第43話 聖女の鎖(第二章終わり)
「私をゼニス王国から連れ出してください!」
「えーっと……実はですね、僕も色々あって……ゼニス王国からは逃げている最中でして……ゼニス王国の攻略部隊がやって来たので、明日には迷宮都市ルボンドを出ていく予定なんです。まさかその中に美咲さんがいるとは思いませんでしたけど……」
「だったら私も! お願いします、私も一緒に連れて行ってください!」
「……」
本人が望むなら、あんな王国なんかとっととおさらばさせてあげたいところなんだけど……
……昔の僕と同じで……紐付きなんだよね。美咲さんも……
左胸の上に神眼で映し出される美咲さんのステータスには、しっかりとあのスキルがあるのだ。
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名前:白石 美咲
種族:人間
魂の位階50(2)
筋力:2
耐久:2
敏捷:3
器用:6
知覚:10
知力:18
精神:20
運 :4
歪み耐性:6
職業:聖女
職業熟練度:4
スキル:*聖域展開*、アイテムボックス、言語理解、移動支援
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憎っくき移動支援スキルがあるんだよなぁ、美咲さんにも。
【移動支援】広大な異世界で迷子にならないための支援機能。応用すればマッピングに利用可能。
(異世界召喚の儀式により、召喚者の魂に紐付けられている。対応する受信機を使えば、位置情報がどこにいても把握可能。ただし、ダンジョン内では歪みにより界理の乱れが大きいため、同一階層しか受信できない)
これがある限り、どこに逃げても探し当てられてしまう。
このことを美咲さんに言うべきか……どうしよう……この世界ヴァラリアに来たばかりの時に、美咲さんには優しくしてもらったし、なんとかしてあげたい……
「あの……巧先生?……だめ……ですか?」
「……実は美咲さんには『移動支援』というスキルがあって、これがGPSのように美咲さんの位置を王国に伝えているんですよ」
「え? 移動支援? 移動支援……説明してもらっていたのと話が違う! どういうことなの!?」
「説明はあったんですね……だから今のままでは連れて行ってあげたとしても、すぐに追っ手に捕まってしまいます」
「そんな……はっ!? 巧先生は? 巧先生には移動支援はなかったんですか?」
「僕にもありましたけど、整合スキルで取り除きました」
「!? それじゃあ私も!」
「その……ごめんなさい。このスキル、他者には使えないんです……」
「!? ……そんな」
「……でもなんとかしてあげたいので、美咲さんの移動支援を取り除くのを、ダメ元で一度やってみますね」
「……お願いします」
「その……心臓付近に触れる必要がありますので、胸の下を触りますね」
「え?……は、はい。お願いします」
ぐいっと胸を張る美咲さんの左胸……のちょい下を服越しに触る。さすがに女性の左胸を直接触るわけにはいかないからね。
美咲さんのステータスの『移動支援』という文字に、神眼の焦点を合わせながら、消えろと強く念じる。
消えろ!
消去!
デリート!
くっ……だめか。
そうだ!
僕の時みたいにオン・オフはできないか!?
オフ!
オン・オフ機能!
スイッチオフ!
「……はぁはぁ……美咲さん、ごめんなさい。やっぱりできませんでした……」
「……だめ……ですか。……私はあの国から逃げられない……そうなんだ……ふふ……そうなんだ……」
美咲さんの顔が引きつり、口からは乾いた笑いが漏れ出てきた。
くいっと袖を引かれたので、ルナの方を見てみると、ルナが自分で自分を指差して、その後に、美咲さんへ視線を移している。
……ひょっとして、美咲さんを自分のように整合したらってことか?
コクコクと頷くルナ。
……そんなことできるわけないだろ!
ルナは整合できたけど、他の人でも本当にできるかどうかもわからないのに、「僕と性交したら整合できますよ」なんて言えるはずないじゃないか!?
そういうのは……お互いに好き合っている者同士がやることだろ? 助けてあげたいからって、弱みに付け込むようなことはできないよ。
ルナには無言で首を振る。
でも……美咲さん、なんかもう精神的にいっぱいいっぱいなように見えるんだよなぁ。心の限界が近いような気もする。
……そうだ!
押しても駄目なら引いてみな。だ!
取り除くのが無理なら、ゼニス王国に受信させなければ良いんだ!
僕の『整合師』熟練度2の力を使えばもしかして……
美咲さんから出る、GPSの電波を抑え込む電子の檻のようなイメージで……包みこんで逃さない……美咲さんを包むドーム状の網……
頼む、美咲さんを助けてあげたいんだ!
強く願いながら、自分のステータスボードを神眼で見つめていると……頭の中に、カチリと新しい回路が組み上がったような感覚が弾けた!
【制交】――対象から発せられる界理の信号と外部との「交信」を強制的に「制御」し、情報の把握を不可能にする能力。情報の読み取りを制することで、信号を無効化、あるいは誤った情報を受信させる。
スキル欄に新たに『制交』が加わったぞ!
