「お客様、その件につきましては」 婚約破棄を告げる王子をクレーマー対応マニュアルで完全論破したら、後ろで宰相が爆笑している
卒業パーティの夜、豪奢なシャンデリアの下でセリア・フォンタニアがシャンパンに口をつけた、まさにその瞬間だった。
「セリア・フォンタニア! 俺はお前との婚約を破棄する!!」
ホールが凍りついた。
百人以上の貴族子弟が一斉に息を呑む。
セリアは、グラスを静かにテーブルに置いた。
くるり、と振り返る。
婚約してからの三年間、セリアは王子の苦情処理を、王子本人への対応も含めて、ほぼひとりで引き受けてきた。感情的な相手に感情で返しても何も解決しない、ということを、彼女は経験として知っていた。
「貴重なご意見、誠にありがとうございます」
完璧な、一ミリも崩れない営業スマイル。
「して、ご用件は?」
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バカ王子こと第三王子アルベルト・ヴァレナス殿下は、一瞬だけ固まった。
だが、鼻をふんと鳴らして続ける。
「決まってるだろ! お前がエリカ嬢をいじめていた証拠がある! 俺はちゃんと調べたんだ!」
その言葉とともに、隣に立つ男爵令嬢――エリカ・ルーシェが前に進み出た。
淡いピンクのドレスを揺らし、上目遣いで潤んだ目をセリアへ向ける。
「……わ、わたし、ずっと怖かったんです。公爵令嬢様に睨まれるたびに、もう学園に来られないかと思って……毎晩泣いていました……」
しくしく。
ホールがどよめいた。
セリアは、スマイルのまま、エリカを見た。
そして、アルベルトへ戻した。
「お客様のご申告はしかと承りました。ただ――」
一呼吸。
「お客様の個人的な見解に基づきます対応は、当方では致しかねます」
「……は?」
「客観的な証拠書類と、正式な申立書類をご準備の上、改めてご連絡いただけますでしょうか。誠に恐れ入りますが、口頭でのご申告のみでの対応は、当方の規定上、行っておりません」
沈黙。
「き、規定……?」
アルベルトは目をぱちぱちさせた。
「俺は王子だぞ? この俺が直接言ってるんだぞ? 規定がどうとか、そういう話じゃないだろ普通」
「さようでございますか」
「さようでございますか、じゃない!」
「さようでございますね」
「変えるな!!」
ホールの隅で、誰かが必死に笑いをかみ殺す気配がした。
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「とにかく! 証拠はある! エリカ嬢の侍女が全部見ていたんだ!」
「侍女様の目撃証言でございますね」
「そうだ!」
「承知いたしました。では、その侍女様の署名入り証言書と、日時・場所・状況を明記した申立書を、近衛騎士団の公式窓口にご提出いただけますでしょうか」
また沈黙。
「……騎士団?」
「対人トラブルの正式申請は騎士団の第三窓口が担当しております。受付時間は平日の午前九時から午後五時まででございます。本日は夜間のため窓口は閉まっておりますが、明日以降のご利用をお勧めいたします」
「夜間だから……って、今の話をしてるんだ俺は!!」
「ご不便をおかけして、誠に申し訳ございません」
申し訳なさそうな顔で、セリアは深く頭を下げた。
「なお、窓口に不備があると受理されないことがございます。書類の書き方につきましては、騎士団のご担当者様にご確認くださいませ」
「俺は婚約破棄の話をしてるんだ!! 書類とか窓口とか、そういう話をしたいわけじゃ――」
「ご婚約の解消につきましては、王室典礼局が担当窓口となっております」
セリアはにっこりした。
「典礼局もやはり夜間は閉まっておりますが、明日の午前中にご連絡いただければ、手続きをご案内いただけるかと存じます。段取りよく進めれば、そうですね、早くて三か月ほどで完了するかと」
「三か月!?」
「婚約は公的な契約でございますので」
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アルベルトは少し離れたところに控えていた側近に、こそこそと耳打ちした。
側近が何か返す。アルベルトが大きく頷く。
そして、居住まいを正して、深呼吸した。
「……フォンタニア嬢」
急に口調が変わった。
なぜか丁寧になっている。
「俺は今回の件につきまして、正式な申立書を提出することを、検討しております。ついては、提出先の担当窓口を、改めてご確認させていただけますでしょうか」
ホールが静まり返った。
側近が「うまくやれてますよ殿下」という顔で小さくガッツポーズをしている。
セリアは一秒だけ間を置いた。
「近衛騎士団の第三窓口でございます」
「なるほど。受付時間は」
「平日の午前九時から午後五時まででございます」
「わかった。では俺は、明日の朝一番で――」
「なお、申立書の件でございますが」
「なんだ」
「本件はフォンタニア家対王室の案件となりますため、騎士団ではなく、王室内部監察局が正式な一次窓口となっております」
