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俺とアルバート、そしてルイーズは1つのテーブルでおすすめだと言われていたお茶を飲んでいる。
なんでも東の国から手に入れたばかりで、まだ売り出すかどうかも決めかねているらしいお茶なんだとか。
なるほどね、おすすめだと言って飲ませて、感想を聞こうってことだったのか。
ルイーズのことは教養のないアホと思って小説を読んでいたけど、しっかりとした商人の子なんだな。
「美味しい?」
と、いくつもの方法で抽出したお茶がズラリと並べられた向こうにルイーズの真剣な顔が見える。
俺はお茶に関して詳しい知識を持っている訳ではないけど、このお茶の正しい淹れ方なら知っている。
香りとか色を見る限り間違いなく、このお茶はほうじ茶だ。
だから、熱いお湯で一気に入れて30秒程度が美味しいタイミングだから、紅茶みたいに1分とか2分とか置いてしまうと駄目なんだよ。
「ん……そうだなぁ……」
余りにも口に合わないらしく、アルバートは完全に手が止まってしまっている。
それでも不味いと直接言わないあたり、アルバートは小説で読んだ人物とは別人かと思えるレベルで優しい。
こんなにも言葉を選べるような子が、学園に通う歳になる頃にはクソみたいな人間になるんだもんなぁ。
これからその過程をジックリ見せられると思うと、なんとも複雑だよ。
さて、ここでさっそく悪役令嬢となるリリアンナの功績を1つ、潰しておくとしよう。
「このお茶は、熱いお湯で30秒くらい蒸らすと美味しい気がする」
リリアンナはほうじ茶かどうかは分からないけど、東から入って来たお茶が不味くて飲めないというミニイベントの時、颯爽と現れ、見事に美味しいお茶を淹れたのだ。
それも散々「不味い」「美味しくない」とメイドが言っていた時には「フーン」程度の反応しか見せなかったくせに、わっざわざアルバートの母親が出席するお茶会で、自ら美味しくお茶を淹れやがるんだ。
それで「美味しい」「流石だわ」と褒めたたえるアルバートの母親に対して「この程度のことはなんでもございませんわ」と、謙遜と言う名の他人落としをやってのけるリリアンナは、その後「どこでこんな知識を?」と尋ねられ、長々と「前世の記憶とは言えないし」とかなんとか回想し、結局は「本で読んだ」というのだ。
お茶の淹れ方が本に載ってるなら、他の誰もが美味しくお茶を淹れられなかったことに矛盾が生じるだろ!それとも「他の人は本も読まないのですわね」って他人をバカにしてんのかーと、まぁ……うん。
リリアンナのことは一旦頭から追い出そう。
「本当に美味しい!凄いね!」
俺の言った通りにお茶を淹れ、一口飲んだルイーズが興奮気味に声を上げた。
「本当だ……流石アルケイン。でも、どうしてお茶の淹れ方を知ってるんだい?」
きたきたこの質問。
前世の記憶があるなんてうんたらかんたら考えないし、本で読んだなんて適当な嘘もつかない。
もっと単純で良い方法があるからだ。
「うん、なんとなくそう思った!」
これだ。
要するに、知識はないけどセンスがある子。
なにかにつけて本で読んだだの人から聞いただのと言うより、なんとなくそう思ったからやってみたら成功したって方が事実に近いし、いちいち毎回言い訳を考えなくても良い。
「ねぇアルケイン君。こっちの果実はどう思う?」
カウンターまで走って行ったルイーズは、そう言って果実ではない食べ物をテーブルにごろんと置いた。
何処からどう見てもジャガイモだな……。
えっと、この世界にはこんなメジャーな食べ物も未知なるもの扱いなのか?普通にイモっぽいものを食べたことあるんだけど……。
あれか、地球にはない植物が豊富で食べ物の種類が物凄く多いんだな?
だとしたら、新しく食べられる物を見つけることは、食糧難対策にもつながる大きな功績になりえるのか。
リリアンナの功績の中にジャガイモもあったのだろうか?
全部が描写されてた訳じゃないだろうし、あったのかもな……しかもジャガイモは痩せた土地でも実るから、余っている土地に植えて収穫ができる。
食糧難に備えることもできそうだから早めに教えておいた方が良いだろうな。
果実とか言ってるから、下手をすれば生のまま丸かじりをしてしまう可能性もあるし。
「これは茹でたり油で揚げたりしたら美味しそう。生だと硬くて不味そう」
ふむふむとメモをとったルイーズは、とても満足そうにしている。
俺とではなく、アルバートと喋って欲しいんだけどな……。




