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第56話 お前も○にならないか?(美咲視点)

 ――Side 美咲――


 一回り大きくなったメイとラヴィはスタミナもスピードも向上し、街道を飛ぶように駆けていく。蹄が地面を叩く規則正しいリズムが心地よく、爽やかな風の匂いを味わう。


 乗馬に慣れてきた巧君の背中から伝わる体温と、通り抜ける森林の濃い匂い。そんな何気ない時間が愛おしくて、私は彼の背中にそっと顔を寄せた。


 パワーアップした魔馬のおかげで迷宮の赤ちゃん(ベビーダンジョン)で過ごした時間を取り戻し、宵闇が全てを支配する夜が訪れる直前に次の村へと辿り着くことができた。


 すでに空には美しい十三夜月が目立ち始め、星々も次々に明るく輝き出している。


 木の柵で周辺を囲われた村に入った私達は、すぐに宿と食事を求めて村内を移動する。


 この村付近に人気(にんき)はないが小規模なダンジョンがあるらしいので、予定では明日ダンジョンに潜ることになっている。ちゃんとした宿で十分な休養を取ることができるのはありがたい。


 今日も安定の一人部屋プラス二人部屋という謎の仕様で部屋を借りた。食事が終わるとルナちゃんに二人きりで話がある、と言われたので一緒に一人部屋へと向かった。


 いつになく真剣な顔で、お茶を飲みながらこちらを伺うルナちゃん。


「ミサキさん」


「なぁに?」


「月がきれいですね」


 ……まさかの……私への愛の告白かしら……?


「ずっと黙っているというのも無理があるので……今日は思い切って言っちゃいますね。……実は」


 な、なにかしら?


「私とタクミ様は明後日の夜に激しく目交(まぐわ)います」


「ブフゥー!!」


 衝撃的すぎる一言に、飲みかけていたお茶をルナちゃんの顔面に吹き出してしまった。


「……汚いですね」

 

 手拭いで顔を拭くルナちゃん。


「ゴホッゴホッ! ……ごめんなさい、いまなんて?」


「明後日は満月です。私は発情期になるので、本能を抑えきれません。ミサキさんが側にいようが何をしようが、お構いなしにやりまくります。それはそれは、もうとびっきり濃厚なやつです」


 き、聞き間違いじゃなかった!?


 そういえばゼニス王国の獣人女性さん達も、発情期がある日は大変だという話を聞いたことがあったわ……はっ!?


 それはつまり……巧君にとっては……


「医療行為??」


「……面白い表現ですね? タクミ様と私は結婚の約束をしている間柄です。ミサキさんに遠慮してここ最近はいたしていませんが、その前は毎日のように愛し合っていましたよ?」


 せめてそうであって欲しいという、私のちっぽけな願いはあっけなく崩されてしまった。


 やっぱり巧君とルナちゃんはそういう関係だったんだ……あぁ、私も……私も巧君のことが誰よりも好きなんだと、無責任に言えたらいいのに……こうなる前にもっと早く……それこそ日本にいる時に言えてれば……良かった……


「ごめんなさい……巧君に色々絡んだりして、不愉快だったよね」


 巧君とルボンドダンジョンで再会したあの時以来、坂道から転がりおちるように好きな気持ちが日に日に大きくなっていった。


 もう自分ではどうしようもなく制御などできない。それなのに……


 あれだけ美しく綺麗に色づいていた世界から、色も音も消え去ってしまった。一瞬でぽっかりと空いてしまった虚無の淵から覗く、ルナちゃんの姿がただただ眩しい。


 巧君との明るく楽しい人生を夢見ていたけれど、それはすでに……ルナちゃんのものだった……


 私が巧君に対して行っていた、この五日間の浮かれきった言動を思い出し……自分で自分に幻滅する。


 結婚の約束もしている二人なのに、そのことを知らなかったとはいえ、自分の気持ちが抑えられなくて巧君に事あるごとにちょっかいをかけていた。


 ……私……最低だ。


 この五日間、私はルナちゃんの寛大さに甘えていただけだった。彼女がどんな思いで私と巧君のやり取りを眺めていたのかも知らずに。


「ごめん、迷惑かけて……私……できるだけ早く二人と別れてパーティーから出ていくね」


 言葉にした瞬間、胸の奥が焼き切れるような痛みに襲われた。


 巧君との旅、彼と笑い合った時間。その全てが、ルナちゃんを傷つける不道徳な略奪だったのだと突きつけられた気がした。息が……詰まってしまって苦しい。


 ルナちゃんがきょとんとした顔で首をかしげている。


「なぜミサキさんが出ていく必要があるのですか?」


 ひどい! ルナちゃんが巧君に思いを寄せてることに私が薄々勘付いていたみたいに、ルナちゃんも私の気持ちにきっと気付いているのに!