「制交!」
僕が新スキル名を唱えると、かすかに虹色にきらめいている半径二メートル程のドーム状の膜に美咲さんが覆われた。僕の魔力が、この膜へと流れ込んでいるのを感じる。
「よし!」
「「?」」
他の人には見えないのか? 神眼モードをやめると僕にも美咲さんを覆う膜は見えなくなった。目立たなくていいから、これはこれで好都合かな。
「美咲さんから信号を発信させないようなスキルを新しく覚えたので、それを使いました。たぶんこれで大丈夫です……」
「スキルを……覚えた? ……本当ですか!? それじゃ私も……一緒に連れて行ってもらえますか!?」
「はい。一緒にゼニス王国から離れましょう。ルナ、それでいいかな?」
「タクミ様が信頼されている方なら、私は構いませんよ。仲間が増えるのは嬉しいことです。よろしくお願いしますねミサキさん」
「あ、はい。よろしくお願いしますルナ……さん?」
「ルナでいいですよ」
「ではルナちゃん……でいいかしら?」
「はい。ミサキさんはまず変装しなければいけませんね」
「確かに。その格好だと他の人の目についちゃうもんなぁ」
今の美咲さんの格好はザ・聖女ルックって感じだもんな。
「普段着は持っていますか?」
ルナの問いかけに、美咲さんが自分のアイテムボックスから色々と取り出したのだが……
「どれも高級品といった感じで、人目をひきそうですね。タクミ様、タクミ様の予備の服の上下を出してください」
「はい、どうぞ」
僕が歪界者御用達の店で買った庶民的な服なので、何の変哲もない丈夫で動きやすい厚手のシャツとズボンだ。
「ミサキさんは、これに着替えちゃいましょう」
「わかったわ」
美咲さんがチラリとこちらを見た。
「あ……僕はあっちに行って、こっちを見ないようにしておくから、終わったら呼んでね」
そう言って入り口付近の方に歩いて行く。アクシデントが起こるといけないので、部屋からは出ない。……決して着替えが気になるからではない。ほら、モンスターとかね。また湧いてくるかもだし……
「終わりました。タクミ様、もう良いですよ」
戻ってみると、ルナが美咲さんにケモミミとしっぽを生やそうとしていた。ルナの大きめのケモミミポケット付きの外套の耳の部分に布で詰め物をし、腰の部分にもボール状にした布を当てて、美咲さんがケモミミ外套を羽織る。
「おお〜! 凄い! ぱっと見、獣人みたいだよ! よくこの変装を思いついたね!」
「えへへ♪ いい感じですか? 良かったです♪ それじゃあ仕上げに……」
ルナがアイテムボックスから緑色の物体を取り出し、コネコネし始めた。
「ミサキさん、目をつむってください。今からこれを顔に塗ります」
「そ、それはなんですか?」
「これはモスグリーンという食材なので安全ですよ♪ はいいきまーす♪」
「ちょっ! 待って、心の準備が!?」
「はい、ビターン♪」
べっちょりと、顔に叩きつける勢いでルナが遠慮なく美咲さんの顔にモスグリーンをすり潰したものを塗りたくっていく。も、もうちょっと優しく塗ってあげたら……?
「わっぷ! くさ……くはない……清々しくてむしろ気分爽快になりますね」
「でしょ〜♪ これ、お貴族様が高級パックとしてお求めになることもあるそうなんですよ!」
そうなんだ。知らなかった……一瞬、嫌がらせかと思ってしまった僕を許してくれ、ルナ……
「固形物は取り除いてっと……出来ました! これなら人間だとは気付かれないんじゃないですか!?」
「あ、ありがとうルナちゃん……巧先生、どうですか?」
「うん、緑色の汁が乾いて茶色っぽくなってきたから……キツネっぽい獣人に見えますよ! 全くの別人……どころか別種族です!」
「……良かった」
ほっ、と息を吐き、美咲さんが安堵の表情を見せた。
「ルナ、変装頑張ってくれてありがとう」
ルナの頭を一撫でし、頑張ってくれたお礼に耳もモフる。
「えへへ」
「それじゃあ変装も終わったことだし、ダンジョンの外に出ましょうか。ここからなら第二階層の前室から転移するのが一番早いかな」
「転移!? ……すみません巧先生、今は転移するのが怖いです……また……今度は巧先生達とも離れ離れにされてしまうかもしれないと思うと……」
転移が怖い……か。まぁその疑念も残っているから仕方ないか。
「うーん、今の僕とルナなら、第一階層を寄り道せずに全力で走れば、なんとか半日くらいで外に出れるかな?」
「そうですね。馬車の時刻までには一、二時間ほど余裕を持って外に出れるかと思います」
「美咲さんは……ステータス的にちょっと無理っぽいですね」
神眼でもう一度確認してみたが、美咲さんは、筋力2、耐久2、敏捷3だからな。あれ? 制交の膜がもう消えている……持続時間は十五分〜三十分ってところか。
案外短いな。移動支援はダンジョン内では、同一階層しか使えないって書いてあるから今はいいか。
「よし! 予約してある馬車に間に合わなくなると困るので、美咲さんは僕が抱えて走りますね」
「えっ!? きゃっ!」
再び脳筋モードにして、美咲さんを横抱き、いわゆるお姫様抱っこにして少し歩くと、美咲さんを降ろした。
「どうしたんですか……? ひょ、ひょっとして、私、重くて歩けませんでしたか!?」
「いや、両手が塞がっていると、第二階層とはいえやはり危険かと思い直しました。やっぱりおんぶにさせてください」
そう言って、美咲さんをささっと背中に乗せる。
アイテムボックスから短槍を取り出して握り、軽く降ってみる。まぁ万全ではないけど、これなら及第点かな。
「美咲さんは軽いので全然重さなんて気になりませんよ」
「そ、そうですか……良かった」
美咲さんがポツリと呟いたが、むしろおんぶだと気になることが一つ増えた気がする。背中にね……温かい体温と……とても柔らかいものを感じるんだよね……
いかんいかん! 仕事モードになって帰り道に集中だ!
