第3話 整合スキル
「着いたぞ」
考え事をしている内に、いつの間にか随分と道のりを進んでいたらしい。
「このトンネルを抜ければ、『歪みのない街』に行ける。俺達が案内出来るのはここまでだ。馬車では行けないので、ここからは一人で歩いて行ってもらう事になる。
少し進むと交差点に出るから、そこを左に曲がってくれ。直進してもその先は行き止まりだ。その後はずっと一本道だから、迷う事なく進めるはずだ。途中に階段はあるが、真っ直ぐに進めば目的地に着くだろう。こっちには引き返して来ないようにな」
「わかりました。ここまでの案内ありがとうございます」
僕は馬車から降りると、お辞儀をして言われた方へとコツコツと短槍の柄を突きながら進んで行く。
トンネルの入口を通過した。案内人達が小声でやりとりをしているのが微かに聞こえてきた。
「先輩、なんで直接いただかないんですか?」
「ばっか、お前、そんな事したら月イチの犯罪者チェックの時に履歴が出てきちまうだろ? こういう時はしばらく経ってから散歩すれば良いんだよ。落とし物を拾った場合は拾った者のもんだからな」
「わお、先輩賢いっすね」
「だろぉ? 俺の勘だと二時間後位に行けばベストだと思うぞ」
「うっす。宝探しかぁ、楽しみですね」
二人は、いったいなんの話をしているのだろう?
疑問に思いながらも、コツコツとしながらトンネルをゆっくりと進んで行く。皮膚に感じる湿気、鼻腔をくすぐる湿った土の匂い、足元の岩肌の固さを知覚する。そして聞こえてくるのは、僕の足音と短槍の柄の音のみだ。
交差点に出た。ここだな。間違えないように左へと曲がり、しばらく歩くと少しの浮遊感と共に雰囲気が変わった。
同じトンネル内のはずなのに、空気の湿り気が少ないし、肌をさすピリピリとしたものをわずかに感じるようになったのだ。
首をかしげて考えるも、良くわからない。無理に進まずにちょっと休憩しようかな。確かめたい事もあるし。
ステータスオープンと念じ、さっき考えていたステータスボードの事を、もう一度確認してみる。
やはり運の数値が3で精神が1になっている?
最初は精神が3で運が1だったはずだ。試しに筋力を2にして敏捷を3になれ、と念じてみると、ステータスボードの数字がゆっくりと変化した。
筋力と耐久を1にして、敏捷を6にして手を振ってみると、あり得ない位高速でブンブン手を振ることになった。
僕にとって、この世界に来てからの明確な変化は、整合師という職業とスキルだ。つまり、僕を召喚したこの世界の人も良くわかっていなかった『整合』スキルが、ステータスを変化させている原因なのだろう。きっとそうだ。
うまく使いこなせば、何かの役にたちそうなスキルではあるな。耐久力に全振りしたら、不眠不休で働けたりして。二十四時間働けますか?
なんとなく元のままの方がいい気がするので、全てのステータス値を最初の数値に戻して、もう一つ確かめたかったことを口にする。
「アイテムボックス」
長谷川さんの真似をしてアイテムボックスと唱えてみると、脳裏にリストが現れた。と言っても、白杖があるだけだったけど。日本で手に持っていた白杖は、いつの間にかアイテムボックスの中に入っていた。
一度取り出してみて握った後に、再びアイテムボックスの中にしまい込む。僕の大事な思い出の品なので、折れたりなくしたりすると困るからね。
縁切りセット(王様にいただいた餞別)に入っていた、革袋の中の水を飲み、硬いビスケットのようなものを食べると、割と重たかった支度金と共に、アイテムボックスの中に入れた。
これで随分歩きやすく身軽になった。もっと早くこうすれば良かったな。
もう一つのスキル『移動支援』というのが何なのかよくわからない。ステータスボード上でいじっていたら、オンとオフという項目が出てきた。オンにしてもオフにしても違いがよく分からない。
今まではオンになっていたので、試しにオフにして何が違うのか体感して、効果を探ってみよう。
肌をさすピリピリとした感じがなくなった、というか慣れたので、奥に進むことにする。今日中に案内人さんが言ってた『歪みのない街』という所にたどり着かないと、食い物も水も無くなっちゃうからね。
というか、トンネルを抜けるまでの大体の目安の時間を聞いておけば良かった。失敗したな。どれだけ歩けばいいのやら。
しばらくコツコツとしながら歩いて行くと、道の陰になっている所に柴犬位の大きさの何かがいる。トンネルの床を短槍の柄でコツンとして反響音で確かめなおした所、なんとなく虫っぽい輪郭をしていた。
でっかいカナブン?
うわっ、やだなぁ。日本の虫は別に嫌いじゃないけど、こんなに大きいと流石に嫌悪感があるよね。まさか襲ってこないよな?
こちらがじっと待っていても、でっかいカナブンはピクリともしない。用心のために槍の穂先を向けてジリジリとデッカナブンの前を横切ると、デッカナブンが僕に向かって飛び掛かってきた!
「うわっ! 気持ち悪!」
思わず短槍をそのまま突き出すと、ブスリとデッカナブンに突き刺さってしまった。
「うわぁ、やだなぁ、どうすんだよこれ……」
槍に刺さったデッカナブンをどう処理しようかと考えていると、突然カナブンが消えてしまっ
た。
「え!? どういうこと?」
僕は夢や幻を見たりはしないので、確かにカナブンを串刺しにしてしまったのは間違いないはず……不思議過ぎるが、そもそもここは地球ではないので、そういうものなのかと思うしかない。
トンネルを進んで行くと、でっかいカナブンやでっかいダンゴムシが時々待ち伏せしていた。いずれも襲いかかってくるので、三度目からは相手が動かないうちにブスリと刺すことにしている。そして突き刺してしばらくすると、消えてしまうのはどれも同じだ。
異世界のトンネル、怖すぎるよ……
ダダダダダッ!
ザザザザザッ!
前方から激しい足音が聞こえ始め、徐々に僕の方に近付いてくる。三人? いや四人の二足歩行の足音だ。
良かった。第一村人発見か? 後どれくらいで街に着くかを教えてもらおう。
ダダダダダ!
「どけどけ! 邪魔だ!」
「あの〜、ちょっとお話を……」
「どけって言ってるだろうが!」
危ない! 突き飛ばされそうになったので、身を引いてトンネルの端に寄ってやり過ごす。
そんなに慌ててどこに行くのだろう。トイレかな。
あれ? 今の人達、犬でもつれていたのかな? 大型犬のような匂いがしてたけど。四足歩行の足音はしていなかったと思うんだが。
まあいいか、前方から人が来たということは、トンネルの出口が近付いてきたのかな。
気を取り直して、出口に向かって更に先へと進んで行く。しばらく歩いていると、またもや前方からダダダダダッという激しい足音が近付いてきた。
今度は……うん、間違いなく二足歩行の一人分の足音だね。
「あの〜、すみませんちょっとお話を……」
「通してください! 道をふさがないで!」
「いえ、道を尋ねたいだけなんです」
「ほっといてください! いえ、それよりも、あなたも早く逃げてください!」
声の主は、随分と切羽詰まった女の子の声だった。
ん? でも女の子からも大型犬の匂いがするな。これってもしかして都市伝説の……
「人面犬?」
「狼獣人です!」




