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禁じられていた遊び(スマホの章)  作者: 嬉々ゆう


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5/6

スマホの章 第5話

禁じられていた理由。

それが、少しだけ見えます。

 僕は、ごく平凡な中学生、『佐田 元気』。 イジメっ子でもなければ、イジメられっ子でもない。

 どちらかと言うと、イジメを目撃しても何も出来ずに、ただ見て見ぬ振りをして、

 何時も安全地帯に居るような、一番卑怯な奴なのかも知れない。


 そんなある日、イジメっ子を撃退する方法を思いついた。

 ある、恐怖体験投稿サイトで見つけたものを、実際にやってみようって事になった。

 それは、スマホのある使い方で、”逆さ男”を呼び出し願いを叶えてもらうというものだ。

 その願いとは、イジメッコの撃退。

 そして撃退したいソイツの名は、憎っくきイジメッコの立川君。

 僕は比較的仲良しなクラスメイトの赤木君と馬場君、そしていつも立川君にイジメられている稲見君を連れて、学校近くの神社の境内へ向かい、そして実行した。

 だが僕達は、スマホを使って”逆さ男”を呼び出したまではいいが、立川君の勝手な行いにより全員が女の子にされてしまった。

 そして僕は今、”佐田 ミキ”という名の女の子として存在している。


 家に帰ると、最初から僕が女の子だったかのように家族は接してくる。

 その後、女の子のまんまで学校へ行ったが、やっぱり学校でも同じように、僕は最初から女の子だったかのようになっていた。

 でも、男に戻りたかった僕は、同じように女の子にされてしまった稲見君と赤木君と馬場君、

 そして立川君ともう一度神社に集合し、昨日と同じ時間に再びスマホを使って逆さ男を呼び出し、今度は元の男に戻してもらおうと考えたのだった。

 だが、立川君は親父さんの急な転勤で九州へ引っ越してしまい、稲見 サキ(元 稲見 サトシ)には嫌われてしまうしで、

 結果二人もメンバーが足りなくなってしまい、結局その日は神社へ集まる事はできなかった。


 この先僕は、男に戻れる事ができるのだろうか?

 このまま女の子として、生きてゆくしかないのだろうか?



 サキ:

「今のままでいいの! もう、放っておいて!」


 ミキ:

「な、ちょっと待ってよ、サキ!」


 サキ:

「ふん! あんたにサキなんて呼ばれる筋合いは無いわ!」


 ミキ:

「!?」



 サキは、そう言ってミキの側から離れて行った。

 どうやらサキは、もう二度とスマホを使って逆さ男を呼び出す事をしない気らしい。


 絶体絶命!

 このままでは、男に戻る方法が絶たれてしまう。

 ミキは、逆さ男をまた呼び出すことができるのだろうか?

 そして、男に戻る事ができるのだろうか?



 スマホの章 第5話



 ・⋯━☞教室前廊下☜━⋯・


 ミキ:

「だって、サキのためにと思ってした事なのに」


 ピチャ!



 ミキの瞳から頬をつたって、一滴の涙が落ちた。

 ミキは泣いていた。

 友達のためと思ってした事なのに、結局は友達を困らせ嫌われる事になってしまった。

 今までだってそうだった。

 なにしろ、良かれと思ってした事が、殆ど裏目にでてしまう。

 悔しくて悲しくて情けなくて、自分自身が嫌になってくる。

 掛け替えの無い友達を失くしてしまったような、そんな心境だった。


 するとそこへ、今朝ミキとサキのスカートを捲った男子達がやって来てミキに聞く。

 この二人は、ミキが男子の頃はまともに話などした事がなかったが、女子達にそこそこ人気のある奴らで、藤堂と野々村という。

 時々女子達のスカートを捲ったりなどのイタズラもするのだが、まったく怨まれる事などなかった。

 男子だった頃のミキからすれば、羨む存在でもあった。



 藤堂:

「あれ? どうしたのミキちゃん?」


 野々村:

「!……泣いてるの?」


 ミキ:

「すん……すん……」


 藤堂:

「あれ? あれぇ~? どうしたんだよぉ~? なんで泣いてるんだぁ?」


 野々村:

