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第72話 モーギスの丘・第二階層

「昨日の戦いでまた魂の位階(レベル)が上がったので、一時間ほどでも良いので組手をして、身体を慣らしてから第二階層へ行きませんか?」


「……そうだね、僕もこの白骨大将軍(スケルトンジェネラル)鋼骨の斧槍メタルボーン・ハルバードを試してみたいし」


「それなら私もメイとラヴィに『聖域展開・刻』を実際にかけてみようかな。魔法と『聖域展開・界』も使いつつ、他の応用技も試してみたりして、どこまで同時に展開できるのか知っておきたいしね」


 ガッ!

 ザッ!

 ドッ!


 ルナに本気を出してもらって、実戦形式で激しく打ち合う。鋼骨の斧槍メタルボーン・ハルバードを両手で持って突き、払い、引っ掛け、と槍ではできない攻撃を全力で試した。


 槍術(レベル4)や槍術士(ランサー)の職業熟練度3の恩恵なのか、扱ったこともないハルバードもそれなりに使いこなすことができる不思議。


 ハルバードを横薙ぎに振る!


 ルナがアクアスケイル・バックラーで受けるタイミングで、突然ハルバードを縮めて武器と盾の衝突を避け、盾を抜けたタイミングで再び元の長さに戻した。


 ガキンッ!


 決定打になると思われた僕の薙ぎ払いは、ショートソードを差し込まれて防がれ、ルナは力に逆らわず(みずか)ら飛んだ。


 トン! タッタッ!


「今の……よく避けられたね……」


 呼吸を乱すこともなく、涼しい顔で再び構えるルナ。


「私は対人戦においても、常にモンスターと相対するつもりで臨んでいます。モンスターはいつどこで、どんな不可思議な攻撃を繰り出してくるか分かりませんからね。一度対戦した武器だというのもありますし……タクミ様が寸止めできる速度と威力でハルバードを振るってくれているというのもありますが……」


 ……そいつは謙遜だろうな。さっきのルナの反応の凄まじさをみるに、今の僕の筋力と敏捷のステータス値では例え殺す気でやったとしても決定打とはならなかっただろう。さすがに筋力と敏捷に極振りすればいけるんじゃないか……とは思うけど……


 二刀流ならぬ二槍流も試してみたけど、これはいまいちだったね。もっと訓練を積んだりステータス値を上げれば実用化できるのかもしれないが……少なくともこのアンデッドダンジョン内では、物理の二刀流よりも片手から聖光の光をぶっ放した方がはるかに有効だろう。


 今回のお試しでわかったのは、鋼骨の斧槍メタルボーン・ハルバードは長さ1.5メートルから4.5メートルまでを、瞬時にそして自在に変えることができる。目の前にて一瞬で三倍もの長さの変化についてこれる者はそうそういないだろう。


 更に伸縮できるのは柄の長さだけではない。槍部分、斧部分、(かぎ)部分までそれぞれ独立して瞬時に出し入れ可能だった。

 

 ということで、短槍タイプに固定して使ったとしても、今持っている鋼の短槍よりも鋼骨の斧槍メタルボーン・ハルバードの方が丈夫で切れ味も良いので、扱い慣れた短槍の形にして僕のメインウェポンとして使うことにした。 

 

 



 

 諸々の準備が整ったので、いよいよ第二階層への階段を降りる。一歩一歩踏みしめて階段を降りると、踊り場に重厚な大扉があった。それを開けると再び現れた階段は二十段ほどで終わり、ようやく第二階層へ。


 第二階層のスタート地点は、第一階層と似たような丘の上だった。しかし、第一階層とは違い、丘の下は見晴らしのよい平原となっており――そこはゾンビ系の大群でびっしりと埋め尽くされていた。


 あちこちに白いスケルトン系と青白い燐光を発する霊体系も混じっている。


 臭覚をほとんどカットしていてもなお、腐臭を感じてしまう。更に異様なことに、「ウゴウゴ、ゾフゾフ」などと奇声を発しながら、ゾンビの大群は二手に分かれてお互いに噛みつき、引っ掻き、武器で殴るなど攻撃し合っていた。


 スケルトンも剣で、槍で、弓で、相手の首を落とし、手を切り、矢を射掛けている。飛ばされた白骨の首がケタケタと不気味に笑う声が、あちこちから届いてくる。


「な、何をやっているんだ、こいつらは!?」


「仲間割れしてるのかしら?」


「……演習でしょうか?」


 僕らが思わず声を発した瞬間に、お互いに攻撃し合っていたアンデッドモンスター達はビタリと行動をやめた。そして全てのアンデッド達が一斉にこちらを見る。眼窩(がんか)から発する数千の赤い視線が不気味に明滅し――僕らを襲った。


 猛烈な悪寒を感じる。気持ち悪くてたまらず、身が縮こまる。これほどの数の悪意ある視線というのは、ここまで暴力的だったのか。


「聖域展開・界! 巧君、大丈夫?」


 淡い虹色の光の結界に包まれると、温もりを感じる清らかさに心が少しずつ楽になっていった。


「……ありがとう美咲さん。二人は大丈夫だった?」


「あはは……自分で言うのもなんだけど、私は腐っても大物女優だからね。悪意の視線も好意の視線も大量に浴び続けているから……腐っているのはあいつら(・・・・)の方だけどね!」


「私はタクミ様がお側にいてくださるので、腐った視線なんか……へっちゃらです。たぶんアンデッド達は集団で使うことにより、強力な恐怖(フィアー)のスキルを発動させています。一度乗り越えればあとは平気なはずですよ」


「そうだったのか……ルナもありがとう。二人共強いんだね」


 僕は心に隙があったのかな。過去のトラウマに一瞬で囚われてしまっていたみたいだ。女の子二人に守られているばかりではいられない。心も体ももっと成長して、僕の大事な居場所(ハーレム)をしっかりと守りきれるようにならないと。


「グブブブブ! 来タナ侵略者ドモメ!」 


 不気味な声が平原に響き渡る。眼下の平原の中央後方に声の主はいた。ひび割れた王冠を被り、崩れ落ちそうな玉座に座る巨躯が立ち上がった。


「我ガ勇敢ナル民達ヨ! 王国二(あだ)ナス卑劣ナ敵ヲ滅ボスノダ!」


 アンデッドモンスター達が一斉に隊列を組み始める。スケルトンの骨と骨が擦れ合い、ゾンビの肉が地面を這う粘ついた音が混じり合って、巨大な不協和音(ノイズ)が押し寄せた。


 鑑定した王冠を被るモンスターの名前は腐肉王(ゾンビキング)。おぞましい腐肉をボタボタと垂らしながら、周囲に激を飛ばしている。


 神眼に映る腐肉王(ゾンビキング)歪み(ヴァル)は色濃く凝縮し、更に膨れ上がり続けていた――


 

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