第67話 予兆
「おはようございます」
「あ、ルナ。もう起きたんだ。早いね、おはよう。体はどう? 平気?」
右手で優しくルナの髪を撫でる。
「体ですか? ……特におかしな点はありませんよ? むしろ絶好調です。タクミ様にたくさん可愛がってもらえたので……今日は朝から漲っていますよ」
にっこりと微笑むルナ。この体力おばけめ……性豪スキルに補助された僕でさえヘロヘロだというのに……
「狼獣人は性欲が強い」とさんざんルナに聞かされていたけど……底無し過ぎるだろ。とは言え、そんなところも愛おしい。一番ハードな発情期に、しっかりと「おつき合い」できるようになったことだし、もう精力に対する不安はなくなったのだ。僕もこれからの夜が楽しみになってきた。
美咲さんは……さすがにまだ起きないか。
穏やかな寝息で微かに上下する胸を眺めて、左手で優しく美咲さんの髪を撫でつける。
「ん……」
「ルナは平気かもしれないけど、夜遅かったし僕もまだ眠いから今日はもう少し寝ようか」
「はい」
ぎゅむっと右腕が谷間に挟まれた。……まさか『寝る』の意味を勘違いしていないよね?
ちょっぴり心配したけれど、それ以上の追撃はなかったので幸せな気分に浸りながら二度寝を満喫した。
「おはよう巧君」
「おはよう」
二度寝から目覚めると、美咲さんもちょうど起きたばかりのようだね。あれから三時間ほど二度寝したみたいだ。
「……巧君……」
「……はい」
「……激しすぎ……」
怒られてしまった。
美咲さんが顔を伏せ、布団を鼻先まで引き上げる。その隙間から覗く首筋には、昨夜の熱情を物語るような淡い赤みがいくつも残っていた。
「……ごめん」
「私はもっと、まったりと甘々なのが希望です……」
「……はい。すみません……」
どうやらちょっぴりハッスルし過ぎたようだ。ルナに引っ張られるように、美咲さんとも荒ぶってしまった。ごめんよ美咲さん。
「……でも……たまになら……ああいうのもいいかも……」
目を伏せながらポッと頬を染める美咲さん。
「……はい」
そうですか、そうですか……さすがは知覚先生。虜にしちゃいましたか?
美咲さんは元々知覚が10あったからね。スキルを使って欲しそうな雰囲気だったから、今回は15まで上げました。
数字の上では1.5倍アップのように見えるけど、実際に肉体に及ぼす効果は、ステータスが1上がると目に見えてわかるほどに影響を及ぼす。体感的には感覚が三倍以上敏感になっていたはずだ。
スキルを使用しても、ちゃんと喜んでもらえたなら光栄です。
眠気は完全になくなったので、身支度を整えて朝のミーティングを始める。
「それじゃあ今日の予定は昨日の続きということで良いかな?」
「そうですね」
「私は気になることがあるんだけど」
ルナが頷き、美咲さんは待ったをかける。
「気になること?」
「そう。ルナちゃんの情報収集だと、モーギスの丘ダンジョンって初心者向けなのに実入りが悪いから誰も来ないって言ってたよね?」
「そう聞いています」
「でもさ……初心者向けのはずなのに……Dランクモンスターがかなりの頻度でポコポコ現れるのって変じゃない?」
美咲さんの言葉に、部屋の温度が一段下がったような気がした。
「「確かに!?」」
「……私が入手した情報が誤りだった?……いえ、道中三つの村でモーギスの丘ダンジョンの話を聞きましたし、そのどれもか初心者向けだと確かに言っていた……」
ルナが記憶を探りながら、呟く。
「はっ!? 情報ではダンジョン入り口付近に現れるモンスターは……Fランクのみだと聞き出したはず!? 第一階層は極稀にEランクが出る程度……すみません! 私が真っ先に気付かなければいけなかったのに!」
「僕ら三人があまりにも順調にモンスターを倒していけるものだから……僕にはまったくおかしいと思えなかったよ」
冷静に考えてみると、Dランクモンスターの魔石もけっこう手に入れているから、僕らにとっては実入りが悪いとは言えない。むしろ良い方だ。美咲さんが無双状態だから、結構楽に稼げてしまっている。
……それもそうか、美咲さんの魂の位階は51。本来ならAランクモンスターと戦えるランクなんだった。加えてアンデッドモンスターとは相性の良い『聖女』という職業。
「でね、二人共ゼニス王国の『影の回廊』ダンジョンって覚えてる?」
「忘れるはずないよ」
何も知らないまま殺されかけた場所だからね。
「タクミ様と出会った運命の場所ですから……あっ!? 本来いないはずの第一階層に、Dランクモンスターのホブゴブリンウォーリアが!」
「多分二人は知らないと思うけど、そこってその後『迷宮氾濫』を起こして周辺に被害を出したんだよ。幸い、国への第一報が早くて、騎士団と王宮魔道士がダンジョンコアを破壊して迷宮氾濫は収まったらしいんだけど……第一報を伝えた二人は死んじゃったらしいんだよ」
……それって僕を陥れようとしたあの二人組では? もう興味もないから、どうでもいい相手だけど……
「そうでしたか」
「モーギスの丘ダンジョンも、ひょっとするとかなりまずい状況ってこと?」
「宿の女将さんや、酒場で聞いてきた話では、歪界者がダンジョンに潜ること自体が久しぶりだと言っていました。ダンジョン内があの状態では……『迷宮氾濫』はすぐに起こりそうですね」
ルナの表情はくもり、申し訳なさそうに声をしぼり出す。
「だからさ、予定を変えてダンジョンの攻略に挑戦してみない? ここも浅層のダンジョンである事は間違いないんでしょ?」
「『界渡り』が使える環境ではないですからね。それは間違いありません」
「じゃあさ、可能ならダンジョン踏破してコアを破壊する。せめて大幅にダンジョン内のモンスターを討伐して、フォレル王国の騎士達が駆け付ける猶予を作り出す……だめかな?」
美咲さんが憂いを帯びた顔で切々と語った。僕はルナを見、美咲さんをもう一度見て、大きく頷く。
「やろう! 迷宮氾濫が起きたらこの村が襲われるんだよね? 僕が出会った村人達の中に対処できそうなレベルの人はいなかった。僕らがやるしかないよね」
宿の女将さんや、買い物をしている雑貨屋の夫婦など多少なりとも顔見知りもできている。僕らにはある程度解決する力があるというのに、さすがに放置する事はできない。
美咲さんがほっとした顔で表情をほころばせた。ルナも真剣な顔付きで大きく頷いている。
「でも……問題はダンジョンが広大なフィールドタイプだということですね。このままでは何日かかるか、予想すらつきません」
「それもね、良い方法を思いついたんだ。助っ人を連れて行くのはどうかな?」




