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誕生日パーティーが開かれている会場を出て、足早に移動し続けて別館までたどり着く頃、後ろにいた騎士はクルッと回れ右すると特になんの挨拶もなくとんでもない速さで走り去ってしまった。
まぁね、別館とはいえ城の敷地内なんだから賊に襲われる心配も、魔物に襲われる心配もないんだから、ここまで大人しく”ちゃんと”護衛してくれただけで感謝するべきことだろう。
もし本館から俺が1人で帰るとなれば、王妃による暗殺部隊がわんさかと襲い掛かって来たことだろうし、護衛と見せかけた暗殺者である可能性もあったんだ。
「ただいまー」
俺が戻ることをどこでどうやって知ったのかは分からないが、別館の入り口には母さんが立っていた。
「アーくんお帰り。あら?それは?」
早速賄賂のケーキが見つかってしまったので、屋敷の中に入ってそのままファミリールームに向かう。
「ケーキの手土産。浄化魔法はかけたけど……食べられる?」
丁寧に浄化魔法をかけた手土産のケーキをテーブルの上に置いて母さんに尋ねてみれば、母さんはケーキに手をかざして呪文を唱え……
「そうねぇ……毒薬が混じっているけど、アーくんの浄化でほとんど無毒化してるわね。これなら食べても安心」
と、上にトッピングされていたオレンジの砂糖漬けをごっそりと指で摘まみ上げて、ぺろりと食べてしまった。
だから、恐らくはそのオレンジに毒が混ざっていたんだろう。
母さんの魔力は分析系。
戦闘に使える攻撃性の魔法ではないけど、相手の能力を読み取れる力は、相手の弱点を見抜くことができる。
そこを弓矢や剣で容赦なく攻撃するわけだから、お菓子の成分調査なんてものは朝飯前なのだ。
要は、俺が光属性だってことも既に知られている上に、もう少し成長したら一緒に狩りに行こうと、恐ろしい誘いを受けている。
「紅茶のお代わりをお持ちしました」
ケーキを食べていると、熱々の紅茶を持ったローズがやってきた。
「母さん、ローズにもケーキ……」
毒は盛られていたけど、城で振舞われているケーキと同じパティシエが作ったこのケーキの味はかなり美味しいから、ローズにも食べてもらいたいと思ってたんだけど……、
「駄目ね。ローズは毒耐性がないから数日は寝込むことになるわ。命にはかかわらないけど、腹痛と吐き気は酷いものになるでしょうね」
うわぁ……。
毒耐性って、改めて考えると凄いんだな。
ローズが数日寝込むことになる毒が沢山ついていたであろうオレンジの砂糖漬けを、母さんは摘まみ上げて食べ尽くしてしまった。
それでもなお安全に食べることができないケーキ……
「……俺、食べちゃったんだけど……」
後から腹痛とか吐き気に襲われる?
「ふふふ。アーくんなら安心って言ったでしょ?この毒もね、浄化魔法でほとんど無毒化されてるんだから」
母さんは頬杖を突き、笑顔でフォークの先を俺に向けてきた。
まるでこのケーキよりも自分の持つフォークの方が殺傷力があるんだと言わんばかりだ。
「ほとんど無毒化されてるのに、ローズが食べたら駄目なんじゃんか」
「命には別条ないわよ?」
あぁ、なるほど……浄化してなければ命に別条がある毒だった訳ね。
じゃあそろそろ本題に入ろうかな。
「母さんに会ってもらいたい子がいるんだ」
アルバートの妃候補ってことは伏せておいた方が良いだろうから、ここは「将来貴族になるかもしれない商人の娘(光属性)」って感じで紹介しよう。
光属性の妃候補としては魔力量の多いリリアンナが大本命だし、王国の平和を維持するのに必須なバリアのためにもリリアンナは最重要人物だ。
それを思うと俺はアルバートがルイーズによそ見せず、大人しくリリアンナと結婚させる方向で動いた方が良いのかもしれない。
だけど、未来の国母があんな性格の悪い奴で良いのか?
原作通りに事が進んだ後、リリアンナの動向で将来的に隣国の王子がこの国に攻めてくるとか、そういう展開は起きないと言い切れるか?
だから、リリアンナが悪役令嬢として覚醒する前にルイーズの強化をしておく必要があるんだ。
「そうねぇ……王妃に睨まれてる私が商人の子に会うのはおすすめできないわよ?今日みたいなケーキがその子に届くことになるかもね」
それは駄目だ!
「いや、でも……貴族になるかもで……その前に色々知識をつけてもらいたくて……」
折角スタートダッシュをかけられるタイミングなのに、なにもできなんなんてもったいないじゃないか。
だからって母さんが関わることで暗殺部隊の手がルイーズにまで伸びてしまったら、もったいないとか言ってる場合じゃなくなる。
「ふふっ。じゃあ、私がアーくんに教えてあげるから、その子にはアーくんから教えてあげたらどう?」
いたずらっぽく笑う母さんは、なにか色々と勘違いしてそうだけど俺がルイーズ会いに行く口実としては「好きだから会いたい」というのはもっともらしいから、今はそういうことにしておこう。
恋愛の類ではないものの、ルイーズに好意を抱いていることに違いはないし。