「もしかして、誰かにイジメられたのか?」


 ミキ:

「う……ううぅ……」



 藤堂と野々村は、今朝とは違ってミキを優しく気遣ってくれる。

 ”そんなんじゃないのにな”と思いながらも、気遣ってもらうと余計に泣けてくる。



 藤堂:

「ウチのクラスのヤツか?」


 野々村:

「言ってくれ! 誰だ、ミキちゃんを泣かしたヤツは?」


 藤堂:

「それとも何か悲しい事でもあったのか?」


 ミキ:

「ひっく……えっふ……へはっ…へはっ…」



 涙をこれ以上見せたくない、男子の前でなんか泣きたくないと思うのだが、優しくされると益々ググッと泣きたくなるものだ。

 取り留めも無く流れる涙は、ぬぐってもぬぐってもきりが無いほど溢れてくる。

 目の奥や耳が熱くて仕方が無い。 とにかく誰かの胸に縋りたい気分だった。

 もうミキ自身、どうにもできなかった。



 藤堂:

「誰だソイツ? 俺がボコボコにしてやる!」


 野々村:

「ミキちゃん、言ってくれよ? いったい誰にイジメられたんだ?」


 ミキ:

「そんなんじゃ……ひっく……ないの」


 藤堂:

「え?」


 野々村:

「うん? なんだって?」


 ミキ:

「へはっ……へはっ……」


 藤堂と野々村:

「「うん?」」


 ガバッ!


 ミキ:

「わぁあぁあぁ~~~ん!!」


 藤堂:

「?!」


 野々村:

「うお!?」



 ミキは、藤堂の胸に飛び込むようにしがみ付き、顔を埋めて思い切り泣いていた。

 藤堂は、どうしたら良いのか分からず、ただ両手を上げて唖然

 野々村も、何が何だか理解できずに、ただ泣き叫ぶミキを呆然と見ていた。

 そんなミキの泣き叫ぶ声を聞いて、クラスの生徒達が廊下へ一斉に飛び出してきた。



 バタバタバタバタ!


 男子A:

「なんだなんだ!?」


 男子B:

「どうした!?」


 女子A:

「やっ! なにぃ?」


 女子B:

「なんで佐田さんが泣いてんの?」


 生徒達:

「「「「~~~??」」」」


 ミキ:

「ふぇえぇえぇ~~~ん! えぇえぇ~~ん!!」


 藤堂:

「いやあの」


 野々村:

「……」



 藤堂の胸に縋り付いて泣いているミキ。

 その側で、ただオロオロとして何も言えない野々村。

 そんな様子を見た生徒達は、当然ながら誤解してしまう。



 男子A:

「おい、野々村! お前、佐田に何をしたんだ?」


 野々村:

「ちょ、ちょっと待てよ! 俺、何もしてねーよ!」


 女子A:

「じゃぁ、なんで佐田さんが藤堂に縋りついて泣いているのよ?」


 藤堂:

「あ、いや、あの俺達にも良く分からないんだ」


 生徒達:

「「「「うぅ~ん?」」」」


 野々村:

「ほんとだって」


 生徒達:

「「「「ふぅ~ん」」」」


 藤堂と野々村:

「「「……」」」


 ミキ:

「ひっくふぇえぇ」



 結局その後は、二人の女子がミキを連れて保健室へ向かい、一応はこの場を凌ぐ事ができたのだが、

 藤堂と野々村の二人は、男子達に疑いをかけられたままだった。

 ミキは、ただ泣くばかりで何も話さないのだから、疑いをかけられても仕方が無いと言えば仕方が無い話だが



 女子A:

「ちょっと、保健室へ行ってくるね」


 生徒達:

「「「……」」」


 女子B:

「ちょっと待っててね」


 生徒達:

「……」



 女子AとBの二人が、ミキの肩を抱きながら保健室へ向かった。

 その後



 男子A:

「なんだってんだ? 何があったんだよ?」


 男子B:

「どうせまた、スカートでも捲って泣かしたんだろ?」


 野々村:

「違うって!!」


 藤堂:

「ただ俺達はミキちゃんに、なんで泣いているのか聞いただけなんだよ」


 女子C:

