

 俺がつけていいか?

 その名前を、あんたらが自覚して使ってくれればいいから。」


長老にはよく分からないことだったが、それが村の為になるならと頼んだ。


「じゃあ、ユージェニーだ。

 で、お前らの名前は、ユージェとジェニー」


「地の上位精霊ユージェ、村の守り手たるを拝命いたしました。」

「風の上位精霊ジェニー、村の守り手たるを拝命いたしました。」


「良いのか?

 その名前を使って。」


女が始めて口を開いた。

女にしては少し低い声だった。


「いいって、いいって。

 この村のこと知ったら親父も守りの力を配するだろ。

 なんたって、お袋の名前がついた、お袋が好きだった村なんだし。」




「じゃあな、タクス。

 すっかり爺様になっちまったが、長生きしろよ?」


唐突に現れた男たちは、消える時も唐突だった。

しかも、男は自分も何倍も年老いた長老の頭を撫で笑いながら姿を消していった。


長老はフッと思い出した。


何十年と生きた長老がまだ幼い頃、隣の家に僅かな間いた母と二人の子のことを。

兄と妹の兄妹は、よく幼い長老と遊んでいた。

その兄が、男と同じ錆びた鉄の色をした髪を持ち、男と同じように笑い、幼い長老の頭をよく撫でていたことを。

地響きが轟く夜、唐突に姿を消してしまった三人の親子のことを。



長老は残っていた二人の精霊に尋ねた。

彼らは一体・・・・


「あの方は、地の精霊王の御子息です。」


そう。

危機に瀕した村を助けてくれたのは、偉大な地の精霊王が人である愛妻との間に儲けた長子だったのだ。

そして、長老が幼い頃村に住んでいたのも・・・



村のものたちは二人の精霊の力を借り、森で果実を集めワインを造った。

それが約束だったから。


そして次の年。

村に騎士たちを引き連れた煌びやかな馬車が訪れた。

馬車から降りてきたのは、時々山から取れるジェイドの石のように美しい翠の髪の女性だった。


「お久しぶりね、タクス。

 わたくしを覚えているかしら?」

女性は、あの兄妹の妹だった。

「お話は、お兄様に聞きましたわ。

 お母様の愛した果実酒、これから毎年分けて頂きたくてきましたの。

 お母様のお墓に御供えする為のもの。

 そして、わたくし達家族が思い出を語る為のものを。」


それから毎年、今は『森の姫』と呼ばれる方は果実酒を買いに村に通ってこられた。

誰に頼むわけでもなく、姫君自身が。

それは長老が亡くなって世代が三つ程過ぎた頃まで毎年続いたわ。

姫君が、人よりも長い生を終えられて精霊となり、司る森から動けなくなるまで。

今では、『森の姫』の願いを受けたヴァルト王家の方が果実酒を取りに来られる。


長老が死ぬ間際に、村の外れにある池の辺に作ったあの小さな家。

あれは、長老が覚えていた親子の家。

今でも昔を偲びに地の精霊王様が時折おいでになる。


果実酒とあの家は村の宝物。

それを愛してくださる地の精霊王様と『森の姫』の御心に感謝して私たちは生きなくてはならない。


そして、御子息にも感謝を捧げなくてはならない。

あの方がいらっしゃったから、この村は精霊に守られているのだから。






あぁ、ほら。

ユージェとジェニーが戻ってきたわ。

これで暫くは村の周りも大丈夫でしょう。



あら、まだ話をしなくてはいけないの?


仕方がないわね。

まぁいいわ。

話なら、たくさんあるもの。

地の精霊王の御子息は各地を旅して、様々な所で多くの逸話を残されているものね。

精霊たちの中では『旅の御子』と呼んでいるそうよ。

どんな話がいいかしら?

光の精霊王が閉じこもる宮殿の扉という扉を壊してまわった話?

闇の精霊王が造った彫像を粉砕した話?

地の精霊王の奥さんが子供を連れて家出をした時、住んでいた村。

その間半年ほど、地の精霊王が使い物にならなかった。

奥さんの怒りが納まるまでは近づくことも許され無かった旦那さん。

最後はプッツンして強制的に連れ帰りましたとさ。

喧嘩の原因は不明。


地の精霊王の奥さん ユージェニーさん

農家の娘で、恰幅のいい・・・酒場の女将さんって感じの人。





ちょっと質問です。

皆さんは、ヒロインは「逆ハー狙いの転生娘」と「蝶よ花よなお姫様」どちらがいいですか?

大筋にも最終的にも深くは関係ないので決めてませんでした。

答えて頂けたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