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薄暗い部屋の中、ウツラウツラと眠りが浅くなってまどろんでいる所へ、シャッと容赦なく引かれたカーテン。
あまりもの朝日の強さに布団に潜り込んでやり過ごそうとしても、バサリと布団が捲りあげられる。
「アルケイン様、おはようございます。朝食のご用意が出来ていますよ」
「……おはようローズ、ありがとう……」
祝福の儀が行われていた筈の神殿内で、まさかの落下事故に見舞われた俺は、乳母のスライディングキャッチによって命を救われていた。
その瞬間から俺の信仰心は神にも神官にも光属性にさえ背を向け、乳母一直線。
第1王子の母親は論外だけど、父ですらなんの言葉もなかったんだから、この王国自体が齢1歳にしてどうでもよくなった。
まぁ、扱われ方ってのを見ればどのみち俺に王位継承権ってのはないんだろうなーってのは分かるし、俺の産みの母親が祝福の儀に正式参加できていない感じだったことを思えば、物語的によくある感じなのかなって。
なんだって良いけど。
子供の間はなにもできない訳だから、衣食住が保障されている今の生活は決して悪くはないし、今の間にお金をためて家出するってのも良いだろう。
「食事の後はアルバート様とご一緒に剣術のお稽古ですよ」
アルバートというのはこの国の第1王子であり、転生前に読んでいた小説に登場する王太子の名前。
そして乳母は、小説の中で王太子への不敬罪で腕を切り落とされる”侍女ローズ”と同名。 更に、アルバートの婚約者候補に、あの地雷悪役令嬢の名が上がっているらしい。
この世界は十中八九、俺が死ぬ前日に読み終えていた小説の中だ。
物語が始まるのは悪役令嬢が学園に入学するちょっと前ってタイミングで、悪役令嬢とアルバートは同い年、学園は13歳から入学ってことを踏まえると、悪役令嬢はまだ厳密に言えば悪役令嬢ではない。
現時点での俺が7歳でアルバートは3歳年上の10歳。
入学までにはまだ3年ある。
しかしだ……卒業パーティーの断罪イベントは中盤辺りで行われていたし、1年から3年までの学園生活の描写も結構あった。
それこそ、悪役令嬢が生徒会に選ばれてもいないのに“優秀だから”という理由で生徒会室に出入りしては活躍する場面なんかも。
その優秀って評価も、単なる地球の出来事を真似ただけだったり、地球の偉人のセリフをマルパクリしただけで悪役令嬢自身の考えではない。
……名前すら思い出したくもない悪役令嬢の名はリリアンナ、位の高い貴族のご令嬢様だ。
ってことは、ヒロインのルイーズも10歳……。
将来王妃になるってんなら、リリアンナよりも優れた作法を身につけなきゃならないし、“貴族のルールを知らないようでしたのでお教えしただけですわ”などと調子に乗った台詞なんぞ吐かせないために、小説の中で注意を受けていたことも事前に教えないとな。
でだ、ルイーズって何処に住んでるんだっけ?
「アルケイン、今日はちゃんと訓練しろよ!」
訓練場に着くなり剣先を向けられる。
相手はこの物語のヒーロー、アルバートだ。
どうするかな……私生児である俺はアルバートの母親からは驚くほどに嫌われているし、俺の母さんなんか使用人からも冷遇されている始末だし、定期的に暗殺しようと刺客なんかも来ているらしい。
そんな訳だからアルバートも、この城も、この国すらどうでも良いしどうだって良いんだけど……リリアンナに直接「ざまぁ返し」できる機会が作れるのなら、そこを目指そうとも思ったり。
目標は、アルバートとルイーズを問題なく結婚させ、聖女の祈りのバリアで保たれているこの国を、リリアンナなんぞいなくても守られた土地にすること!
一応ルイーズも光属性保有者だから、鍛えればなんとかなりそうではあるんだよ。
それに俺も光属性だし、すでに毒を浄化して無害な物質へ変換する術も会得済みだから、最悪俺だけでもなんとかなるようにしておけば良い。
よし、この際キャラ崩壊など二の次だ。
「はい兄様、ちゃんと訓練します!」
お兄様、の方が良かっただろうか?
「ア……ア……アル、ケイン……も、もう一度言ってくれないか?」
今までの態度が悪過ぎたせいで訓練するって宣言が信じてもらえていない感じか。
けど、それは仕方ない。
俺だって昨日までダラダラしてた奴に「今日から頑張ります!」とか言われても不気味に思うだけだわ。
ならここは理由をつけて目指すところが出来たと説明するとしよう。
「僕、強くなりたいのです!」
「え、あ……そうなんだね。いや、そうじゃなくて……コホンッ。アルケイン、俺は誰かな?」
うん?
あ、もしかして兄扱いしたのが気に食わないとか?
だとしても仲良くならなきゃルイーズに会えない可能性があるんだから、無理矢理にでも仲良し兄弟になってやる。
「兄様は、兄様と呼ばれるのがお嫌で……」
「そんな訳はないっ!違うから!俺はアルケインの兄様だからな!全然そう呼んでくれていいし、むしろ呼んで欲しいよ!」
おっと……そっちね。