「えぇ? じゃぁ佐田さんは、あんた達が気付く前から泣いていたって言うの?」


 野々村:

「そうだよ! だから俺達、どうしたのかぁ~って思って、ただ声をかけただけなんだよ」


 藤堂:

「そうそう! そしたら急に大声で泣き出しちゃって」


 女子C:

「それ、ほんとなの?」


 藤堂と野々村:

「ほんとだって!」


 サキ:

「……」



 そのときサキは、藤堂と野々村を囲む生徒達の後ろで、ただその場の成り行きを見守っていた。



 ・⋯━☞保健室☜━⋯・



 そして、保健室……



 保険の先生:

「なぁに?」


 女子A:

「あの……」



 保険の先生は何か書き物をしていたようだが、その手を止めて椅子をクルリと回して入ってきた女子達に聞く。

 そして女子達は言う。



 女子A:

「ちょっと、いいですか?」


 女子B:

「佐田さんが落ち着くまで」


 ミキ:

「すん……すん……へはっであっく」


 保険の先生:

「ふん。 ま、いいわ。 入りなさい」


 女子達:

「ありがとうございます」



 保険の先生は、そう言ってまた椅子をクルリと回して机に視線を戻し、また仕事を続ける。

 女子達は、ミキの肩を抱きながらベッドに座らせてくれた。

 そして顔を覗き込むように、ミキを心配してくれる。



 女子A:

「ねぇ、どうしたのよ? 野々村君に何か言われたの?」


 ミキ:

「すん……すん……う、うぅん」



 ミキは、手で顔を覆いながら首を横に振る。



 女子B:

「じゃぁ、他の誰かにイジメられたとか?」


 ミキ:

「うぅん」



 ミキは、また首を横に振る。



 女子A:

「じゃぁ、なんなの? 何があったのよ?」


 女子B:

「ねぇ、話して? 私達にも話せないことなの?」


 ミキ:

「……」



 そう言われても、話せるはずが無い。

 それにミキは、この二人の女子達とは女の子になるまで、まとも話した事も無かったのだから。

 この二人の女子達は、”安達 由利”と、”草薙 奈那子”という。

 女の子というものは、誰か女子が泣いていたなら、気遣うものである。

 ミキは、今までこんな扱いをされた事が無かったため、自分でもどうすればいいのか何を言えばいいのか解らない。

 そのため自分の中で切羽詰ってしまって、とうとう爆発してしまうのだった。



 ミキ:

「もういいの」


 安達:

「え?」


 草薙:

「なにが?」


 ミキ:

「もう、いいの! いいのいいの!」


 安達:

「な、なによ?」


 草薙:

「佐田さん?」


 ミキ:

「いいの! いいの! もう、何だっていいの! 全部、私が悪いのよー! わぁあぁあぁ~~~ん!」


 女子達と保険の先生:

「「「!?」」」



 突然、張り詰めていた糸が切れたように泣き出したミキ。

 そんなミキを、取り付く島も無いかのように、ただ見守る安達と草薙。

 保険の先生も、ミキが泣く理由が解らないだけに、かける言葉も無い。

 そんなとき、その場を空気を一転させるかのように、保健室のドアが開けられた。



 ガララララッ!


 安達と草薙と保険の先生:

「「「「!……」」」」


 サキ:

「……」



 そこに立っていたのは、サキだった。

 思い詰めたかのような面持ちで、少し目を赤くし今にも泣き出しそうな雰囲気。



 安達:

「稲見さん?」


 草薙:

「うん?」


 ミキ:

「!……」



 ミキは、安達が稲見の名を言ったので、驚いたように振り向いた。

 間違いなく、そこにはサキが立っていた。

 そしてサキは、目を涙でうるうるさせて、こう言った。



 ミキ:

「……」


 サキ:

「ごめん」

 ミキ:

「!……」


 安達と草薙:

「「え?」」


 サキ:

「ごめん! 佐田さんミキ、ごめん!」


 ミキ:

「!……」


 サキ:

「私、ミキの気持ちも考えずに、自分の事ばかり考えてた」


 ミキ:

「……」


 安達と草薙:

