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必ず思い出すから……!

幼馴染ちゃん登場です。


 意識を取り戻した翌日、赤志は欠伸交じりと共にベッドから起き上がった。


 「……やっぱり何も思い出せないか」


 一晩ぐっすり眠れば全てが元通り、などと都合の良い展開は訪れてはくれなかった。

 相も変わらず記憶は真っ白、自分自身のこれまでの人生についてはオツムの方は思い出してはくれない。


 「父さんと母さん……大丈夫かな……」


 昨日両親は時間ギリギリまで自分にかかりきりだった。

 今日は平日なので二人とも明日、つまり今日は仕事であることを思い返し申し訳なく思いつつ、息子を愛してくれいてる事実に僅かに救われた。


 「よっと」


 ベッドから起き上がるとそのまま軽く準備体操のように体をほぐしてみる。

 記憶は失っているが、体の方は健康体そのものだ。昨日の話ではどうやら今週末には退院できるらしい。つまり今は水曜日なのであと三日後には退院して自宅に戻るのだ。


 「自宅か……」


 自分が慣れ親しみ、育った時間がもっとも長い環境すら覚えていない。

 もしもこのまま家族と共に自宅に戻ったとして、果たして自分は元の日常を取り戻せるのだろうか?


 「バカかよ俺は……」


 こんな考えは不謹慎だ。記憶がなくとも自分の為に泣いてくれた両親の姿を忘れたのか? もしも、もしもこの先記憶が戻らずとも、自分はあの二人の息子なのだ。

 

 うだうだ考えても仕方がない、とりあえず気分を入れ替えようかと病室を出ようとした時だった。


 「赤志君!!!」


 1人の女性が大声を張り上げながら無遠慮に病室のドアを開けて入って来た。

 その人物は自分に近い年齢の少女だった。とても綺麗で桜色の柔らかそうなショートヘア―の髪、平均以上に発育の良い胸にスタイル、それなのに小動物を連想させる可愛らしい小顔、そのアンバランスさがまた可憐さを際立たせていた。

 まるで漫画のキャラクターのような、フィクションみたいな愛らしい少女の登場に息をのんでいると、その少女はこちらへ向けて駆け込んできた。


 「うあああ赤志くぅん!」

 

 「うわっとっ!?」


 まるでロケットの様な勢いで突っ込んできた少女を抱きとめる。

 自分よりも背宅も低く、一部発達している点(胸部)を除けば小柄な少女とは思えない勢いにその場で倒れそうになってしまった。


 「ひぐっ、よかったぁ……あかしくぅん……」


 「あのっ、えっと……」


 おいおい、いきなり美少女に泣かれてしまったぞ。これは……どうすればいいんだよ? 

 

 ただでさえ自分のことで手一杯だというのに、謎の美少女から抱き着かれて対応に困る赤志だったが、ここでこの少女の候補が頭に浮かんできた。


 「もしかして……君が辻本さん、かな?」

 

 昨夜に母である圭子の言っていた幼馴染、この少女がそうであると確認の意味を込めて尋ねた。

 

 「あ……やっぱり憶えて……」


 俺の何気ない質問に抱き着いている少女が上目遣いでこちらを見てきた。

 その表情に少々男心をくすぐられつつ、自分の存在が忘れられている事実に彼女の顔は悲し気に歪む。


 ああ……俺はあと何度この顔を見ることになるんだ……。


 目の前の少女の様子から、自分と彼女は長い時間を共に過ごし、多くの思い出を構築してきたのだろう。それが全て一方的に忘れ去られているとなればショックも大きいに決まっている。


 何を冷静で客観的な考えをしてるんだ、そんな自己嫌悪感でいっぱいになる。


 「私……辻本伊万里だよ? 憶えてないの……かな……?」


 彼女の言葉には〝もしかしたら〟という希望が隠れ見えた気がした。しかしいくら懇願されても消えた記憶は都合よく戻ってはくれない。

 意図して起こした記憶喪失ではないとはいえ、罪悪感で胸が詰まり言葉が出てこない。


 「ごめん……母さんから話は聞いてるんだけど……」


 何も憶えてないんだ、そう続けようとした時だった。

 腹部に押し付けていた顔を離し、そして涙を拭いながら彼女は微笑んで言ってくれた。


 「ううん、悲しいけど事故だから仕方ないよ。それよりも……あなたが帰って来てくれて嬉しいの」


 そう言いながら辻本さんは俺に精一杯の笑顔を向けてくれた。

 彼女が言ってくれた『帰って来てくれて嬉しい』、その言葉に胸が締め付けられる。それと同時にいじらしい彼女の姿が見ていられず、気が付けば今度は俺が目の前の辻本さんを抱きしめていた。


 「あ、赤志君?」


 「ごめん……俺、絶対に思い出すから。だから……だから……待っていてくれ」


 こんなにも自分を思ってくれる幼馴染を忘れている自分が許せなく、情けなく、無意識に彼女へと誓うようにこう呟いていた。

 そんな震える自分をあやすかのように、辻本さんは背中を支えて頭を撫でてくれた。


 この時の俺と辻本さんは互いに抱擁しあい、相手の顔が正面から見られない態勢だった。


 だから俺は気付けなかったんだ。抱きしめあっている辻本さんの笑顔がとても悍ましく、口元から涎が垂れ、頬が怪しい朱色となり、そして瞳の奥底がドロドロとヘドロのように変色していた事に……。


 


ここから少しずつ不穏になってきますよ~。

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