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第71話 循環する力

 現れた次の階層への階段を降りることなく、周りを見渡し広範囲に索敵する。どんよりと薄暗い環境はそのままだったが、モンスターの気配はない。


 魔石と白骨大将軍(スケルトンジェネラル)のドロップ品である長柄斧槍(ハルバード)を拾ったルナが、僕に差し出した。


「これは……タクミ様が使ってください」


 あのスケルトンと同じ鈍色をした長柄斧槍(ハルバード)を受け取ると、神眼で鑑定した。


 どうやらマジックアイテムのようで、ある程度長さが伸縮するようだ。白骨大将軍(スケルトンジェネラル)の骨を想起させるその柄は、鉄より軽い上に鋼以上の硬度と靭性をしており、穂先の切れ味も抜群に鋭い。


「いいの?」


「私は槍は得意ではありませんので……」


 僕も短槍しか使ったことがないんだけどね……まあ、ルナが良いと言うなら、もらっておこう。その内にハルバードの形状も使いこなせるようになるかもしれないしね。


 皆で手分けして、辺り一面に散らばった魔石と有用そうなドロップアイテムを拾っていく。くず魔石を放置しても、拾い作業だけで一時間もかかってしまった。


「さすがに疲れたね。今日はここで野営をしようか」


「そうですね……疲れました」


「もう、くったくただよ。あ、じゃあその前に……清らかなる水よ、不浄を払い、真の姿を現せ!『清浄化(クリーン)』」


 微かな水のせせらぎのような音と共に、温かい光の雫が全身を撫でていく。不快な汚れが霧散し、心地よさに疲れも緩和された気がする。


 アイテムボックスから鍋と薪、水、干し肉、モスグリーンを取り出し、火をつけてまとめて煮込む。鼻腔をくすぐる美味しそうな匂いが立ち始めた。


 焚き火の炎のゆらぎを眺めながら湯気の立つ温かなスープを胃にいれると、じんわりと穏やかな心持ちへと変わっていく。


「先にルナと美咲さんとラヴィが休んで。最初は僕が見張りをするから。メイも僕と一緒にお願いね? 二番目はルナの方がいいかな」 


 パンをかじりながら見張りの順番を決めていく。


「美咲さん、魔力が回復しきれないから寝る前に結界は解いてね」


「でも、アンデッドモンスターはどこから現れるか分からないから……」


「美咲さんが寝ている間は、代わりに僕がやっておくよ」


「え? ……できちゃうの?」


 美咲さんの聖域展開が消えたのを確認してから、右の掌を天に向けて掲げ、覚えたてのスキルを発動させる。


聖衡(せいこう)!」


――――――――――――――――――――


聖衡(せいこう)】 ―― 指定した領域の界理(ロゴス)の「均衡」を司り、外部からの干渉を受け付けない不変の空間を構築する能力。極めて純粋かつ清浄な界理に覆われ、歪み(ヴァル)を寄せ付けない。


――――――――――――――――――――


 美咲さんの聖域展開に代わり、僕の体を起点にして周囲が聖衡の淡く虹色に輝く結界に覆われていく。


「わ、私のアイデンティティが……」


「まあまあ、ほら、二人で一つだから……ね?」


 またもや衝撃を受けているらしい美咲さんを慰める。この魔法の言葉を使うと、いつでもふにゃふにゃ顔になってくれるのが愛おしく感じる。ついでに、というわけでもないが、寝る前のお休みのキスもする。


 焚き火に照らされた彼女の黒髪が美しく、思わず指で触れる。僕も含めて、情欲に火がついてしまっては困るので、ごくごく軽く、触れるだけの口付けだ。安全地帯ではない、ダンジョンの中だしね。


 ルナも眠たそうにしながら、物欲しそうな目でこちらを見つめているので、ゆっくりと抱きしめキスをした。


「おやすみ」


 美咲さんに(なら)い、僕とルナも村でベッドを購入したので、ダンジョン内でも寝心地は格段に良くなっていた。


 焚き火に照らされて、いつもより少し幼く見える美咲さんの寝顔と、まだあどけなさの残るルナの穏やかな寝顔が、眩しく僕の瞳に映っている。


 ぱちぱちと爆ぜる薪の音を聞きながら、メイに寄りかかりつつ漆黒の馬体を撫でる。ビロードのような短い毛並みの手触りがとても心地いい。もちろん索敵の手は抜いていない。知覚を高め、五感をフルに使って常に警戒をしている。






 三人と魔馬たちで交代しながら見張りをして寝たが、結局朝まで一度もモンスターの襲撃はなかった。おかげで熟睡できたので疲れも取れたし、魔力も完全に回復している。

 

 朝食を取りながら、次の階層でのシミュレーションをしていると、美咲さんから案が出た。


「重たいからどうかなと思って付けていなかったけど、昨日買っておいた中古品の馬鎧があるじゃない? メイもラヴィも力持ちでタフだから……昨日みたいなことがあると怖いし、怪我しないように装着してあげない?」


 昨日の戦闘では、カスリ傷だけど何回か矢がラヴィを掠めていたって言ってたよね。


 三人でじっと黒馬メイと白馬ラヴィを見つめる。二頭の魔馬は均整のとれた素晴らしい馬体をしており、筋肉も逞しい。


「昨日あれだけ走っても元気いっぱいでしたし、一度装着してみましょうか。嫌がるようならやめればよいでしょうし」


 ルナも賛成のようだし、僕もそう思う。二頭に確かめるのが一番良さそうだ。手分けして馬鎧を装着していく。


 出来上がった完全装備のメイとラヴィは、とても強そうで格好いい。二頭ともユニコーンのような角まで装着しているし。


「どう? 動きにくくなっただろうけど……」


 二頭はそれぞれ確かめるように周囲を駆けると、戻ってきて力強く(いなな)いた。 


「嫌がっては……いませんね」


「「ブルルルッッ!」」


 ルナの確認に、大丈夫だというかのように鼻息荒く応えた。


「問題ないなら良かったよ。これで安全性が高まるし……聖域展開・刻で馬鎧に聖属性を付与してあげれば……ふふふっ」 

 

 機嫌よく微笑む美咲さん。


「なるほど。このアンデッドダンジョンでは、魔馬単体でも強力な存在になりそうだね」


「そうなんだよ。防御力がそのまま攻撃力になっちゃうし、メイもラヴィも賢いから、いざという時にやれることが随分と増えると思わない?」


「そうですね! ミサキさん素晴らしいアイデアです!」


「でしょ〜♪ …………まさか……巧君……聖属性の付与までできるなんて言わないよね?」


 自分の内側の界理(ロゴス)へと意識を向け、少し考えて答える。


「うーん、できないんじゃないかな?」


 ……今は(・・)ね。


「そっか〜、良かったぁ……あ、巧君、気を落とさないでね? できないことがあっても良いんだよ? それに……ダンジョンから出て……これからも私達でたくさん界理(ロゴス)を循環させていけば……できるようになるかもしれないじゃない?」


 頬を紅潮させた美咲さんの熱っぽい視線を一身に受けながら……実は僕もそう思っていたりする。


 そのためには……無事にダンジョンを攻略して、安心して交わることができるようにしなくてはね。



つまり……(エロ)が世界を救う、ということですな!


「面白かった!」

「続きが気になる、読みたい!」

「巧とルナ、美咲はこの後一体どうなるのっ……!?」


 と思っていただけましたら、


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