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間が悪い

間が悪い2 ~大型ショッピングモール駐車場での戦い~

作者: 相原ミヤ

 間が悪い。

 とにかく私は間が悪い。


 間が悪いと運が悪いは似ているけれど、私は違うと考えている。「運が悪い」はどこか悲観的になるけれど、「間が悪い」は哀しい笑い話になるのだ。飲み会の話題に事欠くことが無いのが、間が悪いことの唯一の利点。他の人が思うほど、間が悪いのは良いことではないのだけれども。間が悪い話をして、笑う人は八割。同情する人は一割五分。共感する人が残りの五分。


 とにかく私は間が悪い。

 私の間の悪さは筋金入りで、間の悪さのためについた溜め息は数え切れないほど。


 これまで私に降りかかった間の悪さの詳細は、いずれ紹介するとして、今回は大型ショッピングモールの駐車場で私が戦った話を聞いて欲しい。間の悪い私が精一杯戦った、この激しい戦い。無言の火花が飛び散るこの戦い。これはよくある話。



 ある日、私は混雑している大型ショッピングモールに足を運んだ。ちょうどバーゲンのシーズンで、郊外にある大型ショッピングモールの駐車場には数え切れないほどの車が並んでいた。

 混雑する駐車場で人は四つの種類に分かれる。


①ハイエナ型

②クモ型

③ギャンブラー型

④羊型


もちろん私はハイエナ型。


 混雑した駐車場で、私は車を運転していた。間が悪い私がこのショッピングモールに来るまでに引っかかった信号は数え切れないほど。もちろん、近場の駐車場は満車の表示で、警備員が第二駐車場へと誘導していた。

 私は迷うことなく第一駐車場へと軽自動車を進めた。素直に警備員の誘導に従う羊型とは違う。羊型のように、警備員の誘導に従って第二駐車場へ行くことなく、僅かな可能性に掛けて第一駐車場へと入る。

ここでハイエナ型の私は獲物を探した。獲物とは車へ戻る客のこと。車へ戻り、家路へつく客の後をつけて空いた駐車場へと車を滑り込ませる。それがハイエナ型の手口だ。満車表示の第一駐車場へと車を進めた私は、獲物を探すために左右を確認した。その目はサバンナで生きるハイエナそのもので、獲物を探知する第六感と鋭い嗅覚で辺りを探った。


 私の目に飛び込んだのは、両手に大きな荷物を抱えた親子連れ。母がベビーカーを押し、父が大きな荷物を抱えている。絵に描いたような幸せそうな家族。第一駐車場に入ってすぐに獲物を見つけることが出来るとは、間の悪い私にとっては最高の出来事だ。

(今日の私はついている)

私は心の中でガッツポーズをした。

私は徐行運転で親子連れの後を追った。ここで注意しなければならないのが、クモ型とギャンブラー型の登場だ。



 クモ型とは、一箇所に留まり場所が空くのを待つこと。その待ち方は巣で獲物を待つクモのようで、私はクモ型と名づけた。


 ギャンブラー型とは、闇雲に動き回り駐車場が空いた駐車場を探す。勘だけを頼りに動くその姿は、一か八かに賭けるギャンブラーのようで、私はギャンブラー型と名づけた。



 親子連れをつけていると、私の前にミニバンが姿を見せた。運転しているのは若い兄ちゃん。運転している兄ちゃんは、親子連れに目を向けていたが、私が視線で威嚇した。

(ちょっと、兄ちゃん。この親子連れは私がつけているの。よそ行ってよ)

きっと、私と同じハイエナ型の兄ちゃんだ。隣に乗せている彼女のために、入り口に近い駐車場を探しているのだろうけれど、そうは行かない。その親子連れを譲ったりしない。

 どうやらミニバンの兄ちゃんは私の威嚇に負けたらしい。尻尾を巻いて逃げるハイエナのように、ミニバンの兄ちゃんはどこかへ去っていった。


 親子連れは先へ進む。私は親子連れの後を追う。


 私の前に現れたのはクモ型のおばちゃんが運転するセダンだ。親子連れはセダンの方向へと足を進めていく。


 ここが勝負の時だ。


 敵は根城をこの場所と決めたクモ型のおばちゃんだ。こんなところで車に乗られたら、クモ型のおばちゃんと、ハイエナ型の私の一騎打ちになる。どうも、おばちゃんに勝てるきはしない。

(もう少し先の列へ!)