「それじゃあ出発だ! ルナ、基本的にはモンスターの対処はルナにお願いするね」
「はい! お任せください!」
「舌を噛むから口は閉じていてくださいね!」
美咲さんが頷く気配がしたと同時に猛ダッシュで駆ける。
それにしても美咲さん、魂の位階高っかいなぁ!
ダンジョンの第二階層、第一階層と走りながら、色々と考える。
僕と同じスタートなのに、なんでこんなに違うのか。落ち着いたら、召喚されてから今までのことを色々と聞いてみよう。
ステータス値が20越えてる人も初めてみたよ。その割には熟練度がそれほどでもないことや、スキル欄に初期スキル以外がほとんどないことが気になるな。
聖域展開というスキルはグレーアウトしているから、ひょっとしたら鑑定玉でも見えていないのかも……ステータスのポイントが余っているのも心配だよね……
道中の襲ってきたモンスターはささっとルナが返り討ちにし、魔石も大したことがないので放置して、早々にダンジョンの第一階層の前室にたどり着いた。美咲さんを降ろして小休止だ。
さて、移動中に色々試してみた新スキル『制交』のニューバージョンの出番だな。
「制交!」
新バージョンでは、オート機能というか、オン・オフ機能を付けることに成功した。これで僕が寝ていても、制交が途切れてゼニス王国に発見されることはなくなったわけだ。
けど……すっごく魔力を持っていかれるのは誤算だったな……考えてみれば常にスキルや魔法を使い続けているってことだから当然といえば当然か……それにしても、これ……きっつぅ!
「? タクミ様? 大丈夫ですか?」
「え? うん、大丈夫だよ! そうだ、外で美咲さんと呼ぶわけにはいかないから、何か別の呼び方を考えないと。美咲さんは何かいい偽名の案はありますか?」
「それなら……ホワイトが良いです」
「ホワイト? うん、いい名前ですね! 美咲さんっぽいし! じゃあこれからは人目のあるところではホワイトと呼びますね!」
ダンジョンの外に出ると、すでに朝日が昇っていた。そして……いつも以上に周囲がざわめいている。
「何かあったんですか?」
すっ、と門番に近づき尋ねる。
「お前さん達は第一階層から歩いて来たのか? 運がいいな。今ルボンドダンジョンで大規模な異変が起こっていてな。なぜかはわからないが、転移ができないんだよ」
「転移ができない!? 中層階以降の人達にとっては死活問題じゃないですか!?」
ブルのアニキ達は大丈夫なのかな……
「おっ? なんだ? 続々とダンジョンから人が出てきたな。転移が復活したのか?」
今度は転移が復活した? 心配な気持ちもあるが、他の人に絡まれる前に早くこの街を出よう。
予約していた馬車は一人分の空きがあったので、無事に三人まとめて乗ることができた。
出発の時刻になった馬車は迷宮都市ルボンドを離れ、ガタゴトという轍の音を響かせ、一路西へと進んで行く――
ここまでお読みくださり、誠にありがとうございます。
これにて第二章「迷宮都市ルボンド」が閉幕致しました。
第三章「聖女と性こうし」
おっと!? とんでもない誤字を……(;^ω^)
色々な謎が少しずつ明かされていく
第三章「聖女と整合師」もよろしくお願いしますm(_ _)m
「面白かった!」
「続きが気になる!」
「タクミとルナ、美咲の今後はどうなるのっ・・・!」
「新キャラはまだかよ?」
と思っていただけましたら、
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
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