第17話 ダンジョンアタック
「す、すごい! タクミ様が私の中を支配してるみたいです!」
「ルナも頑張って動いてごらん」
「は……い。ん~~! はぁはぁ」
「そうそう、その調子」
「む、むりで……すぅ。はぁはぁ」
「じゃあ今度はルナが攻めてみようか」
「は……い。いきます!」
「そうそう、良い感じだよ。最大のポイントは首と腰だから覚えておいてね。首を支配すれば胴体の動きは完全に制圧できるから」
ルナに柔道の寝技を教えているのだが、少し失敗したかもしれない。
首を制圧すると胴体を動かせなくなるという、寝技の最たるものが『上四方固め』だ。押さえつける相手の体部分は頭と肩のみであるのに、この技を完璧にかけられた相手は寝かされた状態から決して逃げられない。
いや、寝技の練習自体はルナの覚えがとても良いので、失敗どころか上四方固めは成功しているんだけど……たわわちゃんがね……僕の顔を暴力的に支配してくるんだよ。僕を押さえ込むルナのたわわちゃんが。
ルナの体温と柔らかで弾力のあるボリューム、そして心臓のトクトクという鼓動が、僕の顔面にダイレクトに伝わってくる。
これはまずい。妙な気分になってきてしまう。
「ふぅ~」
……落ち着け僕! 仕事中の僕は鋼の精神力で、グラビアアイドルの桜波依さんのスイカップに誘惑されても、さざ波一つ立てなかったじゃないか! 「巧先生は枯れてるのかしら」なんて言われたほどだっただろ!
これも仕事だ。仕事中の接触! 落ち着け徳本巧! 血流をコントロールするんだ!
………………よし凪だ。凪いだぞ!
「今日の寝技の練習はこれぐらいにしようか。次はルナの武術を教えてね」
「もちろんです!」
僕とルナは、最初のダンジョンを脱出して以来、毎日僕の柔道とルナの部族に伝わる武術『狼牙封禍拳』との技術交流をやっている。
柔道は人型モンスターには対応できても、それ以外には対応しずらい。だけど『柔よく剛を制す』の柔道の『くずし』の技術は力の弱いルナにはぴったりだからね。覚えてもらえば、かなり役立つはずだ。
それに対して、ルナの武術『狼牙封禍拳』は対モンスター寄りだから、これは僕が覚えると今後の役に立てるだろう。
僕は父さんに師事して、五歳からもう二十年も柔道をやっているので、対人武術の基礎力はある。密かな自慢だけど、全日本の視覚障害者柔道大会で二連覇したこともあるからね。
まさか異世界で柔道の指導をすることになるとは思いもよらなかった。
二人で技術を磨き合う時間はけっこう楽しいものだ。あっという間に時間は過ぎてしまう。
「そろそろ寝る時間だから終わりにしよっか」
「そうですね。タクミ様ありがとうございました」
「こちらこそ、教えてくれてありがとう。いい訓練になったよ」
ちゃぷ……
背後でルナが水桶で手拭いを絞る音が聞こえる。おっといかんいかん、知覚を操作して元の6に戻さなくては。知覚が10だと、まるで覗きをしているみたいな感覚になっちゃうんだよな。……親しき仲にも礼儀あり。同室だからこそ、マナーを守るべきだろう。
……終わったかな?
翌日、日の出と共に身支度と朝食を済ませ、僕達はダンジョンへと向かった。
街の中央にあるルボンドダンジョンの入り口に到着すると、すでに三十人程の行列ができていた。
初めて見るダンジョンの入り口は、大きなかまくらのような、盛り上がった土に大きな観音開きの扉がついているという不思議な光景だった。
入り口にいる門番に通行料として、一人銅貨三枚を払い、扉を開いて中へと入る。
中に入ると、一瞬の浮遊感を味わった。そこはけっこう広めの前室となっており、真正面に人の背丈位の高さのある黒い石板があった。
「あれは?」
「あれが昨日話していたダンジョン内の転移装置ですよ。歪界者の職業熟練度が4になるとスキル『界渡り』を覚えられます。使えるのはそれからになりますが、界渡りを使用したものが行ったことのある階層へと、仲間と共に転移で移動できます」
「なるほどね」
とりあえず今の僕たちには『界渡り』を覚えるまで出番はない。その奥にある大扉を開いて一歩踏み出すと、再び一瞬の浮遊感を覚えた後に、目の前に広大なジャングルが現れた。
「おお〜!」
見渡す限りの緑。
端が分からないほどの広さ。
むせ返るほど強烈な草いきれ。
むわりとした熱気と湿度。
なにか分からない獣の唸り声に、鳥の鳴き声。
これがダンジョンか。
ゼニス王国で放り込まれた『影の回廊』ダンジョンとは全然違う。最もあの時はまだ神眼は無く、視覚情報が無い状態だったけど。
「事前に聞いていたとおり、第一階層はジャングルでしたね。ルボンドダンジョンは、階層ごとに全く違う自然環境らしいので楽しみですね」
確かに、命の危険がないのであれば楽しめるのだろうけど……今の僕には、まだそこまでの余裕はない。
……ないのだが……なんともいえない、わくわくする感情が溢れてきた。冒険をしてる! という高揚感に満たされていく。
なるほど、ダンジョンに行きたがるルナの気持ちがわかってきたよ。
「とりあえず進みましょう。まだ第一階層なので現れるモンスターは、GランクとFランクのはずですが、油断はしないように」
「ああ、気を引き締めて行こう!」
扉を背にまずは真っ直ぐに進んで行く。ルナはマッピングの知識と罠やモンスターを嗅ぎ分ける嗅覚があるので、とても頼りになる。
奥に進むと、初めてモンスターを見かけたが、すでに一つのパーティーと戦闘中だった。
「タクミ様、ここで少し待ちましょう。下手に動くと横取り行為として非難されてしまいます」
「わかった」
十二、三歳位の歳頃の少年少女の五人組パーティーと、それを見守る監督者のような二人組の男女が、一体の角うさぎを取り囲んでいた。




