俺は…誰だ……?
新連載スタートです。
今回は恋愛とホラーの要素を混ぜた初のジャンルとなります。これまでのラブコメとは毛色が違い、皆様に楽しんでもらえると幸いです。
まるで重りでも付けられているかのような瞼をゆっくりと持ち上げる。
最初に視界に飛び込んできたのは真っ白な天井、そして蛍光灯の光だった。
「ん……あれ………?」
視界に飛び込んできた光景に漠然と『ここどこだ?』という短い感想が頭をよぎる。
そのまましばしの間はぼんやりと放心状態だったが、すぐに我に返ると声を大にして先程脳内に浮かんだ言葉が飛び出た。
「ここどこだよ!?」
予想以上に大声を出しながら勢いよく上体を起こした。そして次に気付くのは自分の恰好だった。
「これ……入院服だよな?」
病院などで入院者が着用している患者服を自分は着ていた。
そこから次々と、自分がベッドの上で眠っていたこと、部屋の様子から自分が病院のベッドの上で目を覚ました事を自覚した。
つまり要約すると俺は何かしらの理由で今現在まで入院していたという事らしい。
だがそれ以上に〝俺〟にはもっと疑問に感じる部分があった。それは……俺のなま……。
その時だった、思考を遮るかのように病室のドアが開いたのだ。
「失礼しま……えっ?」
恐らくは定期巡回に来たであろう看護師と目が合った。
彼女は寝起き直後の自分と同じくしばし呆けた顔をしていたが、すぐに我に返ると勢いよく傍に寄って来た。
「目が覚めたんですか浅塚赤志さん!!」
「え、あ……」
「ちょ、ちょっと待っていてください! すぐに先生を呼んできますから!」
こちらの返答など確認もせず、慌て気味に病室から出ていく看護師。
そんなてんぱっている後姿を見ても焦っているなぁなどと考える余裕はなかった。それよりも彼女が口にした最初の一言が頭に残っていた。
「誰だよ……アサツカアカシさんって……?」
聞き覚えのない名前を口にする。いや、おそらくはこれが俺の名前なのだろう。だが自信を持ってそう断言することはできなかった。
「とゆーか……俺は誰なんだよ……」
だって俺は自分の名前がさっきから思い出せないのだから。
ーーーーー
あれからバタバタと色々な人間が自分の元までやって来た。
まずは担当医である先生に付き添いの看護師だった。どうやら自分は一ヶ月近くも眠り続け昏睡状態だったらしい。
だがそれ以上に衝撃を受けたのは自分が〝記憶喪失〟となっている点だった。
担当医からのいくつかの質問を繰り返し、医師から記憶喪失であることを『間違いないでしょう』と言われたのは何気にショックだった。もしかしたらまだ寝ぼけているだけなのではないか、などと希望に縋っていた望みは絶たれてしまった。
次にやって来たのは恐らく両親と思われる男女二人だった。
病室へとやって来るなり、女性の方は泣きながら自分に縋りつき、男性の方は安堵した顔を浮かべていた。だがすぐに自分の記憶が欠落している事実を知り、女性の方はまた泣き、男性の方は悔しそうに俯いていた。
顔も名前も憶えていない二人の筈だが、その一喜一憂の振る舞いだけ自分は愛されていた事を理解し、そんな息子を愛してくれた両親の記憶が忘却した事実に胸が痛んだ。
泣いている母と悔しそうに俯く父が見ていられず、俺は思わずこう言っていた。
「ごめん二人とも何も憶えてなくて」
息子の口から『憶えていない』と言われた事がショックだったのか、母は嗚咽を漏らしてその場で蹲る。しかし父の方はそんな母の肩に手を置きながら、俺の目を見てこう返してきた。
「お前が謝る必要はない。それよりも帰って来てくれてありがとう」
何も憶えていない俺であるが、その言葉はとても胸に響いてくれた。
気が付けば母親同様に俺も涙を零している事に気付いた。そんな自分を慰めるように父は頭を撫で、その行為がまた俺を泣かせるのだった。
ひとしきり涙を流した後、二人はそれぞれ自己紹介をしてくれた。
父の名前は浅塚健司、そして母の名前は浅塚圭子らしい。
そして自分についても教えてくれた。どうやら自分の名前は赤塚赤志らしく、年齢は16歳の高校2年生らしい。
二人からなぜ俺が入院していたのかの経緯を訪ねてみたところ、どうやら俺は自室の二階から転落し、そのまま今日まで昏睡状態だったらしい。
どうして二階から落下したのか、その理由については両親も知らないそうだ。当事者である自分の事故当時の記憶も欠落しており、結局原因は分からずじまいだった。
それから両親としばし何気ない対話を繰り返した。自分についての過去話、そしてこれまでの足跡を丁寧に話してもらった。だが残念ながら記憶は都合よく戻ってはくれず、両親の悲しそうな顔がまた胸をちくっと痛めた。
その時だった、母の口から聞き覚えのない名前が飛び出てきた。
「それにしても赤志が記憶喪失だって知ったら、きっと伊万里ちゃんもショックを受けるでしょうね」
「イマリちゃん?」
「そう、辻本伊万里ちゃんよ。赤志とは小学生からの幼馴染の……」
「幼馴染……」
新たに出てきた名前、母の目からはその辻本伊万里と自分は良好な関係の幼馴染らしいのだが……なぜか俺は背筋に冷たいものが走った。
気が付けば俺は記憶の欠落した自分の頭部に手を当てて擦っていたのだった。
次話では幼馴染登場です。




