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ダンスイベントは無くなってしまったのかと思ったがそうではなく、クッキーを食べた後しっかりと行われた。
今日パーティーに参加した婚約者候補は5人いるらしく、1人1曲踊るそうだから……大体15分とか20分?それを踊りっぱなしとなれば、確かに過酷だ。
だけども俺は非常に簡単な方法でアルバートがリリアンナともしっかりと踊り切り、妙な噂になるような出来事も起こさずダンスイベントをクリアさせることに成功した。
本当に簡単なこと。
ただただ踊るアルバートを真剣に見つめつつ応援するだけ。
この世界が書かれた小説は、リリアンナ視点で学園に入学するちょっと前から始まる。
その時点でアルバートの婚約者だったリリアンナは、自分が卒業パーティーで断罪されることを知っていた。
つまりは、物語が始まるまでの段階で自分が転生者であることを思い出しているか、俺と同じように生まれた瞬間から自我をもっている。
だとするなら、今の段階でも地球の知識が身についている筈……それを知ったところでなにができる訳でもないんだけど、敵を知っておくことは大事だ。
「随分と待たせてしまったね。おいで、一緒にケーキを食べに行こう」
ダンスを終えたアルバートは、リリアンナに軽く礼をしてから一目散に走ってやってきた。
小説にはアルケインという人物は登場していないし、作中1度たりとも名前も出てきていない。
そんなモブの元にアルバートが一直線にやってくるのだから、ダンスイベントの内容は大きく変わったといえる。
もし現時点でリリアンナに前世の記憶があるのなら、少なからず動揺するだろう。
チラリとリリアンナを見れば、特に変わった様子もなく広間の中央から離れ、友人の待つ場所に移動して談笑を始めてしまった。
どうやらまだ前世の記憶はないようだ。
よしよし、これでルイーズにスタートダッシュを切らせることができる!
「兄様、母様にケーキを持って帰っても良いですか?」
ルイーズの教育を頼む時の賄賂として、別館では滅多にお目にかかれないケーキを持って帰ろう。
「もちろん!持ち帰り用に新しくケーキを用意させるよ」
わざわざ持ち帰り用に今から用意……アルバートにその意図はなくても、これから俺と母さんが食べる用のケーキを今から作るとなれば、毒入れ放題だな。
浄化魔法で無毒化できるレベルの毒なら良いんだけど……いや、持ち帰ったケーキに毒が入っていた場合、そのケーキを用意させたのがアルバートってバレるのは一大事だから、痺れ薬とか睡眠薬系かな。
ぐっすりと眠らせている間に暗殺してしまおうと。
全身滅多刺しなら誰も毒殺とは思わないし、痺れ薬や睡眠薬では死に至ることはないから、検死解剖されたとしても毒殺とは……解剖って概念はないのか。
例え魔法で死因が正確に知れて、身体の中にどんな成分が残っているのか全部明確に分かったとしても、王妃がもみ消すだろうから意味ないな。
その後、何度か令嬢達がアルバートをダンスに誘ったり会話をしようとして話しかけてきたが、アルバートはこと如くのように断り、遂には王妃の注意すら聞きたくないといった風にバルコニーに避難してしまった。
原作ではダンスに疲れて逃げ込んだバルコニーなのだろう、物凄く邪魔な場所に柱が建っている。
ただ、一緒に逃げ込む相手がリリアンナから俺に変更されただけで……。
今日で11歳になるってことは……小学校5年生くらい、だよな?
そんな子供の頃から婚約者を選ばないといけなくて、13歳に入学する学園を卒業した16歳で結婚……高校1年か2年?
婚期をそんなに早く済ませるっていうんだから、平均寿命が短いのだろうか?
王族の血を絶やさないためにわんさかと兄弟姉妹が必要とか?
けど、作ったら作ったで暗殺するんじゃん。
「それでは兄様、おやすみなさい」
パーティーはまだまだ賑わいを見せていたが、流石に10歳未満の子供がウロウロしていていい時間でもなくなったこともあり、別館に帰ることにした。
焼き立てのケーキをお土産に持ち、テクテクと歩く俺の後方には、会場を抜け出すことを禁止されたアルバートに変わり、騎士が1人付いて来ている。
一言も喋らない騎士は一定の距離を開けているもんだから、俺からも話しかけ難いし、そもそも王太子を守るって任務を受けている中で、全く別なことをしなければならない騎士の心情は決して穏やかなものではないはずだ。
一目散にアルバートの所に戻って警備したいだろうな……なら俺は出来るだけ素早く別館に戻ること位しかやれることがない。




