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その2

 姉への想いを胸に、ハイなテンションを維持したまま過ぎ去った二ヶ月間。術完成直後、やり遂げた達成感を感じつつ、十分な休養をとり体調を整えた。あとは完成させた術を標的に仕掛けるだけだ。

 そもそもセルジュは一途というと聞こえがいいが、目標に向かってひたすら全力全開突き進む猪突猛進型ともいえる性格である。その上人見知りなせいで、姉と家族、僅かな友人や魔術以外に対してはごく淡白な興味しか湧かない。

 特に夜会だなんだといった催しにも興味は無く、姉に懇願されない限りは出ることも無い。ゆえに王族、今回の場合はミシェル殿下だが、最低限の知識は持っていてもそれ以上知ろうとは思わないし、もちろん会ったこともない。

 そんな自分がいきなりミシェル殿下への謁見を申し込むのは不自然ではないだろうか。一応、認めたくは無いが、ミシェル殿下の婚約者の弟として謁見を申し込むことは可能かもしれない。

 だがしかし、それは嫌だ。とにかく姉とミシェル殿下の婚約を認めたくないのだ。

 絶対に嫌なのだ。

 婚約者の弟として謁見を申し込むのことは、ミシェル殿下を姉の婚約者として認めているようで絶対に嫌なのだ。そんなことできない。できるはずがない。

 だって超ド級のシスコンだから。

 しかしこのままでは二ヶ月かけて完成させた術を掛けることができない。由々しき事態である。

 断腸の思いで姉の婚約者扱いをするか。二ヶ月の苦労をふいにするか。はたまたいつかきたるチャンスを夢見て待ちの姿勢でいるか。大いに悩む。

 そんなセルジュだったが、姉からもたらされた一報により事態は好転する。


 ミシェル殿下と非公式のお茶会。


 ジゼル曰くぜひともセルジュに会ってほしいとのこと。しかも人前にでるのがあまり好きではないらしいという情報どおり、三人だけのお茶会をするそうだ。

 場所はコルトー邸。まさかのホームだ。王城アウェーだと準備もままならなかったかもしれない。まさに天は我の味方状態である。

 姉からの手紙によると、ミシェル殿下とのお茶会は二週間後の予定らしい。一週間で術の最終調整をし自邸に帰り、残りの時間でお茶会に備える。

 思っていた以上に早く、精神に負担無く自然に面会できる機会を得、思わず笑みがこぼれた。

「セルジュー。調子はど……」

 一心不乱に術完成を目指していたセルジュを心配し、たびたび様子を見に来ていたアロイスは、今日も今日とて倒れてないか確認しようとノックもせずに扉を開けながら中にいるであろうセルジュに声を掛けた。

 だがしかし、運悪く黒い笑いを浮かべているセルジュを見てしまい、嫌な予感を感じると同時に決して関わってはならないと第六感が働き、そっと扉を閉めたのだった。



***



 この世界では魔術を使う際、必ずその魔術にあった陣を使用する。火に関する魔術を使うならば火陣を。水ならば水陣となる。

 その陣を書く際、魔力を込めれば書き終わり次第発動されるし、魔力を込めずに書いたならば、使用したいときにその陣に魔力を込めればいい。ゆえに魔術師とされる者たちは自分自身が使う陣を本に纏め、必要に応じてすぐに使えるようにしている。

 四大元素である火水風土及び光と闇の6種類は古来より使われている、ごく一般的な属性である。その属性を現す基本の陣に様々な付加要素を与えることでTPOに合った魔術を使用することができるのだ。

 例えば基本火陣なら火が1秒ほど燃えあがるだけだが、そこに継続の陣を加えれば魔力のある限り燃え続ける。更に魔力伝導を絶縁させる陣を組み込めばたとえ魔力が残っていても火は消え去る。更に更に魔力絶縁陣を機能させたり機能させないようにしたりする、いわゆるオンオフ機能を加えれば、必要に応じて火が出たり消えたりする陣が完成する。

 このように基本陣に多くの陣を付加させることによってより多くの機能を有した陣ができあがり、難易度の高い術ほど複雑かつ大きな陣になる。

 今回セルジュが完成させた性転換の術陣はもちろん最高難易度のもので、半畳ほどの陣に緻密かつ複雑な紋様が施されている。その陣をどのように相手に仕掛けるかが今回の計画でもっとも重要であり、なおかつ難題でもあった。

 手のひらサイズの小さな陣なら相手に気付かれることもないだろうし、そうでなくとも魔術書に描けるサイズならばセルジュの魔術書に描くだけで何も問題はない。だがしかし半畳もの大きな陣では目立つ。

