第63話 ……言えない
前方には地面からはい出してきたスケルトンが三体。はるか後方にはゾンビの群れがおよそ三十体、腐肉をボタボタと垂らしながらこちらに向かって来ている。
「うわぁ……私、うぞうぞしててゾンビって大っ嫌いなんだよね。……でも、だからこそ、かな。巧君、ルナちゃん、ゾンビは任せてもらって良い? 色々試したいんだ」
「ではスケルトンは私たちで引き受けますので、よろしくお願いします」
「ゾンビはまだまだ遠いから落ち着いて頼むね、美咲さん」
「オッケー! 二人とも薄暗いから戦いづらいでしょ? 明かりも私に任せて!」
美咲さんが意気揚々と詠唱を始める。
「光よ! 我が頭上に集い、闇を払う灯火となれ!『常光球』」
美咲さんの体内の魔力が一気に練り上げられ、界理を書き換えて僕らの頭上に光を生み出す。
「ありがとうございます」
ルナが律儀にお礼を言うが……
……言えない。僕もルナも真っ暗闇でも問題なく活動できるなんて……得意げに魔法を使う美咲さんには……とても言えない……美咲さんもそのことを知っているはずなんだけどね。
……美咲さんには明かりがいるだろうから……必要な魔法なんだけどね。
僕らの前方に現れた三体のスケルトンは、一体がルナに瞬殺され、残りを一体ずつ僕とルナで受け持つ。
「身体が……以前よりも、はるかに滑らかに動きます!」
一対一になったことで実験的な動きも試すことができるようになった。
スケルトンは頭部を粉々にするか、心臓部分に当たる位置に隠された核を破壊することで倒せる。だが、はっきりいって今の僕らにとっては雑魚敵なので、ルナはホネホネ先生の呼び名通り、組手の相手として使うようだ。
今回が初アンデッドモンスターな僕はというと、とりあえず全力で頭部の中央に鋼の短槍で突きを入れる。衝撃波も影響したのか、槍の一撃で頭部が粉々になりスケルトンはくず魔石を遺して消えてしまった。
次は心臓部分を狙ってみよう。
「闇を切り裂く聖なる光よ、我が指先に集い、邪悪を貫く一筋の矢となれ! 『聖光矢』」
美咲さんの神聖魔法が発動し、極光の軌跡を描いてうぞうぞとこちらに向かって歩いて来ているゾンビの群れの一体を貫通し、三体まとめて串刺しにした。
「よし!」
消えていくゾンビを見ながらガッツポーズをとる美咲さん。
いいね!
我がパーティーも、ついに魔法での精密な遠距離攻撃を手に入れた。美咲さんの将来が楽しみだ。
美咲さんの方も、手の空いた僕が加勢するまでもなく、ゾンビの相手は問題なさそうだ。臭い攻撃に対策が必要なくらいかな。
「次は……まとめていっちゃおうかな! 聖域展開の範囲を絞って……浄化力を最大に上げて、と。いくよ! 聖域展開・浄!」
ゾンビの群れがまとめて虹色に淡く発光するドームに囚われ、一瞬ドーム内の光が強くなったかと思うと、全てのゾンビ達が音もなく光へと消えていった。
「おお〜!?」
「ええっ!?」
ルナも鋼のショートソードで残ったスケルトンにとどめを刺し終わり、美咲さんの方を見ていたようだ。
「凄いね美咲さん!」
「まるでおとぎ話に出てくる聖女様のようでした!」
「ふふっ、ようやく聖女らしいことができるようになったみたい……ちゃんとできて……良かった」
3Dスキャンで周囲の索敵をし、残敵がいないかを確かめると、探知できる範囲にモンスターはいなかった。早速戦闘後のフィードバックを始める。
と、その前に……聖合後に知覚をより細かく、五感ごとに設定できるようになったので、嗅覚をほぼなくしその分を聴覚と視覚に割り振った。
「ゾンビ対策として嗅覚をなくすことができるけど、二人にもやってあげようか?」
「そんなことできるの? じゃあ……お願いしよっかな」
「私は……もう少し今のままで慣らしてみます。その内に鼻がバカになりそうで、どのみち臭いが嗅げなくなりそうではありますが……」
「じゃあ美咲さん、こっちに来て」
「ん……ど、どうぞ……」
ツンと突き出された胸へ、服の隙間から右手を侵入させて直接界理の核に触れる。ここは危険なダンジョン内だ。決して乳繰り合っているわけではない。
「……あ……ん……」
「どうかな?」
「……くんくん。あ、巧君の匂いもほとんどしなくなったよ。ちょっと残念だけど、これならゾンビが来ても臭いで行動を阻害されることはないね!」
「それじゃあ……実際に戦ってみて、どうだった?」
「私はそうですね……言葉にするのは難しいのですが……イメージしただけで、すでにスケルトンを倒し終わった後だった、という位の感覚になりました。変わってみて初めて気付いたことなのですが、今までは私の認識に対して身体の反応がほんの数瞬遅れていたのでしょう。おそらくステータスとは別の次元で反応速度が上がったのだと思います」
「私はねぇ……見てくれてたかな? ちゃんと神聖魔法と支援魔法が使えたんだよ! あ、二人とも怪我はしてない? もし怪我していたら 『生命治癒』の魔法使えるよ?」
美咲さんがにっこにこ笑顔で僕らに怪我の有無を確認してくる。魔法が使えるようになったのが心底嬉しいのだろう。
だけど……言えない……
今日は昨日の夜のことがあったから、美咲さんがなんとなくガニ股気味で歩いているんだけど……それが偲びなくって、癒してあげたいな、とさっき願ったら、新たに『生光』というスキルを得てしまったなんて……とても言えない……
……ルナも超回復能力(涎)持ちだし……
――――――――――――――――――――――
【生光】 ――生命の根源である界理に宿る「光」を増幅させ、失われた生命力や肉体の構造を「再生」させる能力。
――――――――――――――――――――――
どうやら聖合の影響で『整合師熟練度2』で得た、スキルを新たに創る能力が、より簡単にできるようになったみたいだ。
効果も神眼で読み取らなくても直感的に分かるようになったし……今の美咲さんに使うと、失ったばかりの純潔まで再生してしまいかねないなんて……とても言えない……
「怪我はしてないので大丈夫です。それにしてもさっきのゾンビを一瞬で浄化したのは凄かったですね! あれも神聖魔法ですか?」
「ううん、あれは聖域展開の応用だよ。他にもいくつか応用できることを考えついてるんだ。次に使ってみるのが楽しみ!」