「?」


 保険の先生:

「ふっ♪」



 そのとき保険の先生は、ふっと笑って、また机に視線を戻して仕事を始めた。

 サキが入って来てミキに謝るところを見て、これで問題が解決したと感じたのだった。

 きっと、サキとミキが喧嘩をして、ミキがその悲しさに泣き崩れてしまい、そこへサキが来てミキに謝る事で、

 そしてこの問題は一件落着という風に考えたのだろう。

 でも、安達と草薙は何が何だか理解できない。


 そしてサキは言った。



 サキ:

「ごめんこんな事になったのは、ミキだけの所為じゃないのにね

 私、いつも何か上手くいかない事があれば、必ず誰かの所為にしていた。

 バカだよね でも、私が今のままで良いって言ったのは、本当の気持ち。

 だからミキは、そんな自分を責めないでほしいの。 ごめんね?

 ミキが望みを叶えたがっているのに、本当は私がミキの足を引っ張っちゃっているのにねごめんね? ごめん」


 ミキ:

「……サキ」


 安達:

「なんなの?」


 草薙:

「えぇ~っとあなた達、喧嘩していたの? だから佐田さんは泣いていたの?」


 安達:

「えぇえぇ~!? じゃぁ、誰かにイジメられたんじゃなかったの? これって、ただあなた達が喧嘩をしていただけ?」


 ミキ:

「え? あの……」


 サキ:

「ごめん! 実は、そう言う事なの」


 ミキ:

「!?……」


 安達と草薙:

「「なによそれぇ~!?」」



 やっとミキが泣いていた事情を把握した安達と草薙。

 でも、これは半分当たっているが、半分はサキのついた嘘である。



 草薙:

「っちぇ~! なんだか心配して損しちゃったぁ!」


 安達:

「ほんっと!」


 サキ:

「ごめん! 二人には迷惑かけちゃったね。 実は昨日、ミキが私のためにしてくれた事があったんだけど、

 そのあと、ミキが私の大事な物を失くしてしまったのよ。 その事で私、ミキが許せなくて責めちゃったの。」


 ミキと安達と草薙:

「「「……」」」


 サキ:

「でも、今はそんな物なんか、どうでも良い物だって気付いたの。

 ほんとに、ごめんね? もっと早くこの事に気付けば、ミキをこんなにも追い詰める事もなかったのに」


 安達:

「大事な物って?」


 ミキ:

「え?」


 サキ:

「それは、私とミキだけの秘密。 ね、ミキ?」


 ミキ:

「!……う、うん」



 ミキは、サキが上手く話を合わしてくれたのに気付き、咄嗟に頷いていた。

 安達と草薙は、益々納得がいかない様子。

 でも、これでミキが泣いていた訳が解り、そしてその喧嘩相手のサキとも仲直りできるのなら良しと、

 安達と草薙は二人を許してくれるのだった。



 草薙:

「はぁ~? 何よそれ~?」


 安達:

「そぉ~よぉ~! こんなに心配してあげたのに、あっさり自分達で解決ぅ~?」


 サキ:

「くすっ♪ ごめんごめん! でも、ほんと二人には感謝してる。 ありがとう!」


 安達:

「っふぅ~ん? ま、あんた達がそれで良いって言うのなら良いんだけどね」


 草薙:

「はぁ~あ、なんか心配して損しちゃったなぁ~」


 サキ:

「ごめんってぇ~」


 ミキ:

「ふふ♪」



 サキは、ミキを思ってそんな嘘をついてくれた。

 ミキは、サキという友達を失くしてしまったと思い悲しかったが、サキはミキを友達としてまた受け入れてくれた。

 すごく嬉しかった。 友達とは良いものだなと思った。

 このとき女同士の友情っていうものを、少し知ったような気がした。

 ミキは、この3人の女の子達となら、ずっと仲良しで居られるようなそんな気がしていた。

 もうこの時になると、男に戻るために神社にメンバーを集めるなんて事など忘れていたのだった。


 そのとき思い出した事があった。 廊下で自分を気遣って声をかけてくれた、藤堂と野々村の事を。

 その後、ミキとサキがクラスの皆に訳を話した事で、藤堂と野々村の疑いは晴れた。

 そしてミキは、その二人の男子達に、バレンタインデーのチョコをあげようと思ったのだった。

 特別、好きだからと言う訳ではなく、ただ迷惑をかけたし気遣ってくれた事もあり、そのお礼という気持ちでだった。

 自分を気遣ってくれた安達と草薙に感謝していたのだ。 男子の友達として。


 このときのミキの心は、完全に女の子をしていた。

 藤堂に対して”ありがとう”という感謝の気持から、何時しか”好き”に変わってしまっていた。

 学校に居るときも、家に居るときも、何時もミキの頭の中には藤堂の笑顔が浮かんでいた。

 ただ藤堂とすれ違うだけでも、心臓がドキドキものだった。

 まともに顔なんて見れなかった。 そんな気持が悟られるんじゃないかと、ただ俯いて足早に通り過ぎる事が多かった。

 そんな藤堂本人は、わざと気付かない振りをしているのか鈍感なのか、普段とまったく変わらない。

 でもミキは、”男だった僕が、男を好きになるなんて”という蟠る気持があったが、今のミキにはどうにも止まらなかった。



 そして、バレンタイン前日の放課後


 ・⋯━☞学校最寄りのスーパー☜━⋯・


 ミキは、学校からそれほど離れていないスーパーに居た。

 バレンタイン用に設定されたチョコとなると、普通のチョコよりも高くなるもので、中学生のミキの小遣いではちょっと厳しい。

 でも、お礼も兼ねてのチョコなので、あまり安いものだと気持ちが伝わらないと思った。

 最初は、自分で手作りのチョコをあげようかとも考えたが、流石に元男子だったミキには無理な事柄。

 だからと言って、本命だなんて思われたら恥ずかしい。 実は本命なのだが

 そんな微妙なところが難しかった。

 などと考えながら、チョコを選んでいると



 ミキ:

「ん~どれも高いなぁ」


 女子:

「ミキ!」


 ミキ:

「え? ユリ、ナナ!」



 後ろから名前を呼ばれて振り返ってみると、そこに立っていたのは、安達と草薙だった。

 今では、この二人とはとても仲が良くなっていて、名前で呼び合うようになっていた。



 ユリ:

「お客様、どんなチョコをお探しかしら?」


 ミキ:

「あ、いえ、あはは……(汗)」



 ユリは、わざとからかうような口調でミキに聞く。

 ミキはこのとき、ユリとナナにはチョコを買いに来た事がバレてしまったと観念する。



 ナナ:

「もしかして、藤堂君に?」


 ミキ:

「いっ!? いえ、あのちょ、ちょっとお礼にって思って」


 ユリとナナ:

「「ふふん♪」」



 すごく恥ずかしい。 顔だけでなく耳まで熱くなってくる。

 本当はお礼だけではなく、本命チョコを買うとバレていて観念しているはずだが、恥ずかしくてこの場から逃げ出したくなる。

 でも何とか負けじと踏み止まり、ミキも二人に反撃しようと問いかけるが



 ミキ:

「そ、そう言うあんた達は何なのよ? どうせあんた達も、チョコを買いに来たんでしょ?」


 ナナ:

「私はほら、本命なんて居ないもん! 義理よ、義理!」


 ユリ:

「私も!」


 ミキ:

「ふふぅ~ん」



 ミキは必死に二人に反撃したいがために聞いたのに、あっさりと”義理”だと言われてしまった。

 本当に義理なのかそうでないのかは不明だが、流石は女の子を生まれたときからしていただけはあり、こんな場に慣れているのか、二人は慌てる様子もなくサラリと言い放った。



 タッタッタッタッタッタ!!


 ミキ達:

「「「うん?」」」



 するとそのとき、慌てて駆けてゆく足音が聞こえたので、ミキ達は一斉にその方へ視線を向ける。

 それはミキ達と一緒に女の子になってしまった、あの赤木と馬場だったのだ。

 二人もこのスーパーへ来ていたのだった。

 きっと赤木と馬場も、男子の誰かにチョコをあげようと買いに来たのだろう。

 ナナとユリは、ニンマリといやらしい笑みを浮かべて、必死になって逃げて行く二人を呼び止めた。



 ナナ:

「ちょっと待ちなさいよ二人とも!」


 赤木と馬場:

 ギクッ!