間。
「……さっきは騎士団と言った」
「対人トラブルの一般的な窓口は騎士団でございます。ただし、相手方が王族の場合は内部監察局への申請が優先されます。誠に紛らわしく、ご説明が不足しておりました。申し訳ございません」
「……では内部監察局に」
「ただし内部監察局への申請には、事前に法務官の署名が必要でございます」
「法務官は」
「王宮の法務局、平日午前のみの受付でございます」
アルベルトの丁寧モードが、みるみる崩れていった。
「……なんで増えるんだ窓口が」
「申し訳ございません。手続きというものは、進めるほど複雑になる傾向がございます」
「お前、わざとやってるだろ」
「とんでもございません」
ホールのどこかで、笑いを堪えきれなかった誰かが、口元を抑えながらよろけた。
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アルベルトは額に青筋を浮かべながら、拳を握った。
「い……いいか、セリア。俺はな、お前のことをずっと我慢してたんだ。笑わない、感情がない、話しかけても書類みたいな返事しかしない。はっきり言って、お前みたいな女が王妃になったら国民が気の毒だ。その点エリカ嬢は違う。明るくて、純粋で、俺のことを心から慕ってくれている。これが本物の愛というものだ!」
エリカがうっとりした顔で王子を見上げた。
「殿下……」
「エリカ嬢……」
二人の間に甘い空気が流れる。
セリアは静かに待った。
十分に空気が甘くなったところで、口を開いた。
「貴重なご意見、誠にありがとうございます。ご不満の点につきましては、今後のサービス改善の参考とさせていただきます」
「サービスの話をしてるんじゃないッ!!」
「殿下の感情面のご不満につきましては、担当の範囲外となっております。誠に恐れ入りますが、カウンセリング窓口のご利用をご検討ください」
「カウンセリング!? 俺がカウンセリングに行くのか!?」
「心の充実は大切でございます」
ホールの隅で、複数人が同時に何かを噛み殺した音がした。
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エリカが一歩前へ出た。
袖でぐっと目元を押さえ、か細い声を絞り出す。
「……わたしは、ただ幸せになりたかっただけなんです。でも公爵令嬢様がいる限り、殿下も振り向いてくださらなくて……わたし、そんなつもりじゃなかったのに……なんでこんなに……ひどい……」
しくしく、しくしく。
「エリカ嬢……!」
アルベルトが手を伸ばす。
ホールの空気が傾いた。
セリアは一秒だけ待ってから、静かに言った。
「ルーシェ様、お気持ちお察しいたします」
深々と頭を下げる。
「なお、殿下のご感情の管理につきましては、当方の業務範囲に含まれておりませんでした。ご不便をおかけしたことは遺憾に思います。今後はより適切な方にご担当いただくことで、ルーシェ様のご不満も解消されるのではないかと存じます」
「……え?」
「つまり、本件に関しましては、当方に非はない、という結論でございます」
エリカの涙が、ぴたりと止まった。
「そのお顔でおっしゃるのやめてもらえますか……?」
「申し訳ございません。これが平常運転でございます」
しくしく、が完全に止まった。
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アルベルトが限界を超えた。
「もういい!! 話にならん!! お前みたいな女、どこの誰も貰い手なんかいないぞ!! そんなだから婚約者に逃げられるんだ!! 俺はお前なんかより百倍価値のあるエリカ嬢を選ぶ! これは俺の意思だ! 俺が決めたことだ! 俺は王子だ! 俺には権限がある! 誰も文句は言えん!! だいたい何だこのクソ対応は!! 事務的な返答で誤魔化してばかりじゃないか!! そんなに規定だ窓口だと言うなら、お前の上司を呼んでこい!! 責任者を出せ!! 上の者を呼べーーッ!!!」
ホールに、しん、と沈黙が落ちた。
長い、長い沈黙だった。
セリアは、その沈黙の中で、ゆっくりとアルベルトの背後に視線を移した。
「……かしこまりました」
静かに言った。
「お呼びいたします」
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ホールの奥扉が、静かに開いた。
現れたのは二人。
白髪交じりの壮年の男と――その隣に、黒髪の、氷のように端正な顔の男。
国王、ヴェルナー・ヴァレナス陛下。
そして、宰相、カイン・エルネスト卿。
会場が水を打ったように静まり返った。
アルベルトの顔から、みるみる血の気が引いていった。
国王、ヴェルナー・ヴァレナス陛下は、ゆったりとした足取りでセリアの前に歩み出た。
そして、深々と頭を下げた。
「上の者でございます。此度はご不快をおかけいたしまして、誠に申し訳ございません」
