第42話 再会
突然ヴォーンという音を発し、ダンジョンが鳴動した。
「ルナ!? 今の見た!?」
「?? 何をですか?」
「下だ! 下から何かが来る!?」
虹色の発光体は、あっという間に第二階層を通り過ぎるかと思われたその瞬間、僕らからさほど遠くない位置でピタリと止まり、発光が徐々に弱くなっていく。今はダンジョンの壁も透過して光が見えているようだが――光は刻々と弱まっている。
「あっちだ! 行こうルナ!」
ダンジョンの鳴動と共に上がってきた虹色の光を追って、僕らは駆ける。
「タクミ様、大丈夫ですか? 危険なのでは?」
「たぶん大丈夫! なんというか、悪い気配は感じない。それどころか……僕の神眼と引き合っているような気がするんだ」
光の発生源までは壁一枚を隔てた向こう側、というところまで迫った時に、神眼が捉えた虹色の光が遂に途絶えた。
「ここだ! あれ? この通路って……この間、偶然見つけた隠し部屋の……しかもモンスターボックスじゃなかったっけ?」
「そうですね……確かその壁の岩の隙間に……ありました」
ルナがスイッチを押すと少し先の岩壁がズズズズッッという音と共に開いていく。
モンスターボックスでの戦闘に備えて神眼を取りやめ、脳筋モードへとステータスを変更した。
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名前:徳本 巧
種族:人間
魂の位階:11( 脳筋モード)
筋力:7
耐久:5
敏捷:7
器用:3
知覚:10
知力:1
精神:1
運 :1
歪み耐性:1
職業:整合師
職業熟練度:2
スキル:整合、アイテムボックス、言語理解 、神眼、体術(レベル3)、槍術(レベル3)
【清光】――清浄な光で対象の歪みを取り除き、体内の界理の異常を健全な状態に保つ。状態異常の緩和、治癒が可能。
【性交】――精神と肉体が深く交わることによって、二人の魂の根源である界理が繋ぎ合わさり、魂の回路を構築する能力。
【精恍】――対象の界理から発せられる情報を「精巧に曖昧化」する能力。鑑定玉等による情報の正確な把握を困難にし、情報の隠蔽と認識を攪乱することに特化。
【製淆】――対象の界理に対して「偽りの情報」を製造・混淆させる能力。鑑定玉等の鑑定結果を欺き、ステータスやスキル情報に誤認を生じさせる偽造に特化。
【声轟】――「声」の力を極限まで増幅し、界理に破壊的な力を乗せて広範囲に解き放つ能力。存在を揺るがす「超振動」は外殻を越えて内部を破壊し、音圧は精神にも作用して一時的に行動不能にする。
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「よし、突入だ!」
「はい! 行きます!」
ルナが突入し、入り口付近のモスフロッグを蹴散らす。続いて僕も突入し、モススネークを短槍で突く。
「誰か!」
人だ!
誰かの助けを呼ぶ声が聞こえたのと、知覚10によるスキャンで人の存在を感知したのはほぼ同時だった。
「……誰か……助けて……」
消え入りそうな声が、かろうじて聞こえてきた。このままじゃ間に合わない!?
「ルナ! アレを使う。耳をふさいでくれ!」
僕の呼びかけに応じたルナの狼耳がパタリと倒れる。
くらえ!
「声轟!」
ゴウッ!!!
指向性をもった轟音がひびき、僕の前方にいたモンスター達がバタバタと倒れていく。
「え!?」
「誰かそこにいるよね!? 待ってて今助けるから!」
ザシュ! ズン!
高いステータスにより、残っているモンスター達を武器でかき分けるようにして、それぞれ一撃で倒していく。
ルナと呼吸を合わせて、声の主の元へと怒涛の勢いで進む。
ズバッ! ズム!
「ふー、間に合ったみたいだね。良かった」
「え?……巧……先生?」
「ん? あれ? その声は……美咲さん?」
なんでこんなところに美咲さんが!?
「わあぁぁぁ!」
美咲さんが僕の胸に飛び込んできて、泣き始めてしまった。
わ、わわわ!? 美咲さん!? まだモンスターも残っているのに、どうすりゃいいの?
「敵の排除はお任せください」
目が合うとルナはコクリと頷き、部屋の中の残ったカエル、ヘビ、ナメクジ達を片っ端から掃討し始めた。
モンスターに殺されそうだった今の状況なら、気が動転しているのも無理もないか……警戒を怠らず右腕で短槍を構えつつ、落ち着いてもらうために美咲さんを左腕で抱きしめてあげる。
「美咲さん、もう大丈夫ですよ」
「うっ、うっ、ひぐっ」
やがてルナが全てのモンスターを倒し終え、散らばっている魔石やドロップアイテムを拾い始めた。
ふー、もう大丈夫だな。3Dスキャンで索敵しても、隠れているモンスターはいない。短槍をアイテムボックスにしまい、右腕で美咲さんの背中をゆっくりとトントンとしながら話しかける。
「怖かったですね。モンスターは僕と仲間で全て倒しましたので安心してください」
「ぐすっ。ありがとうございます」
顔を僕の胸からあげて、僕と目を合わせる美咲さん。神眼モードにして、初めて見る美咲さんの顔は、涙で濡れてぐちゃぐちゃながらも……美しかった。
顔も毎回施術して触っていたので、バランスの良い整った顔付きだったのは知っていたけど、肉眼で見ると破壊力が違うね。泣き顔まで美しいなんて。トップ女優さんというのは、やはり見た目も麗しいんだな。
ラジオで聴いていた美咲さんは、声の表現も素晴らしいんだけどね。……おっと、今はそれどころではない。
「美咲さん、ひょっとして一人でここに転移してきたんですか? どういう経緯があったのか教えてもらえますか」
「首無し騎士が、デュラハンが!」
恐怖を思い出したのか、顔を引きつらせた美咲さんが体を震わせる。
「ここには僕らしかいないので、落ち着いてください。大丈夫ですよ」
「は、はい」
大きく深呼吸した後、美咲さんがとつとつと語り出した。
「……ということが第九十一階層であったんです……」
「そんなことが……」
あの虹色の光は、魔力暴走した美咲さんが原因だったのか?
それとも、その首無し騎士の方なのだろうか……通常のダンジョンの仕組みと異なる転移、そして虹色……僕の神眼も虹色なんだよな。
なにかの関係があるんだろうか?
「まさか前室にモンスターが現れるなんて……確かにありえませんね」
途中から戻ってきて、一緒に話を聞いていたルナも驚いている。
「美咲さん、僕のパートナーのルナです」
話が一区切りしたところで、美咲さんにルナを紹介する。
「ぱ、パートナー!? は、はじめまして。白石美咲です。救けていただいてありがとうございます」
「はじめまして、ルナです。あなたがミサキさんなんですね。タクミ様からお話は聞いていました」
……落ち着いて顔を見合わせた二人に、謎の沈黙が訪れた。
なんなの、この間は??
「それでは僕らがダンジョンの外にまで連れて行ってあげますから、その後でゼニス王国の皆さんと合流してください」
「いや! それは駄目です! 愛さんと和正君が心配するかもしれないけど……絶対にいやです! 巧先生、お願いします! 私をゼニス王国から連れ出してください!」