「………………私……私も巧君のことが好きなの! 愛しているの! 他の人と結婚の約束をしている人に対してこんな思いを持っているなんて、嫌な女だと自分でも思うけど……止められないの! でもそれって二人には凄く迷惑だと思うから……」


「ああ……そういうことですか……ミサキさん、あなたも狼になりませんか?」


「……は?」


「ニホンジンの考えに縛られずにミサキさんも心は狼獣人になって、タクミ様の群れ(ハーレム)に加われば良いのですよ」


「え?」


「ああ、ちゃんとルールはありますからね? タクミ様は皆のものなので独占してはだめですよ? 私には独占欲はありませんので安心してください。それから必ず順番に、もしくは同時に愛してもらったりすることです。自分だけが特別、というのはいけませんよ?」


「やきもちを……妬いたりしないの?」


「しませんよ? だって狼獣人は一夫多妻が普通ですから。私とミサキさんだけでなく、この先も群れ(ハーレム)は拡大していくのが私の方針なので、その時が来たら新たな女の子のことをきちんと受け入れてあげる心構えでいてくださいね?」

 

 どうしよう。衝撃的なことが多すぎて、話についていけない。


「私はミサキさんを歓迎します。共にタクミ様を支えていきましょう」


「えーっと……この先、私も巧君のことを好きでいて良いの? 愛し続けて良いの?」

 

「はい、良いですよ」


「……」


「これは私からのお願いですが……独占欲はないのでやきもちを妬いたりしないとは言いましたが、できれば決心がついたらミサキさんにはこれを飲んで欲しいです」


 ルナちゃんがスッと液体の入った小瓶を差し出してきた。


「これは?」


「避妊薬です。私とタクミ様は種族が違うので結婚して教会の祝福を受けなければ妊娠できませんが、美咲さんはタイミングが合えば赤ちゃんを授かることもあるでしょう?」


「……赤ちゃん」


……そこまで考えて、私を受け入れようとしてくれているの?


 一瞬で色々なことを想像してしまった私は顔がほてり、次いでほわほわしてニヤニヤしてしまう。……そうよね、そういうことをするんだもの……いずれは私も赤ちゃんを産みたいわ……


「それはなんというか……ズルいというか、羨ましいというか……本当なら私もタクミ様との赤ちゃんを今すぐ授かりたいぐらいなのですよ?」


 ……そりゃあそうよね。愛する人と結ばれたら、赤ちゃんが欲しくなるのは女の子の本能だもの……


「だから同じ条件になった時に、よーいドン! で誰かが私より先に授かったとしても、それは恨みっこなしで仕方ないことなのかなとは思いますが……私だけできない状態なのに、ミサキさんが幸せそうに赤ちゃんを抱っこしていたりしたら……やっぱり悔しい気持ちになっちゃいますよ」


 ルナちゃんが唇を尖らせて、指先をツンツンしながらいじけている。

 

「……最初はルナちゃんが何を考えているのか分からなかったから、理解できないことだらけだったけど……うふふっ、ルナちゃんが良いと思うことも嫌だと思うことも知れて、始めて理解できたわ。私とは常識が違うだけで、巧君のことが大好きで仕方ないのね」


「もちろんですよ? タクミ様は私の大事な大事なご主人様ですからね。お仕えする(あるじ)という意味でのご主人様と、愛する旦那様という意味でのご主人様というのが同居しています。そこに今後は、群れのリーダーとしてのタクミ様が加わるだけのことです。


タクミ様の偉大な能力を知っている私にはわかります。この世界に必要な存在だから、タクミ様はヴァラリアという世界そのものに呼ばれたのだと。しかし外敵が多いこの世界では、私一人ではタクミ様を支えきれない。だから、あなたも必要なのです、ミサキさん。


……でも愛する気持ちは私が一番ですよ? ミサキさんには負けません」 


「私だって負けないよ! まったく……二人の女の子からこんなにも愛されているなんて! 巧君の幸せ者め!」


「あはは、本当ですね! タクミ様にはもっと幸せになってもらわないといけませんけどね」




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― 新着の感想 ―
こんにちは。 う~んどストレート!流石ルナさんやでぇ…!! まぁここは異世界、地球のルールに従う必要がある訳じゃないですからね…みんなで幸せになれる道があるならそれを選ばない理由はないですし。頑張れ…
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