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第64話 聖・域・展・開

『無茶はしないで、自分たちの現状把握を第一とする』という基本方針を含めて、いくつかやり取りをした後にモーギスの丘ダンジョンの奥へと進む。


 臭いのでゾンビ系統は美咲さんにお願いして即滅。上位種のゾンビが出てきた場合は、一度丁寧に対応することになった。


 フィールドタイプのダンジョンなので、どの方角に行けば次の階層があるのか分からないので、初回は完全に当てずっぽうで進むことになる。


 僕の導き手、ルナの勘を頼りにして、現実世界では村のある方角を背にして進むことになった。

 

 しばらく進むと、死者の魂が燃えているという火の玉のようなモンスター――ウィスプ――が青白い燐光を発しながら五体揺れ動いていた。


  攻撃力は低いが、視界を惑わし、沼地や崖へ誘い込むFランクのアンデッドモンスターだ。


「お二人ともよく見ていてくださいね。ほとんどの霊体モンスターには、この世と存在を結びつけるための豆粒ほどの大きさの核が存在します」


 ルナがウィスプの中心点よりやや下にショートソードを切りつけると、火の玉が一つ消えた。


 僕の神眼が捉えた剣の軌跡は、見事にウィスプの核を両断していた。


「凄いね! ルナはどうやって核の位置を見つけてるの?」


 僕のように神眼で見透しているわけではないので、普通なら一発では当たらないんじゃなかろうか?


 自分でもウィスプの中に視える核を短槍で素早く突くと、あっけなく消えていく。

 

「……勘です」


 首をかしげながら答えるルナ。


「勘!? そっかぁ、勘かぁ……それじゃあ真似できないね」


 ルナが更に一体を斬り捨てる。

 

「……うーん……そうですね……言葉にするのは難しいのですが……タクミ様にねじれを治してもらったおかげで、ようやく勘の出どころがわかった気がします。……勘ではあるのですが、臭うんです」


「臭う?」


「はい。なんというか……物理的に臭うのではなく、そういう気がするというか、感覚でしかないのですが……今までは無意識に、一番濃く臭うところを斬っていたみたいです」


「臭い……か。ありがとうルナ。神眼をオフにして僕も試してみるよ」


 僕も聴覚、嗅覚には自信があるからね。できることは多いに越したことはない。瞳を閉じて鼻に集中して、残った二体のウィスプに意識を向ける。


 あ……なるほど……火の玉に臭いはあるのかと問われれば……答えはある。


 霊の臭いというより、歪み(ヴァル)の臭いなのかもしれないな。でも……僕に分かるのはそこまでだ。核の臭いという特別な臭いや濃さの違いまでは感じ取ることができなかった。

 

 瞳を閉じたまま、ウィスプの臭いをめがけて短槍で突く!


 はずれたかな? 一撃で核を捉えるなんて無理か。


 突く! 突く! 突く!


 ウィスプの臭いが消えた……よし、核に当たった!?


「タクミ様、お見事です!」


「うーん、今のところ霊がそこにいるのを臭いで感じ取ることができる、ということぐらいまでしかできなかったよ。嗅覚と脳の結びつきがまだルナの域にまで達していないからなのかな。それとも核の臭いがわかるルナが特別なのか……」


「他の狼獣人が臭いだけで判別しているかどうかはわかりませんが、私の村の同世代でも、ほぼ一撃で核を狙える者が数名いましたよ。他のみんなも勘だって言ってましたけど……」


「そっか……流石は狼獣人だ。僕も神眼に頼りっきりにならないようにしなきゃいけないな。視えるようになったとたんに、神眼ばかりで視るようになってしまったからね」


 さて美咲さんは……


「せい! とお! あた〜!」


 さっきから最後の一体のウィスプをタコ殴りにしているけど、なかなか決着がつかないみたいだ。


「拳などの面で核を捉えるのは、けっこう難しいんですよね。拳圧で核が揺らいですり抜けてしまうんです」


「そうなんだ……霊体にはむしろ刃物が有利なんだね。覚えておこう」


「スケルトン系には鈍器が有利なんですが……相手に合わせてわざわざ武器を持ち替える余裕のある人はなかなかいませんし、一長一短ですね」


「むむむっ! はあ!」


 核を潰されたウィスプが消えた。


「ふぅ~……手強い相手であった」


「美咲さん、最後はどうやったの?」


「ん~~、核を狙うのは諦めて、ウィスプの手前で全力の拳を止めたの。拳圧で破壊した感じ?」


「ウィスプはFランクですからね。ミサキさんのCランク級のパワーアップした拳の威力なら一撃でしょう。鈍器使いもそうやって倒しますし」


「うん、色々試せて良かったよ。二人は倒すの早かったね」


 感想戦を行いながら更に奥まで進んでいくと、辺り一面に一段と冷気が増し、人型のゴーストが三体現れた。


「次は新しいことを試したいから、全部私一人に任せてくれない?」


「わかりました」


「美咲さん、気をつけてね」


「いくよ! 聖域展開・纏!!」


 美咲さんの全身がうっすらと虹色の膜に覆われた。


 おお!? 


