第22話 聖女ミサキ(美咲視点)
――Side 美咲――
私の名前は白石 美咲、23歳の人気女優だ。日本では頑張って活動していたからね。
そして――『聖女の奇跡』をあまねく届け、ヴァラリア世界の『歪み』問題の解決策となる『希望の光』――であるらしい。
私は、大人気ゲームシリーズの最新作『ファンタジー・サーガⅩⅤ(略称ファンサ15)』の五人いる主人公キャラの一人ホワイト役の声や、いわゆるなろう系の人気アニメのヒロインの声を担当させてもらってもいた。
元々原作小説もリスペクトしていたし、こういう『転生や転移されちゃいました』といった世界観や、ゲームの世界観にも慣れ親しんでいる。
なんならホワイト無双がやりたくて、ファンサ15では課金の額が百万円を越えているくらいだ。連続ログインが途絶えてしまったので、狙っていたレアアイテムゲットが不可能になってしまったことが残念でならない。
でもね、本当に自分が異世界転移……となると話が違う。
はっきり言ってこんな世界は嫌だ。外から眺めている分には楽しいけれど、殺し殺されの世界が突如として平和を愛する自分の身に降りかかってきたら……普通は……嫌じゃない?
今ごろ日本では私達のことは、どうなってしまっているんだろう。きっと大騒ぎされているんだろうな……
そんな中、私のマネージャーの一人である長谷川 和正君は違った。すぐにこの世界を受け入れ、今ではすっかり馴染んでいる。
召喚された当日に開催された私達の歓迎パーティーの時には、もうすでに俺は勇者だとブイブイいわせていた。
私の元にもやって来て「美咲さん、俺と付き合ってください」と自信満々に言ってきた時のことは忘れられない。
きっぱりさっぱりとお断りさせてもらった時の、「え……俺勇者ですよ?」という謎の言葉を私に突き付けて来た時のことはもっと忘れられない。
人ってあんなに変わるものなのかと思った。
そんな和正君は、今ではこの国の金髪碧眼の可愛らしい王女様を射止めて、ヨロシクやっているらしい。こういうのってハニートラップなんじゃないのかと思ってしまうのは私だけだろうか?
もう一人のマネージャー、氷室 愛さんも王女様を煙たがっているので、ますますハニトラじゃないかと疑っている。かわいいメイドさん達からもちやほやされているしね。
当然のように私と愛さんの元にも、護衛と称してタイプの違うイケメン騎士達が三人ずつ侍っている。まるで私達に男をあてがっているかのようだ。その圧が気持ち悪くて、できる限り事務的に対応している。
異世界召喚された初日に巧先生を放逐したこの国には、不信感しかない。
和正君と違って愛さんは冷静なので、今後どうしようかと何度も話し合っている。けれど良い考えは浮かばず、ゼニス王国に囲われている状態なので、結局王国の意向に沿って動かされているのが悔しい。私達の中に、一人イケイケな人がいるしね……
早速ダンジョンに連れて行かれて、護衛騎士や宮廷魔道士達によるパワーレベリングが施された。
そして私達のレベルが10を超える頃には、和正君と愛さんは有力な戦力となっていた。
一方私はといえば、ゼニス王国の期待を大きく裏切っていた。
過去の文献によると、昔の聖女は四肢の欠損さえ癒すたぐいまれな回復魔法や浄化魔法、強力な神聖魔法を使いこなしていたらしい……だけど私にはそんなスキルは一切生えてこず、なぜか魔法も使えなかった。
ところがそんなある日、細マッチョイケメン騎士のマイケルから驚きの一言が発せられた。
「モンスター達がいつもに比べて弱すぎませんか?」
「そう言われてみれば……確かにそうだ。今倒したのはCランクのナーガ。それなのに……歯応えがなさ過ぎた」
ゴリマッチョイケメン騎士のデニーが深く頷く。
「勇者様方のどなたかのスキルなのでは?」
めがねイケメン宮廷魔道士のハンスの一言で私達三人に確認が取られたが、誰も何もしていなかった。
「ダンジョンモンスターに異変があるのか、勇者様方のほうに理由があるのかはわかりませんが、一度王宮に戻って精査した方が良さそうですね」
パワーレベリング隊のリーダーであるハンスの決定で王宮に戻り、私達は研究施設で調べられた。その結果、私からは常に周囲の歪みエネルギーを不安定にする波動が出ていることがわかった。
この不安定化は、ダンジョン内のモンスターの動きを鈍らせ、邪悪な歪みエネルギーを減衰させる効果をもたらしているそうだ。
研究者によると、正しくは歪みを界理の状態に戻していく効果の副産物的なものらしい。
『お荷物聖女』と陰口を叩かれていた私への評価ががらりと変わった。騎士団や宮廷魔道士団の誰も彼もが私とダンジョンに行くことを希望した。
凄まじい手のひら返しだ。手のひらドリルというものを初めて見た。
私がそこにいるだけで、今までの強敵がランクダウンして普通に倒せる相手へと変貌する――彼らの気持ちは分かる。
分かるが、それでは私はただの置物だ。そこにあるだけで良いのなら漬物石となんら変わらない。
日本にいた時から、私は私のことを評価するのならば、言動や内面、お仕事で言えば演技で評価して欲しかった。
異世界に来てまで、まさかこのような扱いをされるとは思わなかった。
そして……私の護衛に女性の騎士と魔道士が加わり、護衛の人数が十人に増えた。お手洗いや寝室の直前まで護衛される始末だ。
……まるで、決して私を逃がさないというかのような、徹底した警備体制が敷かれた。




