第36話 ダンジョン遠征(美咲視点)
――Side 美咲――
待ちに待ったルボンドダンジョンへの遠征の日がやって来た。
騎士団、宮廷魔道士団の中から選りすぐられた精鋭部隊、そして和正君、愛さん、私、私達の護衛、更に生活をサポートするメンバー。合わせて総勢百人にもなった大部隊での遠征に胸が高鳴る。
「この遠征が成功すれば……巧先生を探し当てる古代遺物が……」
「頑張りましょうね、美咲さん」
「勇者の俺がいるんだから余裕っしょ」
「そうね……和正君もお願いね。頼りにしてるわ」
「ははっ! まかせてよ、美咲さん! 俺の活躍を見たら、きっと惚れ直すぜ!」
勇壮な鎧を身にまとい、それぞれが得意な武器を手に頭上へ掲げ、王都民の歓声に応える騎士団員たち。更には各々の魔法特性に合わせた、大小さまざまな杖を持つ魔道士たちも士気は高く、闘志をたぎらせているようだ。
私たち日本人三人も、それぞれ国から支給されたレアアイテムだという装備に身を固めている。
中でも和正君の『聖剣ソルスティック』と愛さんの『賢者の杖アストラ』は国宝級の逸品らしく、様々な優れた補助機能がついているのだとか。
因みに私には『聖杖』のような国宝級の武器は渡されていない。……魔法が使えないからだ。……まあ、わかるけどね。私が持つより他の人が有効活用した方がいいに決まっている……
しかし、見た目はきらびやかだ。聖なる衣、聖なる冠、聖なる首飾り、聖なる靴……そして見栄えの良い祈りの杖。「聖女様〜」という人々の歓声が、ひときわ大きく聞こえるのも納得の神々しさだ。
よほど私に死んでほしくないのか、防御力は最高峰のものらしい。そこはありがたい。私もこんなところで死にたくないし……
私達三人と、それぞれの護衛が一人ずつで同じ馬車に乗り込み、一路迷宮都市ルボンドへと向かう。今回用意されたのは、軍事用の特殊な馬に引かせた馬車らしく、通常八日間かかる道のりを半分の四日間で到着するらしい。
迷宮都市ルボンドに到着すると、ゼニス王国とフォレル王国の役人同士で最後の調整が行われた。フォレル王国側は五十人規模の攻略部隊だそうで、事前の取り決め通りにダンジョンで得た成果は半々で分けることが合意された。
「あなた様が高名な聖女ミサキ様ですな? 私はベケットと申します。第九十階層には我々の侵入を防ぐ障壁があり、今までどうしても先に進めませんでした。しかし、今回は聖女様のお力で突破できる可能性が高そうです! 歴史の一ページを共に築きましょう!」
フォレル王国側の代表を名乗る、超絶イケメンが話しかけてきた。話に聞いていた通り、フォレル王国はエルフの王族が治める国だった。そして、私のファンタジー価値観そのままに、エルフは美形揃いであるらしい。
「ダンジョンを踏破できるように最善を尽くします。ベケット様、よろしくお願いいたします。」
ゼニス王国が国を上げてフォレル王国内のダンジョンを踏破することに、フォレル王国の面々が不満があったとしても、これには大きな実利がある。
私達召喚者三人の戦力まで勘案すると、実質三分の一の労力で半分の利益を得ることができるというだから、かなりおいしい話だろう。
――我が国が召喚した聖女、白石美咲は、その特異な『周囲の歪みエネルギーを不安定にする』能力により、ダンジョンの歪みエネルギーの障壁に干渉し、突破できる可能性がある唯一の存在である――
ゼニス王国は今回の合同アタックを『特異な聖女の力』を交渉の土台として実現させたらしいので、私の責任はとても重い。
とはいえ、私が何かをするというのではないところが……なんともむなしい。けれど巧先生を見つけ出す唯一の希望がここにはあるので泣き言は言ってられない。
丸二日間の休養と打ち合わせの後に、いよいよダンジョンアタックが開始された。今回のアタックメンバーは安全面を考慮して全員が「歪み耐性5」以上で構成されている。
第九十階層と第八十九階層の前室に前線基地を設け、より歪み耐性の高い者から第九十階層へと部隊単位の交代制で進んでいく。歪み耐性5の者達は第八十九階層で歪みに慣らすところからはじめていくそうだ。
ベケット卿の界渡りで、マイケル、デニー、ハンス、ソフィア、キャサリン達私の護衛騎士らと共に、第九十階層へと到着した私は、他のメンバーが集まるのを静かに待つ。
愛さんと護衛騎士達、和正君と護衛騎士達も次々に到着した。
第一陣が全員到着したのを確認した、攻略部隊の代表ベケット卿が声を上げる。
「おのおの方! 出陣だ!」
重厚な前室の扉が開かれ、目の前には石壁で上下左右を囲われた一本道が現れた。
その道の十メートル程先には、微かに虹色に発光する油膜のようなものが見える。
「では、聖女様よろしくお願いいたします」
「おっと、ちょっと待ってくれベケットさん。ここはまず俺にやらせてくれよ」
「和正君?」
「おお!? なんという魔力の高まり!? これが勇者殿の力か!?」
「凄いぞ!? これならば!?」
「うおおおっ! 極炎一閃!!」
青白い極炎を纏った和正君の必殺の一撃が障壁に向かって飛翔していく!
ズガガァァン!!
物凄い粉塵が収まった後に見えたのは……先程と変わらぬダンジョンの壁と油膜のような光をたたえた障壁だった。
「ちっ!」
「なんと……今の一撃でも崩せぬとは……やはり力技では不可能なのか!?」
「……残念ですが……では聖女様、お願い致します」
「はい」
護衛騎士らと共にカツカツと歩み寄り、障壁の前に立つ。
そっと手を伸ばすと、やはり半透明の壁のようなものがある。私が自分の意思で出来る特別なことはないけれど……両の手のひらを障壁に押し付け……祈る。
お願い! ここを通して!
「ミサキ様! 障壁に変化が!」
マイケルが驚きの声を上げる。障壁の油膜のような光が、まるで生命を宿したかのように波打ち、薄れていく。
「今です! ミサキ様に傷を付けないように障壁を攻撃しますよ!」
ハンスの指示で護衛全員による障壁への猛攻が繰り出された!
ガガン! ドガガン!
「お前ら、どけっ! うおおお! 聖気剣!!」
私のすぐ右側へ突っ込んできた和正君が、体ごと体当たりするかのような勢いで、スキルの効果をまとったまま猛烈な突きを放った!
ヴヴヴンという耳鳴りのような音がしたかと思うと、突然手のひらから半透明の壁の感触が消えた。
和正君の体が障壁のあったラインの向こう側へと転がり込む!
しばしの静寂の後、どっ! と歓声がわいた。
すかさずベケット卿が檄を飛ばす。
「ついにルボンドダンジョン踏破の時が来た! いくぞ!」




