第76話 仕返し
「…………」
白い空間に入り、ダンジョンコアの前でルナと美咲さんと談笑していると、ふと、上の方から何かが僕を呼ぶような声が聞こえた。――気がする。
……おかしいな?
首を傾げて考えると、そういえば迷宮の赤ちゃんでもこういうことがあった。その事を思い出し、神眼で頭上をよく観る。
集中して観てみると、聖合でパワーアップしたお陰なのか、迷宮の赤ちゃんの時には見えなかった白い空間の更に外側がおぼろげにだが見えてきた。
まるで何万もの諦念と怨嗟が充満しているかのようだった、迷宮の赤ちゃんの幽体離脱体験の時とは違い、外を取り巻く灰色の世界は密度も色も薄くなっていた。
「…………」
あっ!? また声が??
「どうしたの?」
僕の行動を不審に思ったのか、美咲さんが声をかけてきた。
「あ、いや……何かの声が聞こえるような気がして……」
「声?」
「また声ですか?」
美咲さんとルナも辺りをキョロキョロ探りつつ、耳を澄ませて声なき声を探そうとしてくれた。
「そうだ! 巧君、後ろを向いて目を閉じて?」
にっこりと微笑んだ美咲さんに従って目を閉じる。
美咲さんが、僕の真後ろにピタリと張り付いた気配を感じる。そうか。また『だ〜れだ?』をやってくれるんだな。美咲さん、ありがとう……
「はうっ!?」
突然のことにびっくりして思わず声が漏れてしまった。目を覆ってくれるのかと思っていた美咲さんの熱を帯びた手が、僕の服の中へと滑り込み、胸板、そしてその先端をさわさわと触り出したのだ。
「ほ、ほわぁ!? そ、そこは!?」
「ん〜?? どうしたのかなぁ? ほら? 固くなってきたよ。どこに集中してるの? ここだよ、ここ。こっちに集中して?」
耳元にふ〜っ、と息を吹きかけられた。
!?
腐肉王に聖劫スキルを使った時の仕返しか!?
美咲さんの声には笑いと喜びが混じっている。きっと顔をみればニヤニヤしているのだろう。
くっ! やられた!
「……また二人でイチャイチャして……では、私が導きますね?」
ルナが左横から、僕の身体にしがみつくようにして背伸びをし、耳たぶをハムハムしながら、甘い声で囁く。
「タクミ様……ここですよ? ほら、しっかりと感じてくださいね?」
くぅ~!? 耳をペロペロされながら息を吹きかけられてはたまらん! 違うところに集まってしまいそうな血と虹色の魔力を、耳へと移すべく全集中する。
集中集中……んっく……美咲さん、手でコリコリし過ぎ!?
背後からは美咲さんの情熱的な熱、左からはルナの静かな誘惑。二人からの同時攻撃に、僕の脳は虹色の魔力を操り移動するどころか、真っ白にオーバーヒートしそうだった。
……集中集中……はぁはぁ、はぁはぁ……集中集中……
「あはっ♪ よく出来ました♪ お耳が虹色に輝いているよ」
「タクミ様、さすがです。チュッ……」
「んふ……くっ……二人共ありがとう……」
やっと美咲さんによるお触りタイムから解放してもらえた。くっ……それにしても……なんという事でしょう……これは普段から気を付けなければいけない案件のようだ。
例え疚しいことが何もなくとも、美咲さんとの聖合による戦闘中のパワーアップは……封印しないと怒られるということだな。
気を取り直して耳に集中すると、さっきのあれは、やはり何かの声だったようだ。
『……浄化……手伝イ……感謝』
無機質な声がかすかに聞こえてきた。
『……役目……マダ続ケタイ』
「役目? 浄化? それって、アンデッドモンスターの浄化? 君はダンジョンコアそのものなのか!? 答えてくれ!」
『コア………破壊……役目終了………器?……適合……発見……交渉………………交渉…………理核…………受ケ入レ……感謝………』
途切れ途切れの声が、僕の脳を震わせる。だが謎の声の主は一方的に話しかけた後、一切の声が聞こえなくなった。
「結局……あの声はなんだったんだろう……」
静寂に包まれる白い空間に、僕の声だけが響く。二人に事のあらましを伝え、虹色の魔力を神眼に戻して全員を鑑定するが怪しい変化はない。
「なにはともあれ、ダンジョンコアを壊しますか」
「はい! タクミ様お願いします」
「これで迷宮氾濫の危機は完全に終わりね」
短槍を手に取り、ダンジョンコアに振り下ろすと、あっけなくコアはひび割れ、鈍い光を放ちながら消えさった。
間を空けることなく、一瞬で地上へと場所が移り変わり、モーギスの丘ダンジョンの攻略は完全に終了した。ダンジョンの位置を示すための木の柵の中心を神眼で見ても、もはや空間のゆらぎを視認できなくなっている。
「ふう……なんとかなって良かった……」
「私達だけで迷宮氾濫を防げて本当に良かったわ。巧君、ルナちゃん、メイとラヴィも……みんな……ありがとう」
「お二人の聖属性のお陰で、ダンジョン内で驚異的に成長していけたからこそ、成し遂げられたことですね」
三人で抱きしめ合い、喜びを分かち合った。
「少し休憩して、一息ついたら村に戻ろう」
ダンジョンコアを破壊し、二つ目のダンジョン攻略者となった今、最終的にどれぐらい魂の位階が上がったのだろう、とワクワクしながら声をあげる。
「ステータスオープン!」




