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第70話 聖光

 ルナに背中を預けたからには、僕も一秒でも早くこっちを片付けて戻る!


「聖光!」


 メイの突進を活かしながら右腕を突き出し、新たなスキル『聖光』を放つ。虹色の光が極太の筋を描き、前方を阻む隊列を組んだスケルトンソルジャーを消し飛ばし、その後ろに待ち構えたスケルトンアーチャーに着弾した。


 ――――――――――――――――――――


【聖光】――極めて純粋かつ清浄な界理(ロゴス)を「極光」として放つ能力。不浄な歪み(ヴァル)を圧倒的な光量で塗り潰し、対象の歪んだ情報そのものを根源たる界理(ロゴス)へと還す。


 ――――――――――――――――――――


 聖光の光の範囲内にいたスケルトン達は残らず消えて逝く。


「ううっ……私の存在意義が…………天より降り注ぐ聖なる光よ、不浄を洗い流す慈愛の雨となれ! 『聖光雨(ホーリー・レイン)』」

 

 前方右側で隊列を組み陣地を構築していたスケルトンソルジャーとスケルトンアーチャーの部隊の上に、神聖魔法の虹色の雫が降り注ぐと、濡れたところから蒸発していき、次々と光となっていく。


 僕の聖光に思うところがあるようだが……


「美咲さん……ほら、僕らは二人で一つなんだからさ。美咲さんの聖女としての力を参考にしているから、僕も聖属性の攻撃ができるようになったんだし? 昨日二人でたくさん界理(ロゴス)を循環させたから、今日は余計に聖合の力が働いているみたいな感じだよ?」

 

「ふ、ふへへ……そう……なんだ。実は……私もだよ」


 崩れ落ちそうなほど表情をふにゃふにゃに緩ませる美咲さん。


「こっからは二手に分かれるから、しっかりね。アーチャーの弓とナイトの投槍や、チャージランスに気を付けて! 聖域展開は物理攻撃を完全に防げるわけじゃないからさ」


「わ、わかってるよぅ! ……闇を切り裂く聖なる光よ、我が指先に集い、邪悪を貫く一筋の矢となれ! 『聖光矢(ホーリー・アロー)』」


 美咲さんの神聖魔法が発動し、極光の軌跡を描いてスケルトンナイトを三体まとめて串刺しにして消え去る。


「聖域展開しながらだから、早めにマナポーション飲んで魔力管理してね! よし、また後で! 分かれるよ!」


「わかってますって! そっちこそ気を付けてよ! またね!」


 聖女モードの美咲さんは膨大な魔力を操ることができるが、聖域展開の多重展開をしながらの神聖魔法の行使だからね。いくら魔力があっても油断はできない。


 馬首を巡らせ二手に分かれた僕とミサキさんは、メイとラヴィの手綱をそれぞれ操りながら、大きく半円を描いて移動する。


 意識を戦場全体に巡らせ、ルナに矢や、槍、魔法が飛ばないようにしなければならない。近場の遠距離攻撃を使う敵から削って行く。


「聖光!」

 

 魔力の膨れつつある、遠く離れたスケルトンメイジに向けて、レーザー光線のような聖光の光を照射する。狙い違わずスケルトンメイジに当たると五体まとめて吹き飛ばした。


 聖光のいいところは自分で加減して、光の密度と距離や範囲を変えれるところだね。3Dスキャンや神眼との組み合わせも相性が良い。


 美咲さんはできるだけ広域浄化をし、僕は数を減らしながらも、できるだけピンポイントで遠距離攻撃部隊を潰していく。


 役割分担をしつつ、お互いに逆回転の円を描きながら徐々にルナを中心とした半径を広げていく。時折、ケアが間に合わなかったスケルトンアーチャーから散発的に飛来する矢を、美咲さんの聖衣がバシンと弾く音がする。


 聖女モードの美咲さんは敵の物理攻撃に対して不安が残っている。だけど、今回は僕ら以外誰もいないダンジョン内なので、美咲さんの防具はアイアンボア製ではなくゼニス王国で充てがわれた最高の聖女装備だ。


 白練の杖に、聖なる冠、聖なる衣、聖なる首飾り、聖なる靴とどれも高い防御力を誇っているので、スケルトンナイトのチャージランスでも、少なくとも一撃死はしないだろう。命があれば回復手段はあるしね。

 

 




