1-プロローグ
──これは、「断罪」から始まる私の物語。
薄暗い意識の底から、遠くでざわめく声が聞こえた。
「……レイラ様、申し開きはございますか?」
重たい頭を上げると、目の前には壮麗な王城の大広間。大理石の床に、赤絨毯。シャンデリアの下で、華やかなドレスをまとった貴族たちが、嘲笑と憐憫の混じった視線をこちらに向けている。
──え?
視界に入った自分の手は白く細く、宝石の指輪がいくつも嵌められていた。
あれ、わたし……?
「第一王子殿下から、正式に婚約破棄が申し渡されました。理由は──第三騎士団長との不貞行為、および、王家への反逆の意図ありと見なされたため」
その声を聞いた瞬間、目の奥がちかちかと光った。
脳裏に、知らないはずの記憶が流れ込んでくる。
──レイラ・グランディール。
王国一の名門貴族の令嬢。傲慢と名高く、政敵を蹴落とすためなら手段を選ばない、悪役令嬢。
「……ああ、転生しちゃった系?」
思わず出たひとりごとに、会場が静まり返る。
周囲の令嬢が目を見開き、王太子がわずかに顔をしかめた。
レイラはふっと息を吐く。
目覚めたのが、よりにもよって「悪役令嬢の処刑寸前」とは。
ついてないにも程がある。
だが──
レイラの中には、前世の「雑草メンタル」と「理不尽な社会をくぐり抜けてきた知恵」があった。
転生前の名前はカオリ。カオリは、書店勤めのサービス残業だらけの毎日を送っていた。
そして、毎月両親から盗まれる給与。
カオリの両親は、借金だらけで、毎月カオリの給与から金を盗んでいた。
そんな理不尽な生活の中、目覚めた不屈の精神。
カオリは転生しても、特に驚かなかった。
特にやっていた乙女ゲームの中の悪役令嬢に転生できたのなら、攻略は分かっている。
そして、気づいた。
この場にいる告発者たちの、目の奥に宿る色が──妙に、濁っている。
「……ふふっ」
ドレスの裾を揺らしながら、レイラはゆっくりと前へ出る。
「──証拠は、ございますか?」
貴族たちがざわつく中、レイラの目には誰が嘘をついているかが、手に取るようにわかっていた。
これはもう、ただの断罪ではない。
私がこの世界の腐った貴族たちを叩き潰す、最初の舞台。
──悪役令嬢レイラ、開幕の一矢は「ざまぁ」から。