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第4話 物騒な世界

「狼獣人です! 犬ではありません! 牙狼族のルナです」


 ここまで全力で駆けてきたのだろう。荒い息遣いでゼーハーしながら、ルナと名乗った女の子が叫ぶ。


 人面犬ではなかったか。そう言われてみれば、身体が犬で顔が人間のことだもんな、人面犬って。身体が人間なら、狼男ならぬ狼女かな。どっちにしろ普通の人間じゃないのね。流石は異世界。



 ん? 複数の素早い足音が近付いてきた。しかも僕達に近付くにつれて、足音が小さくなっていく。忍び足で近寄ってきているのか?


 ルナがピクリと反応し、僕を促すように叫ぶ。


「追いつかれます! 早く逃げますよ!」


 短槍の柄をコツンとして反射音を聴き取ると、既にいつの間にか身長が120cm位の三人に囲まれていた。


 子供? 子供の追いはぎなのか? 街と街をつなぐトンネルに子供の強盗が出るなんて、この国は治安が悪いんだな。不潔にしているのか、子供たちはかなり臭い。


 コツン。風上に一人、風下に二人、全員がナイフのような物を手に持っている。コツン。風下の一人がすり足で、音もなくゆっくりとこちらに向けて動いた。


 タイミングを合わせて、短槍を子供の足に絡めるように差し込み転ばせる。


「ギャギャ!?」


 槍の穂先を転ばせた子供の喉元に突きつけると、僕は精一杯怖そうな声を出して、おどしをかける。


「動くな! 仲間も僕たちを襲うのをあきらめて、すぐに立ち去れ!」


「なにをしているんですか!? 早くとどめをさしてください!」


「え? とどめ? 警察につき出すんじゃないの?」


「変なことを言ってないで早くとどめを!」


 まごまごしている僕を尻目に、ルナが子供に飛びかかり、手にしたショートソードで子供を深く突き刺してしまった。


「こ、殺した!?」


「当たり前でしょう! どこからどうみてもゴブリンです。モンスターですよ! 暗殺が得意なゴブリンスカウトですよ!?」


 呆然とした僕を気にかけることもなく、ルナは剣を引き抜くと風上の子供――ゴブリンスカウトに向かって行く。


 そうこうしているうちに、僕が転ばせてルナがとどめを刺したゴブリンスカウトの体が消えてしまった。


「消えた……」


 ここまでの道中に出てきたでっかい虫のように、人間の子供みたいな体格のゴブリンスカウトも、煙のように消えてしまっている。


 コツン。風上のゴブリンスカウトと渡り合っているルナの背後から、もう一体のゴブリンスカウトが忍び足で襲おうとしている! まずい!


 そのゴブリンスカウトにとっさに近寄り、短槍を足に引っ掛けて転ばせる。コツン。ナイフを握っている腕を蹴って、武器を手放させた……とどめを……刺さなきゃいけないのかな……


 僕が迷っている間に、ルナが自分の相手を倒し、僕の方のゴブリンスカウトにもとどめを刺してくれた。


「ハァハァハァ、た、助かりました。お兄さん、ありがとうございます」

「また……気配が消えた……これはどういうことなんだ?」


「ダンジョンなんだから当たり前でしょう?」


「ダンジョン? 街と街をつなぐトンネルじゃないの?」


「ここまで進んでこれて、今ダンジョンの中にいるんだから、当然わかっているんでしょう? なにはともあれ、お兄さんのおかげで命拾いしました。は!? ……いけない! 早く逃げないと、ヤツが! ヤツが来てしまう! 痛っ」


 新たな足音が、こちらに迫ってきている。


 だが、早く逃げろというルナが、足を引きずってしまっている。どうやらケガをしたみたいだ。大量の血の匂いはしていないので、骨折か、捻挫だろうか。患部を診て応急処置をしてあげる時間もなさそうだ。


「あなただけでも早く逃げてください!」


「いや、女の子をおいて、自分だけ逃げるわけにもいかんでしょう」

 

 こちらに向かってくる足音は、かなり大柄な一体の二足歩行者の音だ。 


 ルナに肩をかして、奥から迫ってくる足音から遠ざかるように、急いで逃げるもあっという間に追いつかれてしまった。


「ああ、ついに追いつかれて……あいつはDランクモンスターのホブゴブリンウォーリア! 本来この階層に現れるはずがないイレギュラーです! ……私では絶対に……勝てない」


 ルナから全てを悲観した、絶望的な声が漏れ聞こえた。


「ルナは下がってて」


 コツン。ルナから少し離れ、背後に庇える立ち位置で身構える。今からでも逃げたい。一人なら絶対に逃げてる。いきなりこんな恐ろしい事になるなんて……


 コツン。足音から大柄だとは思っていたけれど……でかいな。身長が2メートルを越えている。上段に剣を構えたその体格は筋肉質な体型をしており、ここまで駆け寄って来たスピードを考えると、力も強く動きもかなり速そうだ。しかも胴鎧で急所を守っている。


 柔道の大会みたいに、お互いに素手で組み合えば、どんな体格の相手であろうと、崩して投げ飛ばす自信があるんだけど……その状況にできそうもないよね。


「ググッ! グォー!」


 ホブゴブリンウォーリアが咆哮で威嚇してきた。なんて声だ。ライオンの咆哮のようにビリビリと大気を震わせている!


 ガキンッ!


 ホブゴブリンウォーリアの振り下ろした剣による一撃は、気配を読んでなんとか槍で逸らすことができたが……まぐれあたりだった。


 槍を構えていると反響音で探知も出来ないし……もっと知覚する為の情報が欲しい!


 !?


 ある事を閃いた僕はすぐさま行動に移す。


「ステータスオープン!」

 

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