第2話 僕はいらない子らしい
「どうやらそなたは、勇者召喚の儀には相応しくないようであるな」
冷たく、僕を突き放すような王様の言葉が、広間に響き渡った。
勝手にいきなり召喚しておいて、相応しくなかったという王様の発言には怒りを覚えるが、それならそれで構わない。
「では、元の場所に戻してください。僕にも日本での家族や生活がありますので」
「わ、私も! 私も戻してください!」
美咲さんが震える声で、一緒に頼んでくれている。
「残念ながら、召喚の儀はあれど、送還の儀は伝わっておらぬ。伝承によれば、歪みを打ち払い、我らが世界ヴァラリアの危機が去れば元の世界への道が開かれるという」
「そんな……そんなのいつ帰れるか分からないじゃない……」
「聖女殿には期待しておるゆえ、よろしく頼む。整合師? のそなたには、当座の金子を与えるゆえ歪みが打ち払われしその時が来るまで、城下町で待っているのがよかろう」
「巧先生の技術は本物です! どこかで待ってもらうくらいなら、私と一緒に生活させてください!」
美咲さんが僕の事を心配して引き止めてくれた。あたたかい言葉が嬉しい。
「残念ながら、勇者殿、聖女殿、大魔導士殿には急ピッチで育成プログラムをこなしてもらう必要がある。いかに素晴らしい素養があろうとも、鍛えねば歪みには太刀打ちできぬのでな。
遠征続きにもなるであろう。危険なところに力がないものを連れて行くと、不慮の事故ですぐに死んでしまうかもしれぬぞ?」
「それでも……」
王様の声はとても硬い。その声からは僕への拒絶の意思を感じる。自分で連れてきておきながら、どうやら王様には僕の面倒をみる気も、美咲さん達のそばに置いておく気もなさそうだ。
周囲の人々の気配も、僕に対しての悪感情で満ちている。まるで、心無い言葉をぶつけられていた、小学生の頃のいじめのようだ。
「美咲さん、ありがとうございます。大丈夫です、身の回りのことは一通り一人でもやれますから」
「巧先生……」
美咲さんの気配が、悲しげに揺れる。
「歓迎されていない雰囲気の、ここに居続けるのは逆に辛いです。美咲さんの優しさは忘れません」
「うむ、お互いに得心がいったようじゃな、それでは準備ができ次第出発してもらおう」
あれ? そういえばいつの間にか手に持っていたはずの白杖がなくなっている。
「一つお願いがあります。歩く時の補助として使いたいので、杖をいただけないでしょうか」
「杖? 魔法使い用の杖ならあるが……魔法を使えぬ者にそれではもったいないのう。短槍で良いか?」
「短槍? ええ、それでも大丈夫です」
ゆっくり歩く時は、杖無しでも平気だから槍でも大丈夫だろう。
「これ、そこの衛兵。そなたの槍をこの者に与えよ。支度金も準備が終わったようじゃな。それでは誰か城下町まで案内をしてやるとよい。良いな、万事ぬかりなく取り計らうのじゃぞ」
「はは!」
「お世話になりました」
杖替わりの短槍と、支度金の入っているらしき巾着袋を受け取った僕は、一言挨拶をして案内人の後について召喚された広間を出る。
ギギギッと扉が閉まる音が後ろから聞こえる。
「ステータスオープン! お! 自分でもステータス見れるじゃん! アイテムボックス! おお〜! 異世界召喚の定番のアイテムボックスもあるよ!」
長谷川さんの喜色に満ちた声が扉の外にまで聞こえてきた。僕とは違って、彼は随分と楽しそうだな。彼の気配からは、未来への期待と高揚感があふれている。
杖替わりにコツコツと槍の柄をつきながら、二人組の案内人に連れられて建物の外に出た。
「異世界の召喚者殿、ここからは馬車での移動となる。王都は物価が高いので、過ごしやすいところまで移動したほうがよろしかろう。近くまで案内いたす」
「ありがとうございます」
案内してくれる人が親切で良かったよ。
促されるままに乗り込むと、すぐに馬車は動き出した。ガタゴトガタゴトと車輪の音がなり響き、やがてガラガラと連続する車輪の回転音とパカラッパカラッという馬の蹄の音が継続して聞こえてきた。
日本の自動車と比べて、お世辞にも乗り心地が良いとは言えないが、やみくもに歩き回ることなく目的地に連れて行ってもらえるのはありがたい。
ゼニス王国についてを案内人さんが少しだけ話してくれたが、しばらく前からお互いに無言の時間が続いている。どうやら案内人さんは、僕とあまり話がしたくないらしく、こちらから質問や話題をふっても返答してくれない。
暇だ。
情報収集したくとも、視覚に頼れない僕には街並みを見ることも出来ないし……
「ステータスオープン」
なんとなく、別れ際に長谷川さんが叫んでいた事を思い出し、小声で唱えてみる。
「うわっ!?」
驚いた。僕はまぶたを閉じているというのに、目の前にステータスボードが見えている。……というより脳裏に浮かんでいる?
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名前:徳本 巧
種族:人間
魂の位階:1
筋力:3
耐久:3
敏捷:2
器用:5
知覚:6
知力:2
精神:3
運 :1
歪み耐性:1
職業:整合師
職業熟練度:1
スキル:整合、アイテムボックス、言語理解 、移動支援、体術(レベル2)
装備:鉄の短槍
称号:ゴッドハンド、神の眼を持つ男
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何より驚いたのは、知らない漢字まで読めるし意味がわかるということだ。僕は目が見えなくとも、家族の支えもあって、頑張って小学一年生程度の漢字とひらがな、カタカナは書けるようになった。
だけどそれ以上の漢字はわからないはずなのに、読むことが出来る。『言語理解 』というスキルのおかげなのだろうか。ヴァラリアというこの世界で言葉が通じるのもそうなのかな。
ステータスの数値はどういう風に理解すればいいのかわからない。けれど、僕の数値を鑑定した人が言うには、知覚と器用は高いと評していたから、5や6という数値はかなりいい方なのだろうな。成人男性の基準が1か2なのかな。
それとこの『整合』スキル。このスキルがどういう風に僕の手技と関係していくのか。もしかしたら、日本にいる頃より効果が高まったりするのかも。
美咲さん達が、日本に帰れるようにしてくれるまでの間の生活費を稼ぐ方法としては、やはり慣れ親しんだ整骨や整体で患者さん達を治して、人々の役に立ちたいものだ。
それにしても運は1なんだな。運が悪いからこんな所に今いるのか、それとも1が普通なのか。精神とか人並みで良いから、運がもっと良ければこんな事には巻き込まれなくて済んだのになぁ。
そんな事を考えながら、ステータスボードを脳内で眺めていると……精神が1に、運が3へと変化した。




