詩 泥水の海を進む船
「大昔に外の国は全部泥の中に消えてしまったんだよ」
「だから、他の国なんてものは存在しないって、皆言ってるよ」
泥水でできた海の中へ 小さな船で泳ぐ
いつか死ぬどころか 次の瞬間だって生きてはいない
正気じゃない 狂気じゃない?
それでも 向こうへ 海の向こうへ
狭い大地から 知っているだけの世界から
はみ出さずに お行儀よく生きる
なんて出来ない 無理な話だ
自分が自分であるために
夢が夢であるために
与えられた真実を ただただ鵜呑みにしやしない
「嵐に揺れる船 雷にうたれる自分
怪魚に飲み込まれる船 日照りに苦しむ自分
それでも海を渡る まっすぐ漕ぎ続ける」
自分が自分であるために
夢が夢であるために
与えられた嘘の歴史を ただただ真実だと思い込まないために
「ストーリー」
ずっと前に、赤子だった頃に、外の国から流れ着いてきた。
海岸に漂着した私を育ててくれた恩は分かっている。
船はバラバラになり、波に消えてしまったから。
異国の存在の証明はできない。
みんなは外の国なんてないから、危ないことはするなと言うけれど。
それでも、故郷に対する思いは消えない。




