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「利輝!誰か来おへんか見といてや?」
「わかったて…」
放課後、誰もいない教室
吉は茶弥の席に座っていた
俺は入り口に立ち
誰か来ないか見張っている
あの海事件以来
吉は茶弥の事が好きみたいだ
そんな、きしょい事しとらんと
普通に喋ったり遊んだらええやん
よく昔は遊んどったやん
茶弥は小2の時にこっちに引越してきて
俺らはすぐ仲良くなった
特に吉と茶弥の家は歩いて3分くらいの近さだったので
小学生の頃、2人はよく家の前で
サッカーのボールの取り合いをして遊んでいた
茶弥は昔からサッカーをしていて結構上手い
小柄でちょこまかと動くFWだ
中学に入ってからは
部活や塾もあり遊ぶ機会は無くなっていたが
挨拶や会話は普通にしていた
「なんかさー、意識しだしてから
急に茶弥が女子に見えてさー
ドキドキするってゆーか」
「確かに、最近かわいくなったよな」
「やんな?!やんな?!」
俺は教室入り口の廊下にしゃがみ込んで
吉の話に合わせた
中学2男子たるもの陰湿な片想いは青春の通り道だ
「ほやけど、なんで席に座りたいん?」
「茶弥が毎日見とる景色を俺も見てみたくて」
そう言いながら
吉は茶弥の机の落書きを指でなぞっている
ホラー映画並みに怖い
「利輝は気になる子とかおらんの?」
「おらんなーーー
なんか、そーゆーのよく分からんし」
「そーなん?
利輝この前、後輩に告られてなかった?」
「あー、全然むり
ただの後輩やし」
この頃の恋というのは
恋してる自分が好きなのであって
相手への思いやりも何もあったもんじゃない
恋は現実逃避だと俺は思っている
自分に浸り、泣いたり笑ったり、切ない思いに胸が苦しくなったり
はたまた脳内をお花畑に変えたり
見える世界まで変えてしまう
つまらない日常の
ただの発散方法の1つだ
だから俺は基本、恋とかそんなのは信じていない
(でも現実逃避したくなる気持ちは分からんでもないなーーー)
毎日出されるご飯を食べて、風呂に入り
皆同じ服を着て学校に行き
同じ時間に起立して、礼して
大人達にあれしろ、これしろ
あれするな、これするな言われ
全ての大人に縛られる毎日
親や先生には話せない事ばかり増え
大人との距離は離れる一方だ
利輝はポケットから携帯を出して電源をつける
画面にリンゴのロゴが出た後
暗証番号を押す(0310)
待ち受け画面に映ったのは
去年の大晦日に、初日の出を見ようと
2人で地元の山に登って頂上で撮った写真だ
初日の出を間に挟んで
寒すぎて無表情2人
いつ見ても笑える
「利輝?」
はっ、と顔を上げると
俺の前に茶弥が立っていた
「茶弥!!?!」
びっくりして大きな声を出すと
教室からガタガタっと動く音が聞こえてきた
それに気づいた茶弥は
素早く教室に入っていった
(すまん、吉…)
「な、何しとるん?」
慌てて立ち上がった吉は、とにかく隠れようとしたが
椅子が足に引っかかり、椅子と共に派手に転けていた
「あ、いや、これ茶弥の席?ごめんごめん、ははは」
吉は倒れたまま、誤魔化すように変な顔で笑った
茶弥は全然気にしてない様子で
倒れた椅子を元に戻すと
吉に手を差し出す
吉は一瞬、躊躇したが
茶弥の手をとり立ち上がった
「一緒に帰ろや」
茶弥の提案で3人は一緒に帰る事になった
自転車で帰る途中にファミマによって
それぞれホットスナックを買い
車の縁石に座って食べる
ちなみに俺はファミキチ
吉はバジルピザ、茶弥はチーズインフランク
学校帰り、よく吉とはこうして
コンビニに寄り買い食いする事はあったが
茶弥とは初めてだ
横目でチラリと茶弥を見る
ちっこい茶弥は隣に座ってると更にちっこく見え
男女の差ってやっぱりあるんだ、っておもわず思う
骨々しい俺の腕に比べて
茶弥の腕は柔らかそう
膝とかまんまるでかわいい
陸上部の茶弥は日に焼けて健康的な小麦色だ。
制服の下は日に焼けていないから白いのかな
もともと地黒じゃないもんな
お腹とか真っ白なのかな
パンダみたい
想像して、ちょっと笑いそうになる。
「あんたらオナニーしとるん?」
ぶっといフランクをかじりながら
茶弥が唐突に言った
「え!!何急に?!」
俺はファミキチを落としそうになった
「どれくらいの頻度?気持ちいいの?
いいなーーー、私もチンチン欲しいわ」
茶弥の衝撃発言で
何も言えずに動揺する俺と吉
こちらを見ずに、淡々と話す茶弥
「射精とかくそかっこいいやん
女なんて出ておりものやし
ほんまクリトリスなんて短小のなりそこないやで
あーあ、男になりてー」
茶弥は男に憧れているらしい
俺は、何と返したらいいか分からなくて
そーでもないでー、とか無難な事を言ったが
茶弥の本当の所はわからないし
今時のトランスジェンダーの問題なのか
真意は触れられないまま
俺と吉はずっとあたふたしていた
日が暮れてきたので帰る事になり
「また、明日」
と言って別れた
茶弥の話をもっと深く聞きたかったが
昔は感じなかった、男と女という壁があるんだ、と知って
寄り添えなかった。
俺は吉と話したかったが
吉は塾があると言って、家とは違う方向に行ってしまった。
恋愛対象については聞かなかったが
吉の初恋は終わりを迎えたようだ
俺は、なんか
切ない気持ちで、1人
家に帰った。




