第75話 ダンジョンの奥へ
カツン、カツン……
ゾンビキングは完全に浄化され、二つのアイテムを遺して光と共に消えていった――
猛烈な疲労を感じる。魔力不足だろう。急いでアイテムボックスからマナポーションの小瓶を取り出し、一気に飲み干した。
戦況確認の為にルナと怨嗟の処刑騎士の闘い、そしてダンジョン内の目の届く範囲を全体的に観る。
ラヴィから下馬して戦うルナは、緩急を自在に操ってトリッキーな動きでひらりひらりと体をさばき、剛腕を誇る怨嗟の処刑騎士と見事に渡り合っていた。
一方戦場全体では、劇的な変化が起こっている。
ゾンビ達の体内からかなりの量の歪みが一斉に消失し、ゾンビポーンはただのゾンビへ、屍食鬼はポイズンゾンビへ、復讐鬼は屍食鬼へと、一段階下の存在へと退化していく。
長い年月をかけて『腐界ノ号令』で腐肉王から歪みを注がれたゾンビ達が、本来の階級へと戻っていっているのだろうか。
百体からなる復讐鬼の親衛隊は、その内の十体は復讐鬼のままだが、残りは屍食鬼となってしまって足並みを乱している。恐れを抱くほどの一糸乱れぬ見事な連携で、こちらに追い縋って来ていたのが嘘のようだ。
これなら……まだ接敵するまで余裕があるな。
腐肉王が遺した二つのドロップアイテムを神眼で鑑定した後に、急いでアイテムボックスに収納した。
「美咲さん! まずはルナを援護して怨嗟の処刑騎士を倒そう!」
「ええ、わかったわ!」
美咲さんもだいぶ疲労が溜まっているのだろう。マナポーションを飲むと、紅潮した頬と荒い呼吸をなんとか整えて、気丈に返事をしてきた。
しかし、いわゆるゾーンに入った状態のルナに対して、下手な援護はかえって邪魔になりそうだ。
「美咲さんは『聖光雨』をお願い!」
「任せて! 天より降り注ぐ聖なる光よ、不浄を洗い流す慈愛の雨となれ! 『聖光雨』!」
僕は疑似太陽とも呼べる『聖降』に今まで以上に魔力を注ぎ込み、生者への活性化とアンデッドモンスターへの浄化力を更に高めた。
そして、同士討ちの危険のない美咲さんの神聖魔法で怨嗟の処刑騎士をじわじわと削りとってやる!
徐々に弱っていく怨嗟の処刑騎士の激しい断頭斧の打ち込みを、ルナが独楽のように身体を回転させながらショートソードで弾いた!
断頭斧を大きく揺らされ体が流れたところに、独特の歩法で滑るように接近したルナが、虹色に輝くショートソードで右足を鋭く斬りつける。
右足を失った怨嗟の処刑騎士が立っていられず、がくり、と左膝を大地に付いた瞬間に、目にも留まらぬ切り上げで極太の首は切り裂かれ、返す刀で心臓部に強烈な切落としを刻み込んだ。
数瞬の後、怨嗟の処刑騎士が断頭斧を遺して光となって消えると、ようやくルナが残心をとく。
「ルナ、お疲れ様」
「いえ、ご協力ありがとうございました」
「惚れ惚れするような戦いだったね」
「ありがとうございます……タクミ様達は……いちゃついてましたよね?」
「え? いや、あれは必要な措置というか……あ、ほら! 親衛隊の復讐鬼達がそろそろ来るよ! 皆で力を合わせて乗り切ろう!」
悪いことは何もしていないはずなんだけど、ルナのジト目に僕の心が耐えられそうもない。まずはいまだ強力なCランクモンスターの復讐鬼に集中しないと!