 ユリ:

「なにも逃げる事もないでしょ? ほら、サヤカとクミもこっちへおいで!」


 赤木と馬場:

 オロオロ


 ナナ:

「ほらぁ! 何を恥ずかしがってんの? 女の子同士じゃない!」


 赤木と馬場:

「「……」」


 ミキ:

「……」



 ミキと一緒に女の子になってしまった赤木と馬場も、今ではナナとユリに名前で呼ばれるほどの仲になっていた。

 赤木は”マサル”から”沙耶香サヤカ”という名前に変わり、馬場は”ミツル”から”公美クミ”という名前に変わっていたのだ。

 サヤカとクミも、たとえ買うはずだったチョコが義理だとしても、男子にチョコをあげるという行為自体が恥ずかしくて仕方が無いのに、まして生まれたときから女の子だった者達に見付かるというのは、ほんと死ぬほど恥ずかしいものである。

 なにしろサヤカとクミにも、男子だった頃の記憶がシッカリと残っているのだから。


 それにミキにとっても恥ずかしくて堪らなく、穴があったら入りたいほどだった。

 女の子がバレンタイン前日に、バレンタインチョココーナーに居れば、チョコを買うためにココに居るとバレバレである。

 それはつまり、チョコをあげる相手が居ると言うこと。 恥ずかしさは、超レッドゾーンだった。

 なぜなら、元は男子だったサヤカとクミにまで、自分がチョコを買うためにこのスーパーに居る事を知られてしまったのだから。

 ミキとサヤカとクミの今の心境は、犯した罪が時効になる寸前で逮捕されてしまったようなものだっただろう

 普通の女の子なら、”義理だから”と言って難なくこの場を切り抜ける事だってできるのだろうけど、サヤカとクミは、ミキと同じでまだ女の子になったばかり。

 しかもこの二人も、買いに来たのは実は本命チョコなのだから、逃げ出したくなるのも無理も無い話し。


 サヤカとクミは観念したようで、肩を落として恐る恐るミキ達の側までトボトボと歩いてきた。



 ユリ:

「ねぇ、あんた達もチョコを買いに来たんでしょ?」


 サヤカとクミ:

「「えっ!?」」


 クミ:

「う、うぅん! 私はただ」


 サヤカ:

「チョコなんて」


 ユリ:

「っふぅ~んほんとかなぁ?」


 ナナ:

「じゃぁさ、二人が持ってるその可愛らしい紙袋は、何を入れるために買うつもりだったの?」


 サヤカとクミ:

「「!!」」



 そう。 サヤカとクミは、女の子が好みそうな可愛らしい小さな紙袋を持っていた。

 きっと、チョコを入れるために先に選んでおいた物だろう。

 もうここまで読まれてしまえば、バレバレもいいところである。



 ミキ:

「……」


 サヤカ:

「い、いえそのこれは」


 クミ:

「あああの」


 ユリとナナ:

「「ぷぷっ♪」」


 サヤカとクミ:

「「……」」


 ユリ:

「ばっかねぇ~! もう完全にバレてんだから、今更隠したって仕方ないでしょ?」


 ナナ:

「そうよ! でも、あんた達の様子だと、男子に本命チョコをあげるのは初めてみたいだし、私達が色々と教えてあげるわ」


 サヤカとクミ:

「「……」」


 ユリ:

「ほら、ミキもね!」


 ミキ:

「……」


 ナナ:

「いい? 男っていうものはねぇ」


 ミキとサヤカとクミ:

「「「…………」」」



 結局ナナとユリの指導?により、あれもこれもと買い込まされて、ミキの小遣いはスッカラカンになってしまった。

 サヤカとクミも同様に、ただナナとユリの言いなりになり、買いたくもない物まで買わされてしまう羽目になるのだった。

 そしてスーパーを出て、ミキとサヤカとクミは同時に言った。

 ”こんなはずじゃなかったのに”と。

真実は、いつも静かに顔を出します。

次回、核心へ。

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