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第7話 ダンジョンからの脱出

 僕はルナが教えてくれたダンジョンについての説明と、『歪みのない街』についての真相を知ることで、ダンジョンの中で死ぬことを望まれていた状況に気付いてしまった。


 僕をここに連れてきた、案内人二人組の別れ際の会話も今なら理解できる。怒りが湧いてくるが、今はそれよりもダンジョンから無事に生還することの方が大切だ。だが、入り口にはあの案内人と、門番らしき兵士が二人いた。


 果たして素直に僕を通してくれるのか……


「タクミ様」


「え? なに?」


 どうしたものかと途方に暮れながら、今後のことを考えていると、ルナに呼びかけられた。


「タクミ様は国に命を狙われるような立場の方なのですか?」


 ……えっと、困ったな。これはどう答えればいいんだ? 


「さっきも言いましたけど、私は命の恩を返すために、生涯をタクミ様に捧げる決意をしています。私にタクミ様を助けさせてもらえませんか?」


 さっき出逢ったばかりのルナに、どこまで話せば良いのかと悩んでいたが、今のルナの言葉を聞いて決心がついた。


 なによりルナは、自分の命が危ない時でも、僕に先に逃げろというような人間性の持ち主だ。これで更にルナに騙されるようなら、もうその時はその時だ。どのみち一人で、この変な世界を生きていけるとは思えない。

 

 ルナの声は、気配は、善意に満ちている。悪意は感じない。……ルナの言葉に甘えよう。


「ルナの言うように、どうやらいつの間にか、僕は国に命を狙われているみたいだ。でも僕は悪い事は何一つやっていない。僕はこんな所で死にたくない。ルナ、僕のことを助けてくれないか?」

  

「はい。喜んでお手伝いさせてもらいます」


 明るく声がはずみ、ふわりとルナが微笑んだ。


 おおっ、すごいな知覚10。気配だけでなく、表情までちゃんとわかるよ。これは嬉しいな。


 ルナの尻尾もふりふりしている。


「とりあえずダンジョンから出ましょう。少し待っていてください。魔石とドロップ品を回収しましょう」


 そう言って、ホブゴブリンウォーリアが消えた後に残された石と剣、そして戦闘中は気付いていなかった、ゴブリンスカウトが遺していった石を拾って、ルナが戻ってきた。


「これは?」


「ダンジョンモンスターの魔石です。ホブゴブリンウォーリアのものは高く売れます。倒したタクミ様のものですよ」


「そうなのか……お金は大事だから、それは助かるね。売ったら二人で半分ずつ分けよう」


「いえ、倒したタクミ様のものですから、全部タクミ様が受け取ってください」


「二人で倒したんだから、二人のものでいいでしょ。とりあえず荷物になるからアイテムボックスに入れておこうか」


「初めての共同作業……」


「えっ?」


「いえ、なんでもありません。タクミ様、道案内をしますので、私についてきてください」


 そう言うと、ルナは帰り道を進み始めた。慌てて僕も後を追う。


「ルナ……トンネルの出入り口に見張りがいると思うんだけど、どうしよう?」


「大丈夫です、別なルートで外に出れますから。私達のパーティーは、その……実力も足りないし貧しいので、ダンジョンの入場料を払うと儲けが出ませんでした。少しでも収益が上がるように、兵士達の知らない裏道から出入りしています。タクミ様の体のサイズであれば、ぎりぎり通れるでしょう」


 道すがら、ルナは自分の素性と、なぜこのダンジョンに一人で居たのかを、とつとつと語りだした。どうやらこれまでの半生はひどい扱いを受けてきたらしい。中でもこのダンジョン内での仲間からの裏切りはとてもひどいものだと感じる。


 ルナと共に頑張って生き残り、今こうして話ができていることが、素直に喜ばしい。一緒にいる間は、決してルナを裏切らないと心に誓う。

 

 僕の方も、日本から突然召喚されてこの世界にやってきた経緯を説明して聞かせた。


「勇者召喚の儀式……タクミ様は思っていたよりもずっと凄い方だったんですね。それなのに、勝手に必要ないと判断してこっそりとモンスターに殺させようとするとは……許せません。


タクミ様は目が見えなくとも、何の問題もなくこの影の回廊ダンジョンを攻略できています。ここはほとんどまっ暗闇なので、普通の人間よりもむしろ凄いと思います」

 

「ああ、それはスキル? のお陰なんだよ。本当の自分の力だけだとこんな感じさ」


 元の知覚6というステータス値に戻して、短槍でこつこつと反響音を探知しながら、ゆっくりと歩いてみせた。


「スキルがなくとも、凄いですよ。私達獣人並の視覚以外の四感と、優れた気配察知能力をお持ちのようですね。いえ……並の獣人以上かも」 


「そうなのかな? 便利だし、急ぎたいから知覚は10にしておくよ。ルナはそんなに歩いて足の怪我大丈夫?」


「手当てをしていただいたので問題ありません。固定してもらったお陰で歩けるようになりました。私の場合、刺激を与えたほうが、早く怪我が治るみたいなので平気ですよ」


 ……普通の人間なら、そんなはずないんだけどな。安静にしてたほうが良いんだけど。ルナは特別治りが早いらしいから、そういう人もいると割り切って日本での常識は忘れよう……なんたって犬耳と尻尾が生えているし。


 今も、僕の前を歩くルナの尻尾が揺れているのがわかる。


 子供の頃に飼っていた、盲導犬の『ひかり』のことを思い出すよ。懐かしいなぁ。なんかもう、あの尻尾だけでルナのことを好ましく思ってしまう。


 帰り道でも行きがけに出てきた、でっかいカナブンが待ち伏せしていたが、でっカナブンが動く前にルナが難なく倒し、極小の魔石? を拾っていた。行きがけには気付かなかったが、でっカナブンからも魔石が出てきていたようだ。


 ダンジョンを歩き続けていると、少しの浮遊感と共に雰囲気が変わった。


 空気の湿り気が多くなり、わずかに感じていた肌をさすピリピリとしたものを、まったく感じないようになったのだ。


「ここを左です」

「その先は行き止まりって、案内人が言っていたよ?」

「国の兵士の知らない抜け道があるんですよ」


 ルナが微笑みながら答え、そのまま進んで行くと落盤事故でもあったかのようで、トンネルの行き止まりにでた。


「ついてきてください」


 岩の隙間を這いずってルナが進んで行く。槍をアイテムボックスにしまい、僕もルナの後を追って這いずって行く。


 ほふく前進で進み、落盤のところを通り過ぎトンネル部分に出る。少し進むとまた落盤で行き止まりだが、そこも岩の隙間を這いずって越える。これを三回繰り返した後は、落盤はなくなり、まっすぐな長いトンネルとなった。


「この影の回廊ダンジョンは、正確に言うと、あの交差点から先がダンジョン部分らしいですよ。なんでも、元々あったトンネルに歪み(ヴァル)が溜まり、ダンジョン化したらしいのです」


「へー、そうなんだ。ルナは物知りだね」


「いえ、そんなことはないですよ。この国に住んでいる人なら皆が知っているようなことしか言っていません」


 言葉とは裏腹に、ぱたぱたと高速で揺れるルナの尻尾を追いかけるうちに、ついにトンネルを出た。

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