私は祈った。今日の私はついている。星座占いでは一位になった。これだけで十二分の一の確率。大丈夫、ついている。私は祈った。


 神は私の願いを聞き入れ、親子連れはもう一列先へと進んだ。


 私は親子連れの後を追って左折した。徐行で後を追っている間に、ギャンブラー型と思われるワゴン車とすれ違った。あのおじちゃんよりも先に停めたい。私は車を進めた。


 そして、親子連れはとうとう車にたどり着いた。


 私は心の中だけでなく、実際にガッツポーズをしたことは言うまでもない。



 親子連れは車の鍵を開く。


 私はハザードを付けて待機する。


 親子連れはベビーカーを畳みトランクへ。買った荷物を後部座席へ。


 私の心臓は高鳴る。


 あと少し……


 あと少し……


 母親が子供を抱き、車の外で父親と話している。何を話しているのか、私のいるところからでは分からない。父親が携帯電話を取り出し、どこかへ電話を掛けている。


 何かトラブル?

 頼むから止めてよ。


 私は祈った。祈りは神へ届く?


 両親は困ったような表情をし、子供を抱いて車から離れ始めた。ハイエナ型の私の存在に気づいているのか、父親が片手を挙げて私に頭を下げた。親子連れが進む先は、ショッピングモールの入り口だ。

(何?)

(何があったの?)

状況が理解できない。ここまで来て何?何か買い忘れたの?何か頼まれたの?何でもいいけど、私はどうなるの?このまま、店に戻るつもり?



――カーン

 何かが私の頭の中で音を立てた。



 その時、私の心に光が差した。隣の列の車が駐車場を後にしたのだ。間の悪い私にとっては、かなりの幸運。諦めたときに舞い降りる神。


 私は車を発進させた。空いた駐車場へと近づく。しかし、私としたことが見落としていたことがある。そこは、クモ型のおばちゃんが陣取っていた場所だ。クモ型のおばちゃんは、獲物を取るクモのように素早い動きで空いた駐車場に頭から突っ込んだ。



――カーン

 何かが私の頭の中で音を立てた。


 その時、また私は見つけてしまった。私がつけていた親子連れの車の斜め前の車が発進したのだ。私は再び車を発進させて隣の列を目指す。そこは今まで私がいた場所。これで停められないとなっては、自分の間の悪さが信じられないくらい滑稽に思えてくる。私が左折のウインカーを出し、車を隣の列へ進めようとした時、私の前にギャンブラー型のおじちゃんが姿を見せ、勝ち誇ったように私より先にハザードをつけて車を入れてしまった。その差、オリンピックの百メートル走で金メダルと銀メダルの勝敗を分けるほどの差。写真判定をして欲しいほどだ。


――カーン

 また、私の中で何かが音を立てた。



 私は諦めた。



 そもそも、間の悪い私がハイエナ型を気取ろうとしたことが間違っていたのだ。間が悪いなら、おとなしく羊型になれば良い。私は溜め息を三度ついて、第二駐車場へと車を進めた。


 第二駐車場は敷地から少し離れた空き地だ。公道へと車を進めて、進めた。


 そこで私は再度溜め息をついた。私の威嚇に負けた、同じハイエナ型の兄ちゃんが、彼女と手を組み嬉しそうに歩いているのだ。兄ちゃんは諦めて第二駐車場へ停めたらしい。私は行公道を走る。


――カーン

 私の中で、また何かが音を立てた。第二駐車場にも満車の看板が立てかけられ、第三駐車場へと警備員が誘導していた。第三駐車場は第二駐車場から、更に離れたところにある。歩いて十分の距離。


――カーン


私は間が悪い。本当に間が悪い。

この駐車場の戦いも敗北。一体、どうすれば間が良くなれるのか、知っている人がいたら教えて欲しい。切実な願い。


次の戦いは……


同じ間が悪い話で、「間が悪い ~スーパーレジでの戦い~」があります。

間が悪い話を楽しんでいただけたのなら、そちらもどうぞ。


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