 何の陣かもわからないまま陣に触れるようなバカはいない。いかに陣を隠し、言葉巧みに相手を誘導することも魔術師にとっては重要といえる要素である。


 陣を作り上げることはもちろん大変だったか、セルジュにとっては知らない相手と相対することのほうがよっぽどつらいのだ。最難関であった。

 しかしその問題も、コルトー家でのお茶会ということでほぼクリアしたといえる。勝手知ったる我が家なのだから陣の配置は簡単だ。席順も上座に殿下が座るのだから問題ないだろう。

 お茶会の舞台になるであろう客間には豪奢なカーペットが敷かれており、カーペットの下に陣を仕込めばばれることなく標的を陣の上へと誘導できる。

 そこまでの計画を決めると、セルジュは大きな紙を取り出し完成させた陣を一心不乱に書き始めたのであった。



 そして二週間後、お茶会当日。


 一週間前に自邸に戻ってきてからはうっかりこの計画を漏らさないよう最愛の姉との幸せなひと時を最小限に留め、夜中にこっそりと下準備を進め、準備万端でお茶会の日を迎えたのだった。

 もちろんこの一週間、普段と違って姉上姉上言わないセルジュに周りは首を傾げたが、これを機に姉離れしようと思っている。と言えばみんな温かい目でセルジュを見守るようになっていた。

 当の姉も温かい目をセルジュに向けるに留めていた。


 今回のお茶会は私的なものということで、仰々しいものは一切なし。ミシェル殿下自身もあらかじめジゼルから送られていたコルトー邸直通の移動陣を使用して門前へやってくることになっている。

 ジゼルとセルジュは約束の時間5分前には準備を整え、門前で彼の訪れを待っていた。

「ああ、もうすぐセルジュ殿下がおいでになるわ。楽しみねぇ。」

 嬉しそうに微笑むジゼルだが、その頬がほんのり色付いているのをセルジュは見逃さなかった。だがしかし、ここで嫉妬を顕わにしては、相手に警戒させてしまう可能性があるため、なんとか我慢する。

「……そうですね、姉上」

 なんとかそう答えるが、自分でもわかるぐらいに顔が引きつっているため、ジゼルに顔を向けられなかった。

 少しでも荒ぶる心を抑えるため、ジゼルに気付かれないようこっそりと深呼吸をしようと、深く息を吸い込んだとき、門前の地面に移動陣が浮かび上がった。


 一瞬だけ淡い光を発すると、待ち人であるミシェル殿下が現れる。

 ふわりと揺れたプラチナブロンドの髪は、ゆるくみつあみにさせており、服装も格式ばってはいないが、白を基調とし淡い水色に彩られたそれは、彼にとてもよく似合っていた。

 ゆっくりと開かれた瞳はスカイブルーで、ジゼルとセルジュをその瞳に移すと、やわらかい微笑みを浮かべる。


「ジゼル、久しぶりだね。招いてくれてありがとう。今日をとても楽しみにしていたんだ。初めまして、セルジュ殿。本日はよろしく」

 嬉しそうに微笑んでいるミシェルにセルジュは毒気を抜かれてしまった。みつあみの髪は腰に掛かるほどに長く、その顔立ちは中性的で、ともすれば女性とすら思えるほどである。更にその体つきも王族は義務とさせている護身術を習っているにしては薄い。華奢といえるほどのものだ。

 愛する姉の婚約者であるのだが、彼から男らしさというものがあまり感じられず、男装の麗人と言われれば納得してしまいそうだ。

 それにアロイスから聞いた情報によると、彼は大変なクールビューティーのはず。確かにその美しさは(一方的に)敵対視しているセルジュから見ても否定しようがない。だが姉に向けるその表情はクールのかけらもない、心から嬉しそうな微笑みだ。

 セルジュに向ける表情もとても作ったものとは思えない、嬉しそうな顔であり、更に楽しみにしていたという言葉が表すとおり、ワクワクという擬音が実際に聞こえてきそうなほどなのである。

「……あ、の。お初にお目にかかります。セルジュ・コルトーです……」

 驚きのあまりとっさにそれだけ口にするが、それ以上言葉が出ず、固まってしまう。ちらりとミシェルへ視線を向ければ、彼は幸せそうな顔でセルジュを見ている。とたんにいたたまれず、視線を下へと向けた。


