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第46話 仮面と魔馬

 宿を出た僕たちは、ルナの案内で馬専門の商人の元へと向かった。


 移動途中で建物の陰に入ると、モスグリーンを使って変装し犬耳フードを目深にかぶった美咲さんに、ルナがすっと手を差し出した。


ミサキ(ホワイト)さん、良かったらこれを使ってください。簡単な変装用にと思って昨夜露店で買いました」


「これは? 白い仮面かしら?」


「そうです。口元と顎を覆わないタイプの仮面です。この辺りの祭りで使う伝統的なデザインだそうですよ」 


「わぁ、ありがとう! これなら顔を隠しながら飲食もできて便利ね」


「はい。歪界者(ヴァリアント)の中にはダンジョンに行くときに、色々な仮面を強化して装備の一つとして身につけている人もある程度いるので、日常的に使っても不自然ではないはずです」


 美咲さんが早速仮面を身につけると、ケモミミフードと腰の尻尾風の詰め物のおかげで、白い仮面を付けた謎の犬猫系獣人のように見える。


「巧先生、どうですか?」


「凄く似合っていますよ。想像で補っているのかな? 目と口周りしか見えないのに、仮面の下がとても美しいのがなぜかわかります。見えている部分だけでそれが想像できるというのも凄いですね。……視覚って不思議だなぁ。面白いですね」


「そ、そうですか!? 良かった。ルナちゃんありがとう!」


「どういたしまして。これで毎日の変装が楽になりますね」 


 美咲さんがルナの手を取ってブンブン振りながら喜んでいる。二人が仲良くなってくれているみたいで僕も嬉しい。


 ルナに導かれて宿場町グラースの外れに進むと、牧場と馬房を併設した商館に着いた。


「いらっしゃいませ。馬と馬具どちらをお求めですか?」


「旅に使うようの馬を二頭と、二頭分の馬具一式、それと飼い葉(かいば)も必要です」


 ルナが堂々と商談を始めた。不遇になる前の、立場の良かった子供の頃に身に付けたものなのだろう。Dランクの歪界者(ヴァリアント)となった今では、出会ったばかりのみすぼらしかった頃と違って風格さえ感じる。


「それでは実際に馬を見ていただきましょう」


 店員さんの案内で馬房へと連れて行かれ、一頭ずつ見てまわる。


「初めの十頭は農耕馬です。価格は銀貨八枚。こちらからここまでの二十頭は標準的な旅馬です。価格は金貨一枚」


 馬房を歩きながら順番に馬たちを見ていく。通りすがる僕らを、馬が興味深げな顔をしてこちらに鼻先を突き出して様子をうかがっている。そっと撫でてあげると嬉しそうに(いなな)いた。つぶらな瞳がかわいい。


「こちらからここまで二十頭は上等な旅馬です。こちらは金貨三枚。そして最後の十頭、こちらは魔獣との混血である魔馬となります。価格は金貨八枚です」


「お〜! 馬と言っても、色々いるんですね」


「はい。宿場町ですので当店の取り扱いには軍馬や競走馬はありません。ですが旅馬であればお求めやすい価格から、身体も一回り大きく能力に秀でた魔馬まで取り揃えております。どうぞじっくりとお選びください。試乗も可能ですので、遠慮なくお試しください」


 神眼で一頭一頭鑑定しているが、どの馬もそれぞれの価格帯で過不足ない能力を保有しているようだ。


「どうやって選べば良いのかな」


 まるっきりわからないので、素直にルナ先生に尋ねてみた。


「酷なようですが、私達の旅では途中で馬が死んだり、場合によってはダンジョン都市などで旅にしばらく出なくなり、手放すこともありえます。価格は金貨一枚の標準的な普通の旅馬で良いと思います」


「……なるほど。綺麗ごとだけではないんだね」


 どれだけ心を込めてかわいがったとしても、あくまで実用性第一ってことか。


「馬は賢い生き物なので、相性が何より大事です。普通の旅馬を実際に乗ってみて選びましょう」


 そういうとルナが普通の旅馬の首筋にすっと手を伸ばした。馬が少し怯むように一歩後ずさる。


 僕の時とは反応が違うな。ひょっとしてルナは馬に嫌われている?