 すでに何度も美咲さんと交差してはすれ違っている。途中一度だけ討ち漏らしたスケルトンアーチャーからルナに矢が放たれたが、僕の声に反応して見事に避けていた。集中しているルナにとっては、スケルトンアーチャー程度の弓矢では躱すのも楽勝なのだろうか。


「聖光!」


「天より降り注ぐ聖なる光よ、不浄を洗い流す慈愛の雨となれ! 『聖光雨(ホーリー・レイン)』!」


 異なる虹色の光の連鎖で、遂にスケルトンの軍団は全て消滅した。軍団を殲滅する間、視界の端で捉えていたルナは、見事な動きでスケルトンジェネラルの猛攻を抑え続けていた。



「待たせたね! ルナ! 大丈夫!? 生光!」 


 ――――――――――――――――――――――


【生光】 ――生命の根源である界理(ロゴス)に宿る「光」を増幅させ、失われた生命力や肉体の構造を「再生」させる能力。


 ――――――――――――――――――――――


 側に駆け付けて、近くで見たルナは、防具が無い所の服が裂け何箇所も血が滲んでいたが、生光の光が行き届くと、傷口が見る間に回復していった。


 一方のスケルトンジェネラルの体は、全身の強固な鈍色の骨にあちこちヒビが入っており、激戦の跡が残されていた。


「助太刀はいるかい?」


 メイから飛び降りると右手に短槍を構え、左手でいつでもスキルを発動させる体勢をとり、ルナへと声をかけた。


「いえ、スケルトンジェネラルの槍はすでに見切りました。回復していただいただけで十分です」

 

 獰猛な顔付きで、最後までやらせろと言うルナ。さすがの戦闘民族っぷりだ。


 その言葉が刺激したのか、スケルトンジェネラルは肩口に構えていた長柄斧槍(ハルバード)を螺旋のように回転させた刺突を繰り出す! 


 ギャリン!


 甲高い音が鳴る。螺旋に逆らわずアクアスケイル・バックラーで巧妙に威力を落とし、右手に持つ鋼のショートソードでハルバードを巻き上げると、スケルトンジェネラルは大きく体勢を崩した。


 その隙を逃さずスケルトンジェネラルの足を踏み台にして高く飛び、虹色を纏ったショートソードで首を薙いだ。切り離された頭部を大きく蹴り飛ばすと、肩口から肋骨の内側へショートソードを突き立てる。


 ガツンッ!


 見事にスケルトンジェネラルの核を突き崩したルナは、大きく跳躍すると、ひらりと僕の隣へと着地した。


 一呼吸の後に、スケルトンジェネラルの体は光を発しながら消えていく。蹴り飛ばされた頭部は、消える直前に(あご)をカタカタと動かして何かを喋ったような気がした。


 消えて逝く光が完全に消滅するのを見届けたルナは、ガクリと膝をつきそうになったので、慌てて抱きとめる。


「お疲れ様」


「はぁはぁ……ありがとうございます」


 肩で大きく息をするルナ。見た目以上にかなり消耗していたみたいだ。鎧越しに伝わる彼女の鼓動は激しく、その体温は熱い。冷たい霧が晴れ、ダンジョンに初めての静寂が訪れた。


「……最後、何を言っていたのかな……」


 ふと、疑問に思ったことを僕は呟く。


 カタカタと顎を鳴らし、光となって消えた大将軍の遺した大きな魔石とハルバードを見つめ、ルナが小さく微笑んだ。


「私には、見事、と言っているように聞こえました……」

 

 ……そっか、武人同士、モンスターとはいえなにか通ずるところがあったのかな……


「我が身を巡る生命の光よ、傷つきし者に癒しの調べを届け、安定の理を呼び戻せ! 『生光治癒(ハイ・ヒーリング)』」


 美咲さんからの癒しの光がルナを優しく覆う。


「……みんなが無事で良かった……」


 美咲さんの言葉に大きく頷き、三人で抱き合って今回の生存を喜び分かち合った。体温が混ざり合い、熱い鼓動が三人を駆け巡る。


 メイとラヴィが力強く嘶いて、鼻先を寄せて僕たちの髪をハムハムと甘噛みするのを感じながら……僕はようやく、この死の領域で生き残ったことを実感した。


 いつの間にか、スケルトンジェネラルの立派な墓石の前に、地下へと続く階段が現れている――

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