ホールが、完全に凍りついた。
国王が、頭を下げている。
セリアは一秒だけ間を置いた。
「……ご丁寧にありがとうございます」
「弊方の不良品が、多大なるご迷惑をおかけしたものと存じます」
国王は顔を上げた。穏やかな笑顔だった。
ただし、目が、まったく笑っていなかった。
「ち、ちちうえ……」
「アルベルト殿下」
国王はゆっくりと息子へ向き直った。
声のトーンは変わらない。穏やかで、丁寧で、静かだった。
「殿下は先ほど、上の者を呼べ、とおっしゃいました」
「は、はい……」
「呼ばれました」
「……はい」
「では殿下、ご用件を伺いましょうか」
アルベルトの口が、開いたまま閉じなくなった。
「ご用件が、おありなのでしょう? 上の者を呼べとおっしゃったのですから」
「そ、それは……その……」
「ございませんか」
「…………」
「さようでございますか」
国王は、息子から視線を外した。
カインを振り返る。
「カイン、外交的には」
「由々しき問題かと」
宰相カイン・エルネストは、口元を指で軽く押さえたまま、静かに答えた。
「由々しき、ではすまんかもしれん」
「おっしゃる通りかと」
「お前はこの状況をどう見る」
「婚約解消のご希望は承りましたが、婚約者側の令嬢が一切動揺していない点が、外交的には最もダメージが大きいかと」
「だな」
国王はセリアへ向き直った。
「フォンタニア嬢。当方の不手際で、不良品をご覧に入れてしまい、大変ご不便とご不快をおかけいたしました」
不良品、という単語が、ゆっくりとホールに沁み渡った。
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「ち、ちちうえ! 不良品とはなんですか不良品とは!! 俺は王子ですよ!?」
「ご指摘はごもっともでございます」
国王は穏やかに頷いた。
「王子であることと、不良品であることは、両立いたします」
「なんで丁寧に肯定するんですか!!」
「ご不満なお気持ちお察しいたします」
「お察しで終わらせないでください!!」
「善処いたします」
「してください!!」
カイン・エルネストが一歩前に出た。
彫刻のように整った顔で、アルベルトを見下ろす。
「殿下。確認をさせてください」
「な、なんだ」
「殿下は本日、卒業パーティという公式の場において、婚約者を婚約相手の同意なく一方的に公開破棄しようとした。正しいですか」
「そ、それは……」
「殿下は本日、婚約者に対し、証拠書類も申請手続きも経ずに口頭でいじめを断定し、公衆の面前で申し立てようとした。正しいですか」
「で、でも証拠が――」
「証拠があるなら正式な手続きを踏むべきでしょう。殿下が正規のルートを飛び越えた理由を伺えますか」
「俺は王子だから――」
「つまり、王族の権威を利用して手続きを恣意的に省略しようとした、ということですね」
アルベルトの口が開いたり閉じたりした。
「加えて」
カインは続けた。
「殿下は本日のご発言の中で、フォンタニア嬢に対し、貰い手がいないなどの人格を傷つける言葉を公の場で発された。これは貴族規範第十二条、名誉毀損に該当します」
「じゅ、十二条……?」
「殿下がご存知ないのは理解しています。殿下の学業成績は存じ上げておりますので」
会場のどこかで、忍び笑いが漏れた。
アルベルトが真っ赤になる。
「き、騎士団長! 騎士団長はどこだ! お前は俺の味方だろう!!」
返事はなかった。
騎士団長は入り口付近で腕を組み、石像のように立っていた。
目が合うと、ゆっくりと首を横に振った。
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「エリカ! エリカ嬢はどこだ!!」
アルベルトが振り返ると、エリカ・ルーシェはすでに会場の端の壁際に移動していた。
そのうえ、なぜかセリアの側にいた令嬢たちと肩を並べ、なにやら話し込んでいる。
「え、エリカ嬢!? 何をしてるんだ、こっちに来い!」
「あ、あの……」
エリカはおどおどと殿下を見た。
「わたし、さっきから見ていたのですが……殿下、完全に負けていらっしゃるので……」
「負けてない!!」
「完全に負けていらっしゃいます」
令嬢たちが静かに頷いた。
エリカは申し訳なさそうに続ける。
「そのう……わたしも、ずっと追いかけていたのですが、殿下が怒鳴るたびに公爵令嬢様が静かに捌いていくのを見ていたら……なんというか……」
「なんだ」
「どちらについていくべきか、だんだん分かってきてしまいまして……」
「裏切り者ーーッ!!!」
「今の段階でご判断なさったことは、ルーシェ様にとって賢明な選択かと存じます」
セリアが静かに言った。
「わかってたんですか?」
「途中から気配がありましたので」
エリカはしばらく考えてから、深々と頭を下げた。
「あの……今日のことは、大変失礼いたしました」
「ご心配なく。本件は既にクローズ扱いとしております」