「私は嘆かない。私は祈らない。私が為すのは、世界の(ことわり)をあるべき姿に戻す、ただそれだけ。―—それが、私、ホワイトの救済だ」

 

 あっ! これはあれだな。


「神聖術と武術を極めた修道僧(モンク)の一撃を、その身に刻みなさい!――聖拳(セイントフィスト)!!」

 

 カンフーの型からの正拳突きがゴーストの人型中心に当たると、当たった瞬間に虹色の煌めきを遺してゴーストは消えてしまった。


聖拳(セイントフィスト)!!」


 次いで二体目のゴーストの右腕に当たった聖拳は、右腕を消し去った後もじわじわと虹色が右肩に向けて上がっていっている。


聖拳(セイントフィスト)!!」


 三体目の腹をうがった聖拳の光は、生じた穴からゴーストの体の外側へとめがけてじわじわと侵食していき、胸にある核を捉えた時点でゴーストは魔石を遺して消えた。


聖拳(セイントフィスト)!!」


 再び二体目に放たれた聖拳は、二体目のゴーストの核をぶち抜き、一瞬にしてゴーストは消え去った。


「むふぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」


 残心をとる美咲さんは頬を紅潮させ、全身を打ち震わせていた。


 ポカンとして見ていた僕とルナだが、慌てて周囲の索敵を行う。隠れている敵はいない。


「……ゴーストといえば、前衛職にとって厄介なDランクモンスターの代名詞なのですが……」


「凄かったね……美咲さん今のは?」


「聖域展開をね! 私の体表に限定して凝縮して(まと)ったんだよ!」


 瞳をキラキラさせながら勢い込んで話し出す美咲さん。喜びが最高潮に達しているようだ。


聖拳(セイントフィスト)はスキルじゃなくでファンサ15のホワイトの技名だけど……見てくれた?? あれがホワイトだよ! まさにホワイトだったよ! 私……感動した……」


 うんうん、良かったね。いまだ興奮冷めやらず、嬉しそうな美咲さんの頭をポンポンして喜びを分かち合う。


 それにしても美咲さん応用力が高いな。他にもまだアイデアがあるらしいし、一人だけ魂の位階(レベル)51だし……アンデッドモンスター相手なら、整合した今では美咲さんが一番戦闘力が高いんじゃないだろうか?


 ……僕らも負けてられないな。


 モーギスの丘ダンジョンでの探索は粛々と進み、色々なお試しを経て更に力をつけることに成功した。一日の探索を終えた僕らは全員無事に今日の目的を達成し、ダンジョンを出た。


 そして村への帰り道、ダンジョン外での戦いへと舞台は移行していく……





「だからぁ! ルナちゃんは明日満月だからすんごいのするって言ってたよね!? だから今日は私が二人きりでいいでしょ!」


「私だって六日間もさんざん我慢していたので駄目です。美咲さんが二連続になっちゃうじゃないですか」


 激しく口論する二人の背中には、なぜかピンク色のオーラが幻視できてしまった。


「それを言うなら、ルナちゃんだってその後二連続になっちゃうじゃない!」 


「私は……ほら、発情期だし種族的に仕方がないので特例? ですよ?」


「それはずるいよ。……ルナちゃん、昨日までは優しかったのに……どうしちゃったのよ」


「私は今朝……悟りました。遠慮していてはヤられる……と。だから、ちゃんと自分の権利の主張はしますよ!」


「え〜」


「それではこうしましょう。今日は私。これはもう決定です。譲りませんよ。だから明日はミサキさんです。……ただし、私も飛び入りで参加します。明日は絶対外せませんので悪しからず」


「なにそれ!? ひどい! それが許されるなら私だって今日一緒に……」


 真っ赤になって、ぷしゅ〜とオーバーヒート気味の美咲さんの語尾が尻すぼみになる。


「ミサキさんには三人で一緒に、というのは無理なのでは? 無謀なことは考えずに、おとなしく私に二日間差し出してください。……ね?」


「ぐぬぬっっ……わ、私だって! ま、負けてられない!」


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