第20話 毛づくろい
今日からはルボンドダンジョンの第二階層へと挑戦する。
日の出とともに行動を開始し、早速入場料を払いダンジョン内へ。第一階層の前室の石板に手を触れたルナが「界渡り、第二階層へ」と言うと、少しの浮遊感と共に部屋が切り替わった。
前室の石板を回り込んで奥へ進み、扉を開ける。
目の前に広がったのは、苔とシダに覆われた薄暗い場所だった。天井にまで苔がびっしり生えているので、広大な洞窟の中のようだが、あちこちの天井にき裂がありそこから光が射し込んでいる。
「んん? あれ? そもそもここって、地下二階という位置付けなんじゃ……」
「タクミ様、ダンジョンの環境はダンジョンコアが創り出したものなので、地下何階という考えはやめたほうが良いですよ」
「それもそうか……第一階層からして、地上のジャングルみたいだったもんね……」
「タクミ様、前の岩の後ろに何かいます……」
早速ルナが嗅覚でモンスターの存在を捉えたようだ。僕にも知覚できた。
「うん、僕にもわかった。どうする?」
「匂いの元は一つしかないので、左右から回り込んで挟み撃ちにしましょう」
「わかった」
足元に広がるのは、苔が絨毯のように敷き詰められた柔らかな地面。一歩踏み出すと、微かに沈み込む感触で靴音が出ない。奇襲するには良いが、こちらが襲われる時には同じように足音がしないということなので、気を付けなければいけない。
ルナと呼吸を合わせて同時に武器を岩の左右から突き入れる!
手応えがない!?
岩の上に、体表に分厚い苔が生えたでかいカエルがいた。ジャンプして逃げられたらしい。神眼で見てみると『モスフロッグ』と名前が表記されている。
「モスフロッグです! Eランクなので対応を!」
「了解!」
早速Eランクモンスターのお出ましか! 脳筋モードにステータスを設定するわずかな間に、ルナがモスフロッグの長い舌でのムチのような攻撃にさらされていた。
しかし、しっかりと小丸盾でさばいている。
「私とバックル君二号を甘く見ないでください!」
ルナが吼える!
バックル君って言うんだね、その盾……
隙あり!!
岩の上に陣取ったモスフロッグの足に短槍が刺さり、転げ落ちたモスフロッグにルナと二人でトドメをさす。
魔石を残しモンスターが消えていく。
「ふぅ、しょっぱなからEランクとはね、第二階層はFランクと混在しているって聞いてるから、神眼はやめて今の脳筋モードのままでいったほうがいいかな?」
「ギルドの資料で第二階層のモンスターは予習してきたので、その方がいいかもしれませんね」
「じゃあこのままいくか」
「それに薄暗いので、タクミ様の場合は視覚情報に頼らない方がかえって良いかもしれませんよ」
確かに知覚10の3Dレーダーのような探知能力だけの方が良いかもしれない。
「そうかもしれないね」
先に進むと今度は『ホーンフロッグ』がいた。こいつはFランクなので大したことはない。
しばらく進むとEランクの『モススネーク』『モススラグ』という苔に体表を覆われた蛇とナメクジが、苔に擬態して次々に襲ってきたが、僕とルナには擬態は通用しない。
「ルナ、第三階層を目指さずに、しばらくはここを狩場にして、経験を積むのはどうだろう?」
「良いですね。今のところEランクの出てくる比率の方が高そうです。私達にちょうど良いですね。今日一日この辺りで励みましょう!」
第ニ階層でのモンスター狩りを続けていると、僕の魂の位階が一つ上がり4になった。
「ルナ、レベルが上がったよ!」
「おめでとうございます♪ それではキリもいいので、今日はそろそろ引き上げましょう」
帰り道でも、出会ったモンスターは積極的に倒していく。レベルが一つ上がったことにより、新たにステータスのポイントが1増えたので、随分と戦いやすくなった。
界渡りで一瞬で地上階に移動した後、ギルドに寄って換金すると今日の収入は一日で銀貨一枚だった。一気に昨日の倍だ。
お金に余裕が出てきたので、今日は帰りにルナが雑貨屋で大銅貨一枚でブラシを買った。
宿で寝る支度を終えると、今まで手ぐしで整えていたルナが鼻歌交じりで自分の髪の毛をくしけずり、次いで尻尾をブラッシングし始めた。
それを見ていた僕も、盲導犬のひかりへのブラッシングが思い出されてうずうずしてしまう。尻尾のブラッシング、やりたいなぁ……
僕とルナの親密度はかなり上がったと言えるだろう。更なるコミュニケーションとして、毛づくろいは重要だよね? 良いよね? お願いしても?
「ルナ……ルナのしっぽのブラッシング、僕もやってあげるよ」
「えっ? いえそんな。タクミ様にそんなことはやらせられません」
「むしろやらせてください」
頭を下げ、男らしく正直に自分のやりたいことを頼み込む。
「ええ!? す、少しだけなら……」
「ありがとう!」
飛び付きたい衝動を抑えて、ゆっくりとルナの尻尾に近づくと、ブラシを受け取りブラッシングを始める。丹念にブラシをかけていくと、フワッフワのもふもふ尻尾になった。
初めてルナに出会った時よりも、栄養状態が良くなったおかげか、ツヤも相当良くなっている。
うーん、良い感じに仕上がったぞ。もふもふの出来栄えに満足した僕はニンマリとして、思わず尻尾を手に取り匂いを嗅いでしまった。
「きゃっ! に、匂いを嗅いじゃだめですよぉ……」
ルナが真っ赤になって恥ずかしそうにしている。
「あ、ごめんごめん。つい。大丈夫だよ、ルナの尻尾いい匂いがするよ」
うん、良い感じ。
ルナが手で顔を覆ってぷるぷると震えている。
ありゃ、やり過ぎちゃったかな?……頬ずりするのはさすがにやめておこう。




