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なんとか立って歩けるようになった頃、俺の魔力もそこそこ成長していた。
カーテンを揺らして時間を潰すしかなかった赤子時代を送った訳で、なにも突然変異で強くなったわけではないし、これと言って努力をしたという訳でもない。
ここで無理して頑張ればファンタジー世界における異世界転生の主人公みたいに俺TUEEEEが出来るのだろうか?
しかし、生憎俺はそこは目指していない……ヒロインと悪役令嬢を見つけ出してこの世界の未来を変える必要があるからだ!
いや、まぁ、ここがあの小説の世界だったらの話しだけど。
違うならお金持ちライフをそれなりに謳歌しつつ、ノンビリ生きよう。
「まぁまぁアルケイン様、またベッドから抜け出されたのですか?危ないですよ~」
ヒョイと抱き上げられた俺はベビーベッドに戻されてしまった。
こんなことをしている場合ではないというのに!とか抗った所で成長スピードってのは気合やらなんやらでどうこうできるところではない。
ただ歩く練習は早めにしておけば、通常よりも少しは早めに家の中を自由に歩き回れるようになるんじゃないかって思ったんだけど……それなら声帯を先に鍛えて「散歩に行きたい」と訴えた方が早い気もするな……。
「あー!うぅぅぶぶぶ~」
まだ無理か。
「ふふふ、アルケイン様はお喋りがお上手ですね~」
乳母と言うのだろうか、俺の世話を朝から晩まで見てくれているこの人は、俺がなにをしてもこうやって褒めてくる。
だから、俺は愛されているのだろうと思っていたのだが、生まれてからこうも時間が経っているというのに両親を見たのが数回しかないし、この乳母以外のメイドは皆無表情に近い。
一応この家の子供だから面倒は見てもらえているけど、決して好かれている訳ではないって感じだな。
ガラガラガラガラ。
なんの音だ?
「ああ!」
「どうなさいましたか?」
とりあえず音を発して乳母を呼び、音が聞こえてくる窓の方を指差した。
すると俺を抱き上げた乳母は、窓際に立つと外の景色を見せてくれた。
「あ!あ!」
「あれは馬車という乗り物ですよー。今日はアルケイン様の祝福に神殿から神官様がいらっしゃるのですよー」
神官がわざわざ家まで来るのか?
それにこの窓の外に広がる景色……親父は爵位持ちなんだろうと漠然と思っていたが、想像していた以上に裕福な人物のようだ。
そして俺は大変な事実を知ることになった。
それは綺麗な布に包まれて屋敷内にある礼拝堂に移動し、迎え入れられるときに神官が俺に向かって発したこんなセリフからだ。
「第2王子殿下にお目にかかります」
俺は王子だったのか……だとしたらここは俺が読んでいた小説の中ではないのだろう。
そこからしばらくの待機時間の後、大袈裟な音楽が礼拝堂の中にまで響きバンと扉が開いて何人もの人間が入ってきた。
「王国の太陽にお目にかかります。第1王子殿下にお目にかかります」
俺に挨拶した時と同じような言葉を続けて発言し、丁寧にお辞儀をした神官の向いている方向から、3歳くらいだろうか?やんちゃ盛りといった感じの子供を抱っこしている父親が歩いてくる。
神官の挨拶からすると、父は王様で抱っこされているのが第1王子、そして俺が第2王子のようだ。
祝福の内容は、子供の健康とかを祈るってだけじゃなくて防御魔法をかけている感じで、更には王宮のバリア的な感じも施していた。
何故そんなことが分かるのかと言えば、どうやら俺の魔力が光属性っぽいから。
もしかしてこれは、俺TUEEEE展開?
それは良いとして、あの第1王子の名前を知ることが出来れば良いんだけどな……それと他にも兄弟が……いたらこの場にいるか。
なにか、ここがあの小説の中なのか違うのかを決定づけるヒントが欲しい。
そもそも転生なんてことが本気で起きるのか?
起きたとして、直前まで読んでいた小説、死ぬ直前までけちょんけちょんに思っていた小説の中に来れるものか?
せめて主要人物の名前が2~3人分出てくれば証拠になりそうなものだけど、生憎俺は俺の名前しか知らない。
そして小説の中にアルケインという人物は登場しなかった。
「おぉアルケインも大きくなったなぁ。どれ」
フワリと持ち上げられ、高い高いをされ、思うことは“ヘルプミー”だ。
なにこれ怖過ぎるんだけど!?ジェットコースター!?
「ふぇ……ふ、ふぎゃぁぁぁ!あぁぁぁ!あー!」
「ひぐっ!うぅ、うわぁぁぁぁん」
俺の絶叫泣きにつられたのか、第1王子までもが泣き出せば、1人の女性が俺達の方に駆けつけ、父をドカリと押し退け第1王子に一直線。
「よしよし、もう大丈夫よー。泣かないで、私の愛しい子」
そんな台詞を背中で聞きながら、俺は急降下する浮遊感で気持ちが悪くて状況を理解する時間が足りない。
ただただ分かることは、俺を支えていた筈の父の手がどこにも感じられないこと。
つまり俺は、ドカンと押し退けられた父の手からポーンと放り投げだされている最中という感じか。
「アルケイン!」
名前を叫ぶように呼ばれて声のする方向に視線を向ければ、ビックリするくらい物凄い勢いで走ってくる……そうそう、俺の母はあの人だよ。
「……マンマ、マァーマ」
って、それどころではない。
俺は1歳にして死に直面している最中、助けようと必死に走ってくる母に向かって初めてのおしゃべり瞬間を提供している場合ではない。
しかし、出来ることなどはせいぜいカーテンを揺らす程度の魔法が打てる程度だ。
光属性だからといっても、放り出された身を浮遊させることや、酷い衝撃があるだろう落下の瞬間をなかったことに出来る程の防御も、グシャリとなるだろう身の回復などは出来ないのだ。