「……後で私にもたっぷりと構ってくださいね……」
復讐鬼をはじめ、統制を失った元親衛隊達は個々に行動をしているのに対して、僕らは改めて連携を強化し各個撃破していった。
距離が離れていた親衛隊以外のアンデッドモンスター達に至っては、こちらから近づかない限り、もはや僕達のことを認識さえしていないようだ。
「ふうぅ〜、なんとかなったね」
「巧君、ルナちゃん、お疲れ様。私のわがままを聞いてくれてありがとう」
「いえ、みんなの意思で迷宮氾濫に対応すると決めましたからね。高ランクの腐肉王と怨嗟の処刑騎士を無事に倒せて良かったです」
「休憩が終わったらどうする? もう次の階層へ行く?」
腐肉王が消えた後、玉座があった所に下へと続く階段が現れていた。
僕が問いかけると、二人は少し考えて答える。
「うーん、この第二階層には弱いとは言え、まだまだアンデッドモンスターがうじゃうじゃいるから、やっつけてから次に行かない?」
「私もミサキさんの意見に賛成です。万が一、また兵卒を強化してくるような高ランクモンスターが出現すると困りますからね。白骨大将軍、腐肉王ときたら次の階層では悪霊帝でも出てくるんじゃないですか?」
「それってSランクモンスターなんじゃ……ルナ、嫌なフラグを立てないでよ」
「ほんとだよ! いくら相性が良くっても、さすがに三人でSランクモンスター相手は無謀だよ!」
「ふらぐ? ……ふらぐが何かよくわかりませんが、ドロップアイテムを回収しつつ、第二階層を一掃するということで良いですよね? そういえば腐肉王からは何か出ましたか?」
「『どぐされ玉』と『呪いの指輪』っていうのがドロップしたよ。でも神眼で鑑定してみたけど、使い道がなさそうなんだよね」
――ど腐れ玉――
ゾンビキングのすべて怨念が煮詰まって凝縮した握りこぶし大の玉。本体が浄化されたことで、この玉には人体への直接的な害はない。使用すると、この世のものとは思えない悪臭を放つ。
――呪いの指輪――
ゾンビキングの怨念がこもった魔法の指輪。装備すると魔力消費量が半減し、魔法の効果も高まる。装備者は徐々に肉体がゾンビ化していく。
僕が鑑定結果を説明すると、二人共渋い顔をして、顔を見合わせる。
「ゾンビを倒すと極稀に『腐れ玉』をドロップしますが……ハズレですね」
「ハズレだね。あんなに苦労して倒したのに……臭いだけの玉なんて……いらないね。……呪いの指輪を装備できたらかなりパワーアップできるのに……そうだ! 呪いの指輪を私と巧君で浄化できないかな?」
「浄化できるみたいだけど、浄化したら消えちゃうらしいよ」
「えぇ〜!? それじゃ意味がないじゃない」
がっくし、という感じで肩を落とす美咲さん。
「呪いの指輪の良い効果を残したまま、浄化できる方法がないか落ち着いたら一緒に研究してみようよ。残念だけど、現状はどっちもアイテムボックスの肥やしだね。よし、それじゃあそろそろ休憩を終わりにして、第二階層のお掃除を開始しますか!」
第二階層のアンデッドモンスターを根絶やしにした後、一晩野営して第三階層へと向かう。
しかし、だだっ広いフィールドタイプのダンジョンフロアが続くだけで、第三階層はまるで時間が止まったかのように静まり返っていた。本来なら潜んでいるはずの気配すらなく、ただ冷たい風が吹き抜けるだけだ。
第三階層、第四階層、第五階層と、スケルトンの一体さえ見当たらなかった。
そしてついに、第六階層のボス部屋を素通りすると、ふっ、と全身に違和感を覚えた次の瞬間。真っ白な空間へと入り込んでいた。
「あ! コアルームだね。結局のところゾンビキングがこのダンジョンのボスモンスターだったのかな?」
「そうなんでしょうね。迷宮氾濫を起こすために、アンデッドモンスター達を根こそぎ従えて地上に向けて進軍していたのかしら?」
「……興ざめです……」
「「いやいやいや! Sランクモンスターなんて見たくもないからね!!」」
僕と美咲さんの必死のツッコミに、ルナはふっと悪戯っぽく口角を上げた。
「冗談ですよ。……私も、こうして無事に終われたことを、何より嬉しく思っています」
たぶん冗談ではないんだろうな。どっちもルナの本心なんだろう。
――ルナのフラグがへし折れてくれて良かった――美咲さんと二人で、心から安堵のため息を吐いた。
ストックがなくなりましたので、次回からは二、三日に一度の投稿となります。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「巧とルナ、美咲はこの後一体どうなるのっ……!?」
と思っていただけましたら、
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、少しでも良い作品だと思っていただけましたら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。




