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パーティー会場に着くと既に何人かの招待客が到着していて、ホール内で談笑していた。
そんな様子をホールの隅っこで眺めている俺は今、1人だ。
アルバートにエスコートされるものだと思っていたがそうではなくて、アルバートは俺を迎えに行くという理由で抜け出したのだと。
そして今は恐らく控室かどこかで母親による叱責を受けている最中と思われる。
しかし、王妃にとっては想定範囲内の筈だから、アルバートを足止めしている間に暗殺部隊に俺を仕留めるように指示を出しているのだろうな。
トイレとか、この場に居たたまれなくなって庭に避難するとか、バルコニーに出るとかした瞬間に襲い掛かってくるのだろう。
会場内には他の貴族の目があるから、下手なことはできない筈……毒は別か。
となれば、さっき使用人から手渡されたこの水に毒が仕込まれている可能性はかなり高い。
と、ポケットに忍ばせておいた銀スプーンでグラス内の水をクルクルかき回してみればしっかりと変色する。
飲んで倒れてみようかな……飲み干して平然としていることは避けるべきだよな?
敵に浄化魔法を使えることは隠しておきたい。
まぁ、今まで散々毒殺だのなんだのって暗殺されかけている人物が、見ず知らずの相手から手渡された水を飲むほど警戒心がないのは不自然だ。
でも、飲まずに返却して、万が一間違って誰かが飲みでもしたら一大事。
下手をすれば「このグラスは第2王子が持っていた」とか証言されて犯人にされる可能性まである。
庭に出て捨てる……庭に出た瞬間物理攻撃が来るのか。
トイレに流す……会場を出たら危ないんだって。
なら、そうだな……会場内から庭に向かって放り投げるしかない。
多少行儀は悪くとも、品性の欠けた第2王子ってイメージを与えられるし、なにより俺はまだまだお子様、地球で言えば小学生なんだからイタズラ期真っ最中。
とは言え、植物にとっても毒になる可能性もあるから、毒を浄化しつつ捨てるのが良い……浄化するなら普通に返却しても問題ないのか。
色々難しく考え過ぎてしまったようだ。
軽く浄化魔法をかけた後飲み物を通りかかった使用人に回収してもらい、ボンヤリと会場内を眺めていると、やはりというか、当然というのか、リリアンナがいた。
原作通りであれば、アルバートとリリアンナはこのパーティーで初対面となり、一緒にダンスをボイコットする。
アルバートの婚約者候補はリリアンナだけではなく他にも大勢いて、その令嬢達全員とダンスを踊ることになる。
リリアンナの順番は最後の最後で、流石に踊り疲れたアルバートがもう踊りたくないからという理由でリリアンナを連れてバルコニーに逃げるんだよ。
結婚前の男女が2人きりで消えた……そうか、それが切っ掛けでリリアンナが婚約者になる訳か。
小説が学園に入学するちょっと前から始まるってのに、このパーティーでの出来事が小説内で詳しく書かれていたのは、この時に婚約者に決まったという大きな出来事があったからなのか。
まずいぞ……そろそろ王族が会場に入場してしまう。
俺も王族なんだけど当然のように会場内で放置されているし、にも拘わらず誰も挨拶に来ないから……俺の顔ってかなり狭いんだな。
こんなことでルイーズの力になれるのだろうか?
今はまだアルバートがブラコンを発動させているから良いものの、そのうち我に返るんだろうから、俺自身の力もある程度は付けておく必要がある。
でも王位継承権は放棄するよって流れにもしないとだめだから、えっと……。
ガヤガヤと賑やかだった会場内が少し静かになり、ラッパの音と共に2階から王族の面々が広間を見下ろしてのパーティー開始の挨拶を始めた。
王である父と、アルバートの母親、そしてその横に立っているアルバート。
こうして見上げてみれば、立派な王族に見える。
王位継承権がどうたらと悩んでいた自分の自意識過剰っぷりが凄まじい。
そんなもの、始めから俺にはないじゃないか。