 そんなセルジュを尻目に、ジゼルはミシェルへと近づき一礼した後、その手をとって邸内へと促した。

「ミシェル様! わざわざお越しいただきありがとうございます。私も今日のお茶会を本当に楽しみにしていましたのよ。さあ、準備はできておりますから、どうぞこちらへ」

 嬉しそうに歩き出した姉のあとを、ミシェル殿下は手を引かれながらついていく。仲良さそうな二人に固まっていたセルジュは正気を取り戻すと同時に、姉と手をつないで歩くミシェルに対し嫉妬心が沸き起こる。

 いくら中性的であれど、彼はれっきとした王子。男なのである。

 しかし嬉しそうな姉の邪魔をすることもできず、二人の後ろから恨めしげな視線を送りつつ、ついていくことしかできなかった。



 コルトー家邸内、客室。先に着いたジゼルがミシェルに勧めている椅子は、思惑通りの上座、陣を下に仕込んである椅子である。何も知らないミシェルはにっこりと笑いながら席に着く。ジゼルはそのままお茶の準備を始めたので、セルジュはさりげなく、陣を発動させやすい位置へと移動しながらミシェルへと話しかけた。

「改めまして、ミシェル殿下。本日はお越しいただきありがとうございます。お会いできる日をずっと楽しみに待っておりました」

「それは嬉しいな。今日は君とも仲良くなりたいと思ってお邪魔したんだ。よろしくね。」

 慣れない笑みを浮かべつつ言葉を掛ければ、相手も笑顔で返す。その友好的な態度に思わずうっ! となるが、ここまできたらもう引き返せない。

 なんと言っても最愛の姉であるジゼルとの幸せな未来が掛かっているのだ。


「ミシェル殿下はあまり公の場には出ませんよね。俺……いや、私もあまり出ませんのでこのような機会がなければお話することもなかったかもしれませんね。」

「あはは、俺でいいよ。無理させたいわけじゃないし、堅苦しいのはちょっと苦手なんだ。普通に話してくれると嬉しいな」

 にこにこ笑うミシェルと会話をしながら彼の隣の席を確保し、絨毯越しに魔力を陣に込める準備をする。

 本来は直接陣に魔力を注がねばならないが、絨毯越し程度ならばセルジュの魔術力なら簡単にこなせるのだ。残念なシスコンといえど、魔術師としての才能はピカイチなのである。

「ミシェル様ってばセルジュに会うのを本当に楽しみにしていましたのよね。よくセルジュの話題がでていたのよ?」

「ジ、ジゼル! わざわざそんな言わないで!」

「ふふふ、慌てるミシェル様もかわいいですわね」

 一人分ずつお茶を注ぎながらジゼルが会話に加わる。慌てふためくミシェルの顔はほんのり赤く染まって、ジゼルの言うとおり大変かわいらしいものである。

 もちろん見た目はともかく、れっきとした男なのだからかわいいと言われて、嬉しいか嬉しくないかで言ったら嬉しくはないだろう。セルジュはあえて何も言わず、姉とミシェルのやりとり聞いていた。

「うぅ……ジゼルはすぐ私をからかう……」

「あら、ミシェル様がかわいらしい反応をするんですもの。つついて遊びたくなるのはしょうがないですわ」

「遊びたくなるって……ジゼルは本当にSっ気が強いんだから……」

 がくりとうなだれたミシェルの頭を、ジゼルはよしよしと撫でる。

 大人しく二人のやりとりを聞いていたが、キャッキャウフフする二人の姿は百合百合しくも、姉命のセルジュにしたらラブラブしてんじゃねー! としか言えない光景だ。

 その瞬間最後の躊躇いも消え失せ、ティースプーンをわざと机の下へと落とした。

「あら、セルジュ大丈夫?新しいスプーンを用意するわ」

 楽しげに話しつつも、セルジュの様子はしっかり見ていたらしいジゼルに、自分でする旨を伝えつつ落としたスプーンを拾うため身を屈めるた。

 そしてスプーンを拾う振りをしながらミシェルの下に隠してある陣へと一気に魔力を注ぐ。


 数瞬後には陣に必要な魔力に達し、ミシェルの体を包むように光が放たれ、そのことで問題なく陣が発動したことを確認した。

「あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 光に包まれたため状態が確認できないが、苦悶の声を上げるミシェルは尋常ではない。いきなりのことで驚いたのだろう、ジゼルは目を見開き、持ち上げたカップもそのままに固まっている。

 陣が一度発動したらそう簡単には止めることなど出来ない。簡単な陣なら力業で壊せるが、今回のように複雑で高度なものは大人しく陣が止まるのを待つのが最短かつ最善の方法なのだ。

 そしてセルジュは、達成感からか口元に笑みを湛えながら、ことの成り行きを見守っていた。

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