第60話 聖合
コンコンコン。ガチャ。
「おはようございます」
朝の挨拶と共に鍵を開け、ルナが二人部屋に帰って来た。
「「ルナ(ちゃん)おはよう」」
スンっと部屋を一嗅ぎしたルナはすまし顔で呟く。
「昨夜は首尾良く美咲さんにハーレムの仲間に入ってもらえたようですね」
尻尾を軽く振り、声がどことなく嬉しそうに弾んでいる。
「うん、ルナが僕たちの背中を押してくれたお陰だよ。ありがとうルナ」
「ありがとうルナちゃん。お陰で私……今とても幸せだよ」
美咲さんは上気した頬を両手で包み肩を震わせながら、僕と同じく心からの感謝を伝える。
「良かったです。これで私達三人は固い絆で結ばれましたね。……では美咲さんの整合も?」
「『移動支援』スキルは取り除けたけど『整合』はまだ試していないよ。『制交』はオフにしたからルナも安心して欲しい。魔力枯渇で心配かけてごめんね」
「本当ですか! それは良かったです!」
「それでね、朝起きてみたら『聖合』っていう新しいスキルが生えていて……今ちょうど驚いていたところ」
「「聖合??」
二人の視線が僕に集まる。
「そう聖合。神眼で見えている鑑定の説明を読み上げるね」
【聖合】――同一の根源より内と外に分かたれた「整合師」と「聖女」が、「魂の回路」で繋がれたことにより界理を調和・結合させ、権能の欠落を相互に補完する能力。
二人に読んで聞かせたところ、美咲さんとルナが激しく反応した。
美咲さんは口元を押さえ驚愕に満ちた顔をしたと思ったら、数秒後には耐えきれないといった風に、だらしなく口元を緩めた。
「うふっ…………うふふふふ。……私と巧君は……元々同一の存在? そこから別れた? そして再び一つに?………くふふ……システム? スキル? 世界? それとも神様? ……が認めた……伴侶? ……私達は……いえ、職業はかもしれないけど……いいえ、きっと私達はよね。……デュフフフ……私達は比翼連理なのかしら…………うふっ…………うふふふふ…………………………………………」
どうやら美咲さんはニヤニヤ笑いが止まらないようだ。
ルナは目を見開き、表情や揺れていた尻尾も含めてあらゆるところが固まってしまった。
「あわ!? あわわわわわ?? わ、わわわわ私の優位性が…………よ、よよよよ余裕ぶっこいていたら…………な、なんてことに!? は、初めてを交換しあった仲なんて……ミサキさんとタクミ様の関係性に比べたら些細な出来事では!? す、すすすす捨て!? ハーレムの一員どころか……ポイッて捨てられてしまうかもももももも!?」
ルナが大きくのけぞり涙目になっている。冷汗をダラダラと流し、動揺が激しく所々何を言っているのかわかりづらい。いつもの泰然とした姿は見る影もなく、ガタガタと震えていた。
「ルナ、おいで」
優しく呼びかけ、ルナの肩をそっと抱き寄せる。
「ルナは僕の光だよ。この世界を照らしてくれる、導きの灯火だ。たとえ何が起ころうとも、ルナをのけ者にするなんて絶対にない。もしもルナが逃げ出したくなったとしても、もう逃さないよ? その光を追ってどこまでもついて行くからね」
「……タクミ様……」
溢れてきた涙を指先ですくい取る。
「……逃げ出すなんてあり得ません。私なんて、初めてタクミ様に出会ったその日から一生憑いていくって心に誓いましたから……私の方こそ……狙った獲物は逃がしません! 狼からは逃げられませんからね?」
ぐすぐすと涙声ながら力強く宣言するルナを強く抱きしめ、返答代わりに口付けをした。
「コホン! 嬉しすぎて……ちょっと舞いあがっちゃったけど……私もルナちゃんのことはこの先何があっても一生尊重します。なんたって私の恩人だからね!」
「ミサキさん……」
ルナが美咲さんの元へ行き、お互いにお礼を言い合いながら抱き合っている。
……ひょっとして……スキルの効果を読み上げただけで……修羅場になるところだったのだろうか?
