第40話 超越者(美咲視点)
――Side 美咲――
『我が眠りを妨げし愚かなる者共よ……疾く消えうせよ』
鎧が……喋った!?
「勇者様!?」
「ミサキ様を護れ!」
「聖女様! お下がりください」
「おのれ! ミミック反応はなかったというのに……どうなっている!?」
吹き飛ばされた騎士達が立ち上がり、臨戦態勢となる。和正君も起き上がった。……良かった。全員無事みたい。
「てんめぇ……やってくれたな! くらえ! 聖気剣!」
和正君が必殺の斬撃で全身鎧を斬りつけた!
ガイン!
鎧は避けることさえできずに切り裂かれて……いない!?
「なにぃ!?」
さっきまでは気付かなかったけれど……立ち上がった鎧の首の部分に、フタがされているみたいに微かに虹色に発光する膜がある。
いえ、これは……鎧の全身が……虹色に発光している?
「動く鎧!?」
「いや、中身が詰まっていそうだぞ! 首無し騎士か!?」
「なんという硬さだ!?」
騎士達がざわめいているけれど……あの扉の前の虹色の油膜に……似ている?
私を守るべく護衛騎士ソフィアに抱き抱えられるようにして、部屋の入り口付近にまで退避する。ハンスやマイケル達護衛全員が私を囲った。
「面白いじゃねぇか! さっさと抜け殻になって、その鎧俺によこしやがれ!」
「勇者様に続け!」
「「「おお!」」」
和正君と攻略部隊の面々が次々に首無し騎士に攻撃を加えていく。
私と同じように護衛騎士により入り口まで連れてこられた愛さんが両の掌を前に突き出し、爆発的に魔力がたかぶる。
「天空を統べる雷霆の王よ、我が声に応え、この地に裁きの剣を降らせよ!」
「煉獄より生まれし紅蓮の業火よ、この世の罪を焼き尽くす灼熱の渦となれ!」
愛さんの肉声と、スキルにより少しくぐもった愛さんの声。二つの異なる魔法を同時に詠唱している!
二つの詠唱が、異なるリズムで完璧な調和を保ちながら紡がれていく。まるで、歌っているかのようだ。
「退避ー!!」
和正君たち前衛へ護衛騎士による勧告がなされた。息の合った連携で、すぐさまその場を離れる和正君たち。
そして愛さんの魔力が最高潮に達した瞬間。
「『天雷召喚』!」
「『煉獄業火』!」
左の掌からドームの天井へ向かって雷の光が迸ると同時に、右の掌からは地を這うように燃え盛る炎の渦が放たれる。
異なる属性の魔法が互いに反発することなく、首無し騎士を飲み込んで天と地を繋ぐ光の柱が生まれた。その圧倒的な力は、空間そのものを震わせている。
「 極大魔法の二重詠唱とは!?」
「これが大魔道士殿の力か……」
「凄まじいな」
がくり、と倒れかける愛さんを護衛騎士が抱きとめた。
「愛さん!?」
「……大丈夫です。ただの魔力切れですよ……」
護衛騎士からマナポーションを受け取り、震える手でそれを飲み干す愛さん。
広間の中央では、雷と炎が一体となった二重の光が、世界を焼き尽くさんばかりの勢いで渦巻いている。
どうか、お願い……これで終わって。私は手を組み、祈るように願う。どうか……
やがて炎雷の渦がはれ、視界が回復すると、そこには何事もなかったかのように佇む首無し騎士が……いた。
「はっはー! 死んでいないと思ったぜ! くらえ、『天翔剣』!」
間を置かず、和正君がデュラハンの頭上高く跳躍した。勇者だけが扱えるユニークスキルだ。
神速の勢いで地上に舞い降り、光の剣を放つ。その威力は、大地を切り裂き、邪悪な存在を浄化するという。
ギィン!
「バカな!?」
デュラハンが手にした剣で受け止めた! そんな!?
『さっさと消えれば良いものを……人間とは度し難いものよ』
「ぐぁあぁ!」
え!? 和正君が一瞬で血だるまに!? 今……何をしたの!?
和正君が斬られた? 私には何も見えなかった!!
「ぎゃぁぁぁ!」
悲鳴が上がったかと思えば、次の瞬間には別の騎士が腕を斬り裂かれていた。
「ひぃぃぃ!」
まるで、見えない刃が空間を舞っているかのようだ。
デュラハンの姿がブレたかと思うと、次の瞬間には別の騎士の背後に立っていた。広間にいる攻略隊のみんなが、次々に血飛沫を上げていく。
どうなっているの!?
「まずい! 聖女様を連れて避難しますよ! 早く!」
私と同じくこの事態に付いていけず、困惑していた護衛隊長ハンスから慌てて指示が飛ぶ!
「ミサキ様には指一本……ぎゃぁぁぁ!」
逃げる間もなくマイケル、デニー、ハンス、ソフィア、キャサリンと次々に倒れていった。誰もがあ然とした顔のまま、その場に血を撒き散らして倒れ込む。
四十人いた攻略隊の中核メンバーは誰も残っておらず、もうこの場に立っているのは私一人となっている。
ひぃ!?……次は……私の番だ!?
最後の一人となった私をなぶり殺しにでもするつもりなのか、デュラハンの左手がゆっくりと私に伸びてきた。私に触れた瞬間、デュラハンの左手の油膜のような虹色の光が揺らめく。
『む……我が界理術に干渉するとは……』
デュラハンの手がピタリと止まった。
『……やはり……似ている……そなた****か? ……いや、魂の色が違うな……縁者か?』
ひぃぃぃ!! なんか話しかけられてるぅ!?
『ふむ……そなただけは敵意を見せなかったな。始めからそなたのように大人しくこの場を去れば良いものを……』
私には……何もできないから……
くるりと体の向きを変えたデュラハンが左手を振ると、攻略隊のみんなの体が浮き、猛スピードで壊れた扉の外に放り出されていく!
次々に折り重なっていき、人の山ができた。
デュラハンがパチリと指を鳴らすと、室内の血飛沫が全て消え去った!?
『去れ』
再び私の方に向き直ったデュラハンが、一言だけ告げた。
コクコクと高速で首を上下させ、ジリジリと後ずさる。部屋の境界を越えた瞬間に、ブゥンという音がした。
私の目の前に虹色の光を放つ油膜のような壁が現れた。今回の油膜は半透明で中をうかがい知ることはできない。
「み、見逃されたの?」
あまりのことに、考えが付いていかない。
はっ!?
「み、皆は!?」
折り重なった人の山からは、うめき声が聞こえてくる。まだ生きてるのよね!? お願い! 間に合って!
私にも……回復魔法が使えれば良いのに……
もどかしい思いをしながら上級ポーションをアイテムボックスから取り出し、山の上の方にいる治癒師から順に飲ませていく。