「私の中の狼の血が怖いようですね。初見の馬ではよくあることです」


 寂しそうに苦笑するルナ。


 あ、なるほど。肉食獣と草食獣の関係性か。 


 ルナは一番怯まなかった馬に馬具を取り付けると、外に連れ出しひらりと跨った。牧場を軽く駆けると、僕の元に戻ってきた。


「タクミ様、どうぞ」


 ルナの手を取り、後ろに跨る。


「お〜視界が高くて良いね!」


「歩きますよ」

 

 カッポカッポと馬が独特のリズムで歩いて行く。やがて駆け出すとかなり揺れるが、不思議なことに馬車と違って酔うような気持ち悪さは感じない。


 馬車だと不規則な振動が平衡感覚を狂わせていたけど、乗馬では馬の動きのリズムと同期することで不快感を感じないのだろうか。何にせよ、酔わないというのは大変ありがたい。


 僕らの半周遅れで美咲さんも馬を駆けさせており、ぴんと伸ばした背筋からは巧みな技術が伺える。その姿はとてもかっこいい。美咲さんと手を振り合い、笑い合う。


 ひとしきり駆けてみたが、僕にも馬たちにも不具合はなかった。次の馬を試そうかと思ったところで、別の厩舎があるのに気付いた。


「あっちには何がいるんですか?」


「あちらは最終の調教を終えていない馬たちですね。見てみますか?」


「お願いします」 

 

 中に入るとこちらも普通の旅馬から魔馬までが十二頭いた。魔馬の区画に普通の馬並みの体格の馬が二頭いる。


 あれ? この馬は?


「この二頭は?」


「そちらですか……その二頭は黒馬がメイ、白馬がラヴィという名前です。姉妹馬でして血統的には間違いなく魔獣の血を引いた魔馬なのですが、ご覧の通り馬体も普通馬並、走力も普通馬並と、どうやら魔馬としての血がとても薄く出てしまったようなのです」


「そうなんですか……因みに健康状態は?」


「健康状態は良好です。念の為何度も脚周りの骨折の検査も行いましたし、外傷もありません。もちろん病気にもかかっておりません。この二頭ならば、まだ調教も足りていないのを織り込み済みで買っていただけるのならば……そうですね……二頭で金貨三枚で良いですよ」


「そうでしたか。試乗しても良いですか?」


「もちろんです」


 ルナが手を出しても二頭は微動だにしない。それどころか挑発的に嘶いた。


「心の強い良い馬たちですね」 


 ルナが二頭を褒める。僕の神眼によると、この二頭、体格こそ普通の馬並だが、むしろ魔馬の血を色濃く引いているようだ。痛みに強い耐性があり、多少の負傷があってもなお普通の馬並に走れるらしい。


 そして健康状態の欄には、メイは左前脚、ラヴィは右後脚に古い打撲による骨の微細な歪みが発生しており、その事が原因で腫れなどの見た目の変化は目えないが、常に炎症を起こしている、と書いてある。怪我をいたがる素振りを全く見せない。


 二頭の馬が、まるで懇願するかのように僕に鼻面をこすりつけてきた。


 骨の微細な歪みは、きちんとした骨接ぎをした後にポーションで治療すれば治るとも書かれている。馬の脚を治療したことはないが、僕ならば治してやれそうな気もする。


 ルナと美咲さんがそれぞれに試乗しても、問題なく走れていた。


「どうだった?」


 戻ってきた二人に聞いてみた。


「調教が終わっていないとのことでしたが、問題ありませんね。私のことを初めから怖がらない点がポイント高いです」


「このラヴィちゃん、とっても美人さんで人懐っこいから、私も気に入りました!」


 嬉しそうにルナが言い、美咲さんの評価も高いようだ。よし決めた! たとえ完全に治らなかったとしても、現状でも満足できるならこれは買いだな。


「それじゃあ、この二頭を買おう! 二人ともそれでいいかな?」


「「はい」」


 二頭の値段金貨三枚、二頭分の馬具一式で銀貨六枚と飼い葉代を合わせて支払い、黒馬メイと白馬ラヴィが新たに僕らの仲間に加わった。

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