……ハーレムって……こわい。
果たして僕はこの先うまくやっていけるのか不安に感じながらも、新しいスキルが生えたのならばきちんと検証しなくてはならない。
二人が落ち着いたようなので、冷や汗を拭いながら改めてスキルや職業について皆で考察をする。
【整合】――物理的・魔力的・精神的な構造そのものに存在する「歪みと界理」を感知し、それをステータスボードを通じて「整え」、本来あるべき清らかな界理の状態へと「統合」する能力。
【性交】――精神と肉体が深く交わることによって、二人の魂の根源である界理が繋ぎ合わさり、「魂の回路」を構築する能力。
【聖合】――同一の根源より内と外に分かたれた「整合師」と「聖女」が、「魂の回路」で繋がれたことにより界理を調和・結合させ、権能の欠落を相互に補完する能力。
【整合師】徳本巧の固有職業。世界の「歪み」を感知し、「調和」へと整える能力をもつ。世界の根源である界理に作用する。
【聖女】
白石美咲の固有職業。周囲に存在する広範囲の「歪み」を浄化し、世界の根源である「界理」を清浄にし癒す。
「整合師と聖女は同一の根源より内と外に分かたれたってことは、元は別の一つの職業だったのかな?」
「でゅふ……ふふっ、そうみたいね。どちらも『歪み』と『界理』に直接干渉すると読み取れるから、整合師も聖女も普通の魔法職よりも相当強力な職業だと思うわ。『元の職業』? なんて超すごい予感がしてわくわくするもの……」
「整合師が内側、聖女が外側にっていうのも納得感がありますよね。『権能の欠落を相互に補完』と書いてあるのなら、ミサキさんも魔法が使えるようになったりするのでは?」
ルナの指摘に、僕は自分の手を見つめた。僕が『内』を整え、美咲さんが『外』を浄化する……
「……うーん……ステータスボードには今のところ変化なし……何かが変わったような感覚も……ない……かな。はっ!? そうだわ、こうなったらもっとたくさん数多く、が、合体しなきゃいけないんじゃないかしら」
ぽっと頬を染め頭を振ってイヤイヤとしながらも、僕を見る瞳は熱っぽい。
「ミサキさん……しれっと抜けがけして自分の番を増やそうとしないでください……」
「や、やだなぁルナちゃん、これは抜けがけじゃなくて……検証……そう検証よ?」
ルナのじと目が美咲さんに突き刺さる。
「ひょっとして……まだ発動されていないんじゃないかな?」
自分のステータスボードを開き、聖合スキルに意識を集中して唱える。
「聖合!」
自信満々に唱えてみたものの……自分のステータスボードにも、神眼で見る美咲さんのステータスボードにも変化がなかった。
あ……このパターンは……例の手順かな?
「ちょっと失礼」
美咲さんの胸を凝視して、おもむろに服の中へと右手を侵入させ豊かな双丘に直接ふれた。
「ちょ……ちょっと巧君……ん……あ……ルナちゃんに見られちゃうよ……」
美咲さんの吐息が耳元を掠める。触れたとたんに声に甘い響きが混じっていた。
気をしっかりと保って『聖合』スキルに全集中し……
「聖合!!」
「「「わっ」」」
――僕と美咲さんの胸を中心にして、二人の全身が眩しいほどに虹色に光り輝く――
美咲さんのステータスボードのスキル欄のグレーアウトしていた*聖域展開*が瞬間的に虹色に塗り替えられると色濃くはっきりと表示され……
空白だったスキル欄に、回復魔法、支援魔法、神聖魔法のスキル名が虹色の煌めきと共に次々と刻まれていった。