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国王が、ゆっくりとアルベルトへ向き直った。
「アルベルト殿下」
「な、なんですか」
「殿下が王位継承に向いていないのではないか、とかねてより懸念しておりました」
「そ、そんなことは……」
「本日の件で、確信に変わりましたことをご報告申し上げます」
「報告しないでください自分の息子に!!」
「ご意見は承りました」
国王は微笑んだまま続けた。
「廃嫡の詔を、来週の朝議にて発布いたします。それまでの間、自室にてお待ちいただけますでしょうか」
「待ちません!! 話し合いましょう! なんでも言うことを聞きます! 書類も書きます! 窓口にも行きます!!」
「ご意欲はたいへん結構でございます」
国王は穏やかに頷いた。
「ただ、手続きというものはタイミングが重要でございまして」
「まだ間に合いますよね!?」
「フォンタニア嬢がご指摘くださいました通り、夜間は窓口が閉まっております」
国王は静かに言った。
「明日以降にお越しください」
「ちちうえが窓口の話をするんですか!!」
「当方といたしましては、正規のプロセスを踏んでいただければと存じます」
「父親が言うことじゃないですよそれ!!!」
その言葉とともに、カイン・エルネストが初めて、人前で声に出して笑った。
くっ、と短く。
すぐに口元を手で押さえたが、肩が揺れているのは誰の目にも明らかだった。
国王はカインをちらりと見た。
「カイン」
「……申し訳ございません」
「いや」
国王は静かに言った。
「私もいっそ笑いたい」
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騎士団員が静かにアルベルトを退場させ、エリカは侍女に付き添われて帰宅した。
やがてホールに、ゆっくりと空気が戻ってきた。
セリアは深々と一礼した。
「本件、これにてクローズとさせていただきます。皆様のご清聴に感謝申し上げます」
向き直り、出口へ歩き始める。
仕事は終わった。帰ろう。
そう思った矢先、背後から声がかかった。
「フォンタニア嬢」
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振り返ると、カイン・エルネストが立っていた。
近くで見ると、想像以上に整った顔だった。
普段は「氷の宰相」などと呼ばれているらしいが、今の目元にはかすかに赤みが残っている。つい先ほどまで笑いをこらえていた人間の顔だ、とセリアは判断した。
「エルネスト宰相閣下」
「一つ伺っていいか」
「はい」
「……あの『夜間は窓口が閉まっている』は、即興か?」
「はい」
「どこまで準備していた」
「婚約解消は典礼局、対人申請は騎士団第三窓口、と把握しておりました。残りは状況に合わせて」
「窓口が途中から増えていたが」
「殿下が学習しようとされたので、少し調整いたしました」
カインはしばらく何も言わなかった。
「……なるほど」
静かに言ってから、続けた。
「単刀直入に申し上げる。君のその冷静さと交渉術を、ぜひ宰相府でお借りしたい」
「と、申しますと」
「筆頭補佐官として迎えたい。待遇は今の三倍。残業は原則なし。休暇は年に二十日。それと」
少し間を置いて、カインは言った。
「不合理なクレームはすべて正式ルートに回す権限を与える。君が直々に対応する必要はない」
セリアは、その言葉を一瞬、噛みしめた。
年二十日の休暇。
残業なし。
クレームは正規ルートへ。
胸の中で、三年分の何かが、静かにほどけるような気がした。
「ご提案、ありがたく受け取ります」
一礼しかけて、ふと止まる。
「一点だけ、確認させてください」
「なんだ」
「先ほど笑っていらっしゃいましたね」
カインが、微かに固まった。
「……見えていたか」
「肩が揺れておりました。三回」
「……三回」
「四回目のときには声が出ておりましたので、実質四回かと」
カインはしばらく何も言わなかった。
それから、少しだけ苦いような、照れているような、そういう顔をして言った。
「……採用したら、私もあしらわれそうだな」
「宰相閣下であれば、正式ルートではなく直接ご対応いたします」
セリアがそう言うと、カインはもう一度、今度はもっとはっきりと口元をゆるめた。
「それを聞いて安心した」
差し出された手を、セリアは取った。
窓の外から月明かりが差し込む中で、セリア・フォンタニアの口元には、営業スマイルとは少しだけ違う、柔らかい笑みが浮かんでいた。
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翌朝、宰相府に届いた引継書類の末尾には、こう書かれていた。
「本日より着任いたします。よろしくお願い申し上げます。 フォンタニア・セリア」
受け取ったカイン・エルネストは、珍しく長い時間をかけてそれを読んだ。
そして、誰もいない執務室で、静かに微笑んだ。




