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第9話 初めての……

「ほらルナ、大人しく右足を上げるんだ」

「んっ! や……優しくしてください……」

「この動きはどう? 痛くないかい?」

「へ、平気です……もう少し動いても大丈夫です……よ?」

「じゃあもう少し動かしてみるね。痛かったら教えてよ?」

「あ……少し痛いです……」




 ルナの右足首の捻挫は、驚異的な早さで治りかけていた。これならば一晩寝れば、もう安静にする必要もないだろう。


 信じられないことだが、ルナが自分で言っていた通り、怪我の治りが異常に早いみたいだ。


「それじゃあ少しでも速く治るように、全身を整えて血流が良くなるようにしよう。旅先で具合が悪くなると困るからね」 


「え? はい、お願いします。 あ……えっ?……ん……」


 狼獣人だというルナは、四足動物の関節とは明らかに異なり、人間と同じ骨格をしている。それでいて、野生動物のようなしなやかで強靭な筋肉。異世界ならではの、新たな素体を整える機会があることに、僕も少し興奮している。

 

「ちょっ……タクミ様……それ、だ……め……あっ!」


 おおっ! なんだこの肩甲骨の可動域の広さは!? 


「き、気持ち良すぎて……声……出ちゃ……くぅ〜ん」 


 肩甲骨だけではなく、全身の関節が人間離れした可動域をもっているようだ。凄い! 凄いぞ!


「膝をこっちに押すから、抵抗するように少し力を入れてね」


「は、い……力……入りませ……ん」


 こうなると、リンパの流れを整えるのも、今までのやりかたに修正を加えた方が良いかな?


「あ! ん~~!」


 僕が触れるたびに彼女の全身が反応し、身悶えつつも身体がほぐれていくのを両手の指先から感じとる。獣人という種族に対しての初めての施術だから、今日は控えめにしておいた方が良いかな。


「はい、今日はこれで終わりにしよう」 


「はぁ、はぁ……ありがとう……ございま……」


「ルナにお願いがあるんだけど、聞いてくれるかな? 無事に逃げ出して、どこかに落ち着いたら、僕はこの世界でも整骨・整体院を開業するのを新たな目標にしたいんだ」


「はぁ、はぁ……タクミ様の目標、私もお手伝いします」


「ありがとう。獣人という、僕にとっての未知の種族に対しては経験が足りないから、お客様に100%の満足を提供するのは、まだ難しいと思うんだ。だから僕にルナの体でトレーニングさせて欲しい。もちろん、調子が悪くなるようなことにならないように、安全には細心の注意を払うから!」


「あれで……足りないのですか……」


 ……だめか……さすがに出会ったばかりで、練習台になってくれ、なんて頼むのは虫が良すぎたかな。探求心に突き動かされて、ちょっとはやまったな。


「ごめん、無理にとは言わないから、少しでも嫌だと思うなら断ってくれていいよ」

 

「いえ! タクミ様のためならば、喜んでお手伝いさせていただきます! 今までにないくらい、凄く全身が軽く感じますし、こちらからお願いしたいくらいです」


「ほんとに!? 良かった! ありがとう、ルナ! 技術を向上させる機会をもらえるのは嬉しいなぁ」

 

「気持ち良すぎるのを、私が耐えきれるかどうかが心配ですけど……」 


 ルナがぽつりと呟いたのが聞こえたが、耐える必要なんかあるのかな? ルナは若い女の子だから、声が出ちゃうのが恥ずかしいのか? 自慢じゃないが、僕が施術すると老若男女そういう反応するから、僕にとっては当然のことなので特別な感情は浮かばないんだけどね。


 明日の準備も終えたし、自分自身のストレッチも終えて、後はもう寝るだけだ。部屋は同じだが、もちろんベッドはルナと別々だ。


 ルナの診察をする前に、すでに宿の一階で有料サービスの洗い場を順番に借りて、二人とも石鹸で全身を洗い終わっている。大型犬のような匂いがしていたルナは、全身を石鹸で洗ったことで、シャンプーしたてのワンちゃんみたいな良い匂いに変わっていた。


 盲導犬のひかりを洗ってあげていた事を、懐かしく思い出す。ひかりはラブラドール・レトリバーだから、たれ耳だったけど、ルナは三角耳なんだよな。犬好きの僕としては、耳を含めた頭と尻尾をワシャワシャして、思う存分にモフりたい。ルナともっと仲良くなったら、頼んでみようかな。


 そんなことをベッドに入って考えていたが、どうやらそうとう疲労がたまっていたらしい。隣のベッドにルナがいるので、緊張してなかなか寝付けないかと思っていたのが嘘のように、あっという間に寝入ってしまった。

 



「おはようございます」

「おはよう。ルナは早起きだね」


 翌日、僕が起きると既にルナは起きていて、身支度を済ませていた。


「足の具合はどう? 昨日はよく眠れた?」

「はい、眠れました……よ?」

 

 自分のことなのに、なぜ疑問形なのか。右足首を診察すると、捻挫はほとんど治っていた。


「素晴らしい回復力だね」 


「タクミ様に処置してもらったお陰で、いつもより速く治りました。ありがとうございます」


「いや、ルナの体が凄いんだよ。僕は治すお手伝いをしただけさ」


 ルナ尻尾がばさばさと揺れている。足の怪我もよくなり、朝からご機嫌らしい。


 朝食を食べ終わると、遅れないように早めに馬車乗り場へと向かった。予定通り国境の街行きの馬車に二人で乗り込み、王都近郊の町を離れた。


 無事にゼニス王国を脱出できますように。


 馬車には御者とは別に、屈強な護衛も三人乗り込んでいた。旅の安全を確保してくれて、護衛込みで一人金貨一枚ならばむしろ安いのかもしれない。


 馬車の乗り心地はお世辞にも良いとは言えず、最初はぐったりしてしまったが、途中で耐久のステータス値を5にすることを思い付いてからは、ずっと快適に過ごせている。乗り心地さえ良くなれば、馬車の旅も良いものだな、と思えるのが不思議だ。

 

 ルナはといえば、最初から馬車に適応できていた。凄いね。それも獣人パワーなのかな?


 舗装された街道をガラガラと音をたてて、軽快に馬車は走って行く。天気も良く、気持ち良い風が吹いている。


 道中はルナにこの世界の常識について、様々なことを教わった。一年は三百六十日、一ヶ月は三十日で日本のように四季があり、今は春。一日は二十四時間だそうだ。


 長さはメル、重さはグラが単位らしく、感覚としては地球と同じぐらいっぽい。ルナ先生には、今後頭が上がらないかもしれない。


 アクシデントは何もなく、馬車は無事に一日目の宿場町に到着した。護衛の出番はなかった。良いことだ。これ以上何かに巻き込まれたくないからね。


 手配してもらった宿で、諸々のことを済ませて寝ようかとしたタイミングで、ルナが僕のベッドの方へとやって来た。


「タクミ様……」

「ん? どうしたの?」


 僕の顔を優しく手で押さえ、ルナの顔が近付いてくる。


 えっ? なに? 

 ちょっと!? 顔と顔が近いんだけど!?


 ルナの甘い吐息がますます僕の顔に接近し……ペロリと顔を舐められた。




 


「面白かった!」

「続きが気になる、読みたい!」

「巧とルナはこの後一体どうなるのっ……!?」


 と思っていただけましたら、


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