第45話 新たな移動手段
「ふぅ~、やっと着いたね」
迷宮都市ルボンドを出発した馬車は西へと進み、最初の宿場町グラースへと到着した。迷宮都市ルボンドの喧騒とは違い、草木の香りが色濃い。
「タクミ様お疲れ様でした。早く宿に行って休みましょう」
「うん、そうだね」
道中は馬車の振動一つ一つが胃と頭を揺さぶり、身体の奥底から力が抜けていっていた。馬車を降りてもすぐには回復せず、ルナの言葉に頷くのさえ億劫だった。
早く休みたくて、僕はルナ、美咲さんと共に、馬車の運行会社の用意している宿屋へと直行した。
予約していた僕とルナで二人部屋が一つ、急遽乗り合わせた美咲さんが一人部屋で一つだ。話し合わなくてはいけないこともあるし、取り敢えず三人で二人部屋へと入った。
「ルナ……悪いんだけど、今日は美咲さんの追手のことが心配だから、護衛も兼ねて美咲さんと二人部屋で寝てくれないかな」
「……それは……申し訳ありませんが、タクミ様の命令だとしてもそれはできません。私が一番に守りたいのはタクミ様です。タクミ様は今日は体調が悪いようですし、なおさら一人にはしておけません」
「そ、そうですよ! 具合の悪そうな巧先生の方こそ心配です!」
「そう言われても……困ったな……まだルボンドに近いから用心しないといけないんだけど……」
僕が困り果ててポリポリと頬をかいていると、ルナがポンッと手を叩いた。
「三人でこの部屋に寝れば問題解決なのでは? 一人部屋の方はダミーとしてそのまま借りておきましょう! ミサキさんもダンジョンに行ったりしていたぐらいですから、大勢で寝ることも普通にあったでしょう?」
「そ、そうね。相部屋もふ、普通のことよね!
……私が経験したのは女性とだけだけど……」
「それでは問題ありませんね! 隣の一人部屋にベッドを取りにいきましょう。タクミ様やミサキさんは無限のアイテムボックス持ちだから便利ですね! お揃いですし、羨ましいです!」
おいおいルナさんや……美咲さんが小さく呟いているのも、しっかりと僕には聞こえているんだけど……男女で泊まっていいのかよ。ルナも耳がいいから絶対に聞こえているはずなのに、しらばっくれているな……
ルナと美咲さんが、ガチャっとドアを開けて出ていった。と、思ったらすぐにルナが一人だけ戻ってきた。
「タクミ様、本当のことを話してください。ただの馬車酔いではないですよね?」
「うん。多分……魔力が枯渇気味なんだと思う。『制交』スキルを常時展開していると結構魔力を持っていかれてて……ステータスを整合して、知力と精神を高くすることで対応してなんとかなっている感じ」
「そう……でしたか」
「だから魔力枯渇と馬車酔いのダブルパンチで結構しんどかった。心配かけてごめんね。美咲さんには魔力枯渇のことを言っちゃ駄目だよ。余計な気を使わせちゃうから」
「……わかりました。他に何か対応策がないか考えましょう。タクミ様には元気でいて欲しいです……」
「そうだね……ダンジョンで魂の位階が上がれば魔力総量が上がって楽になるのかな?」
「それはありえそうですね。積極的にダンジョンモンスター狩りを行えばいいのでしょうが……ルボンドのような大型ダンジョンは近くにはないので、『影の回廊ダンジョン』のような小さなダンジョンを通り道沿いに立ち寄っていくようにしますか?」
「できればそうしたいかな。ダンジョン内だと『制交』スキルをオフにできるから、ダンジョン内で休憩して一度完全に魔力が回復すれば……だいぶ良くなると思うんだよね」
「それでは食事の後で、少し情報収集してきますね。ミサキさんは連れて行くわけにはいかないし、タクミ様と二人で部屋で待っていてください。私の帰りを待たずに、先に休まれていてくださいね」
「わかった。ありがとうルナ」
「この位ならいつでも任せてください」
ふわりと微笑んで、ルナが部屋の外へと出ていった。
さほど待つこともなくルナと美咲さんが戻ってきた。二人の手にはお盆に乗せた料理がある。
「下の食堂で部屋食用に買ってきました」
「冷めないうちに食べちゃいましょ」
「二人ともありがとう」
美咲さんと別れていた間のことを、それぞれ語りつつ食事が進み、食べ終わると、ルナは情報収集の為に再び出ていった。
「さてと、よいしょっと」
美咲さんが空いているスペースにアイテムボックスからベッドを取り出した。
「なんだか高級そうなベッドですね。一人部屋の方はランクが上なのかな」
僕がそう尋ねると、美咲さんが少し戸惑ったように笑って答える。
「実はこれ、宿のベッドではなくゼニス王国から支給された、ダンジョンで宿泊する用のマイベッドなんです。よく考えたらこっちの方がいいかなって」
「へー、至れり尽くせりなんですね。凄いなぁ」
寝る準備を終わらせると、食事の時の続きを話しあった。影の回廊ダンジョンで僕がモンスターに殺されるように仕向けられた話しをした時には美咲さんは凄く憤っていた。
「信じられない! 私には巧先生が自分から勝手にダンジョンに突っ込んで行って、凄く迷惑したって言ってたんですよ!?」
美咲さんは声を荒げ、手を握りしめて語気を強める。
「それはまた……ずいぶん事実とは異なりますね」
あまりのことに僕も呆れて苦笑してしまう。
美咲さんと色々と話しているうちに、猛烈な眠気が襲って来た。魔力の枯渇だろうか? 美咲さんの声が遠ざかり、抗うことなく意識を手放した。
チュンチュン、チチチチ。
あれ? もう朝か?
「タクミ様おはようございます。気分はどうですか?」
ルナが僕のベッドへやってきて、顔を覗き込む。
「少し良くなったみたい」
「良かったです」
ホッと息をついて微笑むルナの笑顔が眩しい。心配かけてごめんね。
「今後のことですが、タクミ様は馬には乗れますか?」
「馬? 乗ったことないよ」
「昨夜ミサキさんと話し合ったのですが、乗合馬車では自由に行動できませんので、いっそのこと馬を買って自分達だけで移動してはどうでしょう?」
「そうか、それならもし追手が来たとしても捕捉されづらい。道中、他の人に美咲さんの素性がバレるリスクも減るし……うん、いいアイデアだね! ただ……僕は乗馬できる技術はないよ? 美咲さんは?」
「私は乗れます。撮影の役作りで練習した事があるので……様になってるって褒められた事がありますよ」
「役作りかぁ。凄いですね、真面目に取り組んでちゃんと技術をモノにするなんて流石です。ルナは乗れるんだよね?」
「はい。ですので馬を二頭買って、私とミサキさんが交互にタクミ様を乗せて行きます。道中で練習しながら行けばいずれタクミ様も一人で騎乗できるようになるかと」
「それはありがたいね」
「昨晩聞いてきた話では、近隣で馬の生産が盛んらしいので、このグラースの宿場町ではきっと良い馬が買えますよ」
「了解。それじゃあ朝食が終わったら早速馬を買いに行こう! ルナは頼りになるね、ありがとう」
ルナの頭を一撫でして、三人で部屋を出た。
馬かぁ。ちょっと楽しみになってきたな。




