第25話 初心者狩りの正体
「ルナから離れろ!」
ルナの元に駆け寄ろうとした瞬間、ヴァンスの硬い手に腕を掴まれた。
「落ち着けタクミ。ルナは眠たかっただけじゃないのか?」
万力のような力で押さえつけられ、身動きが取れない。
「ヴァンス! 離せ!」
「まあ、落ち着けと言っている」
立ち上がったところを引きずられるようにして、無理やり座らされてしまう。
「あらあら、ルナがどうかしてしまったのならお薬を飲ませてあげましょうか?」
デリアはもはや隠す気もないのか、ニタニタと笑いながら寝そべっているルナの頭を持ち上げ、アイテムボックスから取り出した瓶を傾けルナの口に何かの液体を流し込んだ。
「やめろ!」
液体は半分程は口から溢れ、残りは口の中に消えていった。
「はい、終わり。タクミは、私達の秘密に気付いてしまったのかしら?」
むしろ、まだ理解していないなら気付いて欲しい、とでも言いたげな口ぶりだ。
「お前らが……ギルドで噂になっていた初心者狩りなのか?」
「ふふっ、その通りよ。あの飴玉は無味無臭の麻痺薬なの。鼻の効く獣人でさえも気付けない特殊な魔法薬よ。それにしてもルナったら、中々麻痺しないからびっくりしちゃったわ。
麻痺耐性持ちかと思ってドキドキしちゃった。あれ、高いのよ? 銀貨五枚もするんだから。効かなかったらもったいないじゃない。おかげで無駄な会話が増えちゃったわ」
「……ルナの好意を踏みにじりやがって」
「あらあら、怒ってるの? そんな態度をとっていいのかしら? その後で飲ませたお薬は毒薬よ。しかも普通の毒消しでは効かないやつ。……でも、私はちゃーんと解毒薬を持っていま〜す♪」
「……何が言いたいんだ」
「タクミ、ルナのことを助けたかったらアイテムボックスから有り金を全部出せ。魔石とドロップ品も全てだ。下手なことを考えるなよ? 言っておくがあの毒薬は即効性があるからもたもたしていると、すぐに『歪みのない場所』行きだぞ?」
……そういうことか。
「殺したらアイテムボックスに入っている物が半々の確率でロストするって聞いていたから、初心者狩りの犯人は割に合わない博打みたいなことをやっているんだなと思っていたけど……こうやって仲間を人質にとって、アイテムボックスの中身を出させていたのか」
「そうよ~♪ 仲の良いパーティー程ちゃんとアイテムボックスをすっからかんにしてくれるんだから。あなた達の仲はどのくらいかしらね?」
「どうもこうもない。金も魔石も金目の物は全て渡すからルナに解毒薬を飲ませてやってくれ」
そう言いつつ、アイテムボックスからお金と魔石、ドロップ品を次々に取り出して並べていった。
「それで全部かしら?」
「そうだ。金目の物はもうない。僕の全財産を出した。これは本当だ。頼む、解毒薬を飲ませてやってくれ」
「まだ駄目よ。確認しないといけないから」
「じゃあせめて、ルナのそばにいさせてくれ」
「……まあいいわ。ゆっくりとこちらに来なさい」
デリアと僕が時計回りにじりじりと動き、僕はルナの隣へ、デリアはヴァンスの隣へと移動した。デリアはそのまま僕が出したお金や魔石を数え始める。ヴァンスは僕から一瞬たりとも目を離していない。見張られているので、短槍は壁に立てかけたまま置いてくるしかなかった。
「ルナ……」
体が冷たくなり呼吸がかなり弱々しい。時折ピクピクと痙攣している。ルナをそっと抱きしめて背中をさする。
「二人の実力ならこんなことをしなくとも十分に稼げるだろうに。なんでこんなことをやっているんだ?」
会話をし続けながら、神眼モードにしてルナを観察する。飴玉を出された時にきちんと鑑定してから受け取るべきだった。悔やんでも悔やみきれない……
神眼によるとルナの麻痺は『リバーシナカ』、毒は『ドモークドス』という薬を使われているようだ。症状を回復させるにはそれ専用の解毒薬を使うか、レアドロップの特別な万能薬が必要らしい。当然どれも持っていない。最上級の状態異常を回復させる魔法でも治せるらしいが僕には使えない。
「なんで? うーん? 楽しいからかしら? 前に言ったことがあったでしょ? 教え子に天才がいたって。自分達には限界が訪れたというのに、ガキ共は育ち盛り。私達を追い抜いていくなんて生意気じゃない。
一年前くらいだったかしら。ある時ふと思ったのよ。教えてあげた分は返してもらおうって。最初はムカついて何となく殺しちゃったけど、有望株の子はけっこうお金を溜め込んでいたのよ。それからは取りっぱぐれないように、今みたいに計画的に回収することにしたの」
「まさか……初心者刈りの被害者って教え子達なのか!?」
「そうよ? ヴァンスが言ってたでしょ。出世払いで返してもらうって」
「なんてことを……」
ルナを治せる方法は何かないのか? 頼む! 神眼! 何か見つけてくれ!
「うん、お金も魔石も私が見込んだ数より多くあるわね。全部アイテムボックスから出したって信用してあげましょう」
「じゃあ解毒薬を……」
「まだ駄目よ」
「タクミ、お前は何かしら攻撃力を上げる手段を持っているんだろ? 歪界者以外の職業とスキルを言え」
「……槍術士とチャージランスだよ」
整合師のことを言うわけにはいかないからウソだけどな。
「やはりそうか。なんでルナなんかと一緒にダンジョンに潜っているんだ? ルナは壊滅的にステータスが低いだろう? 見ていればわかる。そんな負け犬と何故つるんでいる? 体が目当てか?」
「ゲスなことを言うのはやめてくれ、僕達はそういう仲じゃない。……だけどルナは自分のステータスが伸びないからって、あんた達みたいにひねくれて他人の人生を奪おうなんて考えたりしない!
自分にできることを精一杯やってここまできたかっこいいオオカミなんだよ! 僕の未来を照らしてくれる光だ! 勝手に自分自身のことをあきらめたあんたらこそ負け犬だろうが!」
「舐めた口ききやがって! 解毒薬は欲しくないのか!?」
「どうせくれる気なんかないくせに、よく言うよ」
「あら? ちゃんとあげるわよ? あなたがこれを食べたらね」
そう言ってデリアが僕に飴玉を放り投げた。
「ルナのことが大事なら大人しくそれを食べなさい」
僕まで麻痺したらどのみち殺す気だろうが!
「言っておくけど、僕には『死なば諸共』という呪いがかかっているからな。僕を殺したらお前たちも死ぬぞ」
「見え透いた嘘をつくな」
「ウソじゃないさ」
……呪いというのはハッタリだけどな。僕が死んだらトラップが発動してお前たちも無事では済まないのは本当だ。これはウソではない。
「どう思う?」
「どうせハッタリよ! そうでしょう!?」
僕の自信満々な態度を見て、二人が少し動揺しているようだ。今のうちになにか、なにかルナの毒だけでもなんとかできないか!?
頼む! 整合スキルでなんとかできないのか!?
ルナの毒消しを願ってルナと僕のステータスボードを触りまくる。
えっ!?
スキル欄の『整合』の隣に新しいスキルが……ある。
いつの間にか増えていた。整合師の熟練度2の取得スキルなのか!?
一読した僕は迷わず新スキルを使う。
「清光」




