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俺はいつもの起床時間より2時間も早くに起こされ、パーティーにでも行くような服に着替えさせられていた。
サイズが少し大きいのは、俺用に作られた服ではないからだ。
「アルバート様が6歳の時に着ていた服ですのに」
と馬鹿にしたような表情で言うのは、服の着替えを手伝ってくれているメイドの1人で、恐らくはアルバートが住んでいる本館で働く1人だろう。
因みに、俺が暮らしているのは城の敷地内の隅っこにある別館で、父の許可がなければ本館に近付くことすら許してもらえない。
まぁそれは別に構わないんだけど……そうか、この服はアルバートが6歳の時に着ていた服なのか。
サイズアウトした服を残しているとは意外だな……金持ちって合わなくなった服はすぐに捨てると思ってたわ。
しかし、随分と体格に差があるものだな。
単純に食べる物の違いだろうか?
本館から食糧の提供がない別館では、自給自足の生活になっていて、数少ないメイド達も普段は畑を耕しているか狩りに出ている。
酷い冷遇を受け、パーティーなどの招待も全て拒否されている母さんは、どうせ着飾らないからという理由でドレスを全て売り払い、今頃は護衛騎士を引き連れて森の中で狩り中だ。
「準備が整いましたらお急ぎください。アルバート様がお待ちです」
早くしろよと今にも舌打ちなどしそうな勢いのメイドの案内で歩き別館を出てみれば、正面には立派な馬車と、満面の笑顔を向けてくるアルバートが見えた。
「アルケインおはよぅ!服は少し大きかったようだね……。よし、今日は今からアルケインの服を買いに行こう」
なにがどうしてこんなキャラになったんだ?
確かに好かれようと思ってた訳だから、この状況は計画通りといって良いんだろうけど、こんなブラコンになるなんて思ってもみなかったよ。
これはあの小説通りの展開なのか?
そもそも小説の中にアルケインって人物は出てこなかった。
こんなブラコンがヒーローを務める物語に、肝心の弟が一切出てこないのは可笑しいのではないか?
いいや、可笑しなことはなにもない。
物語の主な視点は悪役令嬢にあり、物語の始まりは学園への入学ちょっと前で今から3年後。
つまり俺は、アルバート達が入学するよりも前に王妃の暗殺部隊によって命を落としているんだろう。
乳母も明確な描写もなくただの不敬罪として腕を切り落とされ、母さんの話題なんかも出てこなかったから……俺の周囲にいる者が全員なにかしらの形で処分されたということだ。
とにかく今は兄ちゃん大好きっ子なアルケインを演じなければな。
「兄様、おはようございます」
まぁ、実際、今のアルバートは嫌いじゃない。
物語のヒーローだといっても所詮は悪役令嬢が主人公の物語のエキストラ……あ、違うか。
ヒーローは悪役令嬢を妄信して溺愛するしか能のなかった隣国の王太子であって、アルバートじゃなかったわ。
だとすると、アルバートも被害者の1人……しかも、私生児だからって理由で子供1人を暗殺しようと日々策を練っては失敗し続けているのが母親という特典付きだ。
こうして改めて考えると、このまま城に居続けるよりも早々に家出してからルイーズ救済計画を始動させた方が良いか?
いや……第2王子ってだけでチートなんだから、ルイーズがある程度育つまでは王子としてバックアップする必要はあるよな。
悪役令嬢が地球での知識を我が物に出来ない環境作りも王子という立場は役に立ちそうだし、こうなったら隣国の王太子なんぞに負けないようアルバートも強化してしまおう。
「アルケインはどんな服が良い?何色が好きかな?」
高級そうな店に入るなり、目の前に次々と出される服の山。
小説の中で幾度となく描写されていた光景……まさに洋服店へのデート風景が今目の前にある。
アルバートは学生になると、パーティーが開かれる度にルイーズを連れてブティックに赴き、ドレスをプレゼントしている所をリリアンナに目撃されてたっけ。
「兄様、僕は動きやすい服が良いです」
高い服を買った所で、どうせ背が伸びれば着れなくなる代物、それに俺は着飾る場所もないんだから10回も着るかどうかわからない服に金を費やすのはもったいない。
それなら、動き回りやすい服の方がありがたい。
ジャージがあるならそれが良い。
「今度誕生パーティーがあるんだけど、アルケインにも来て欲しいんだ。駄目かな?」
誕生パーティー……そう言えばもうそんな時期か。
毎年招待どころかパーティーが開かれる日時すら教えられなかったけど、急に招待したいだなんてどうしたんだ?
例えブラコンのアルバートが強請ったのだとしても、アルバートの母親が絶対に拒絶すると……なにか、暗殺に向けた策があるんだな?
「招待は僕だけですか?」
もしここで母さんとローズまで巻き込むってんなら絶対に招待は受けないけど、俺だけなら行ってやらないこともない。
「……頼んでみたんだけど、アルケインだけなんだ……」
そんな申し訳なさそうな顔をしなくてもいいし、招待も受けるさ。
「兄様の誕生日パーティー行きたいです!」
パーティーに出ても目立たない程度の服で、サイズを治せば長く着られるようなデザインを選ぶか……流行に左右され難いシンプルなものが正解か?
「パーティーが始まる前に迎えに行くよ」
始まる前なのか……一応俺も王族の仲間だから、招待客ではなく主催側の立ち位置なのか。
そうだ、アルバートに張り付いていたらリリアンナと会えるかもしれないな。
アルバートにはまだ正式な婚約者はいないから、もしかするとリリアンナを婚約者にすらしなくても済む可能性があるんじゃないか?
ルイーズと出会うまで婚約者を作らないってことも可能なのでは?
世継ぎ的にも相手が早めに決まっている方が安泰だろうけど……街で出会った子に一目ぼれ、その子が忘れられないから婚約者は作らないって展開にすればどうだろう?
折角今日は服を買う為に町まで来てるんだし、ルイーズが王都にいる可能性にかけて探してみるか。
ならまずはアルバートとアルバートの護衛全員の目を盗み、子供らしく迷子にならなければならない。




