第15話 初心者狩り
「お前ら、まだ歪界者になりたてなんだろ? 俺らがきっちり一から教えてやるから、明日から一緒に行動しようぜ?」
すっごいガラの悪い二人組に絡まれてしまった。
「兄ちゃんはどっかのボンボンだろ? 歪界者に憧れてダンジョン探索やりたくなったのか? 俺はCランクの歪界者だから、一緒にダンジョンに潜れば安心だぞ?」
一人は上背もあり筋骨隆々で大剣を背負った、スキンヘッドと両腕に入れ墨のある荒々しい雰囲気を持つ男。
低い威圧的な声で、ギルド証を僕らに見せつつ迫ってくる。
Cランクだから安心ってなに? ランクがわかっただけでは、人間性が安心できるかどうかはわからないんですけど?
「ヒャハハハ、やめとけよ、兄ちゃんと獣人の嬢ちゃんが困ってるじゃねえか。なぁ?」
もう一人は弓を背負い、頭頂部以外を剃り落としトサカのように異様に髪を伸ばした、声の大きな男。これが噂のモヒカンってやつか。初めて見たよ。このモヒカン男はルナから視線が離れていない。もしやナンパが目的なのか?
二人とも三十代くらいだろうか。
神眼をこっそりと発動し、ステータスを覗き見ると、Cランクというのは伊達ではなく、二人ともバランスよくかなりの高ステータスで、今の僕ではとても勝てそうになかった。
「ダンジョンは危険が多いぞ? 俺らが手取り足取り教えてやっからよ」
「……いえ、結構です……」
おっかない見た目の知らない人と、一緒に活動する方がずっと怖いです。
「タクミ様には私が教えますので大丈夫です」
ルナも疑いの眼差しで彼らを見ており、できるだけ関わらなくて済むようにと、丁寧に断っている。
「遠慮するなって!」
「いえいえ、僕らは二人で大丈夫ですから」
「んっ? そっちの嬢ちゃんは狼獣人か? おい兄ちゃん、知ってっか? 狼獣人は夜になると豹変する。気をつけろよ?」
スキンヘッドのその言葉に、カチンときた。
「ルナは僕の大事なパートナーです。もう何日も一緒に夜を過ごしていますが、危険どころか、毎日僕を癒してくれています。悪く言うのはやめてもらえませんか?」
「お? ……おう、すでに兄ちゃん達は深い仲だったのか……そいつは悪いことを言っちまったな。いや、すまねぇ。俺が悪かった」
しつこいスキンヘッドの謎の絡みは終わり、ようやく諦めたようだ。バツが悪そうに肩をすくめている。
「せっかく俺が歪界者としての初歩を教えてやろうと思ったのになぁ。俺は心配してるんだぜ? ちっ、仕方がねえな、行くぞモヒー」
「ヒャハハハ、振られたな! だせえぜブル! ヒャハハハッ!」
思ったよりも……案外簡単に引き下がってくれたね。ギルド内は人の目が多いから、さすがに無茶なことは出来ないのかも。
他人にうざ絡みするような人とはお近付きになりたくない。無理な勧誘はお断りだよ、ブル&モヒー。
絡まれて興奮したのか、ルナのしっぽの動きが激しい。どうどう、ほら深呼吸して? ルナ、落ち着きなって。
気を取り直して買取カウンターへと行くと、二十歳くらいの猫系獣人の女の子が受付をしていた。わぁ、犬系も良いけど、猫系も可愛いね。しゅっとした尻尾がゆらりゆらりと動き、くりくりのパッチリした目でこちらをじっと見ている。
「いらっしゃいだニャ」
にゃ!?
ルナはワンって言わないのに、この子はニャって言ったよ!
「新顔だニャ? ウチの名前はミケ。ギルド証を見せるにゃ。クズ魔石は十個以上まとめてじゃなきゃ買取しにゃいから、貯まってから来るにゃよ?」
「あ、はい、さっき受付で教えてもらいましたので大丈夫です。タクミです」
「ルナです」
僕とルナが名乗り、ギルド証をミケさんに見せた。
「タクミとルナ。よろしくにゃ」
「よろしくお願いしますミケさん」
アイテムボックスからホブゴブリンウォーリアの魔石一個とゴブリンスカウトの魔石五個、クズ魔石をジャラジャラと出し、最後にホブゴブリンウォーリアのドロップアイテムの大剣一本をゴトリと置いた。それを見た途端に目の色が変わるミケさん。
瞳が爛々と輝いている。いや、比喩じゃないのよ。実際に目が輝いているんだよね。
「ミケさんは、鑑定眼をお持ちのようですね」
ルナがこっそりと僕に耳打ちしてきた。なるほど、スキルの光か……僕も神眼でミケさんを観ようと思っていたんだけど、やめておこう。なんか突っ込まれても困る。
「ホブゴブリンウォーリアの大剣と魔石が入っているにゃ。二人ともFランクなのに、どうやって手に入れたのにゃ?」
「僕は歪界者ギルドに加入したのは今日が初めてだったんですけど、幼い頃から武術を嗜んでいましてね。初めて入ったダンジョンで、かろうじて無事に倒すことが出来ました。いや、危ないところだったんですがね」
「無茶はするもんじゃないにゃ。いくら腕に覚えがあっても、いきなりDランク上位のモンスターとやり合うなんて無謀だにゃ」
おっしゃる通りなんですが、僕も好きで戦ったわけじゃないんですよ……少しぶっきらぼうなしゃべり方だけど、僕らの心配をしてくれるなんて、ミケさんが良い人そうで良かった。
「クズ魔石は二十個で大銅貨二枚、ゴブリンスカウトの魔石が五個で銀貨一枚、ホブゴブリンウォーリアの魔石が銀貨一枚と大銅貨三枚。大剣が銀貨一枚。
タクミとルナは見どころがあるから、初回限定大サービスで大銅貨三枚おまけしてあげるにゃ。全部で銀貨三枚と大銅貨八枚、しめて三万八千ロギーだにゃ。この金額で納得できたならギルド証をこの水晶玉に触れるにゃ」
言われたとおりにギルド証を水晶玉に押し付けると、ギルド証は淡く光を放った。
「これで討伐履歴も残ったにゃ。それと二人とも、ちょっと耳を貸すにゃ」
貸してあげるから、後でちゃんと返してね?
「……最近、好成績をあげる初心者が突然来なくなることが増えているにゃ。ギルドの見解ではダンジョン内で……人間に襲われているんじゃないかと疑っているにゃ」
それって……?
「二人とも初心者狩りには気をつけるにゃ」




