駄文
「〇〇君とは楽しくないから遊ばない」
この言葉は、初めての友人に言われたことだ。
「〇〇君、なんで他の子をいじめたの!」
この言葉は、初めて冤罪をかけられてはめられた時に言われたことだ。
「お前はなぜ言われたことができないの?」
この言葉は、僕が物心ついた時から言われていたことだ。
「先輩のことがきらいです」
この言葉は、初恋の人物に言われた言葉だ。
僕の人生を形作った言葉は、いつもマイナスな言葉ばかりだった。
生まれた時から幸せではなかった――僕はそう思っている。
親はずっとヒステリックだった。自分の思い通りにいかなければ癇癪を起こすような幼稚な母親と、そんな女を捨てて、生きているのかもわからない父親。
そんな親の間に生まれ育った僕は、“普通”の人間にはなれなかった。
世の中には「ギフテッド」と呼ばれる人たちがいる。僕も、不幸なことにそれだった。
でも、神様は与えるだけじゃなく、奪ってきた。
一目見ればなんだって理解できる頭脳。
スポーツだって、同年代じゃ誰も勝てない。無双と言っていいほどの身体能力。
まるで漫画の主人公のような力を持っていた。
そんなスーパーマンのような僕が持っていなかったのが、「共感性」と「協調性」だ。
僕には極端にそれがなかった。
理解はできる。僕は、そのうえで、行動ができなかった。
幼稚園に入ったとき、初めての友達ができた。
その子とは、よく一緒に本を読んだりしていた。
ある日、その子が外で遊ぼうと誘ってきたので、他の子たちとかけっこや鬼ごっこをして遊んだ。
その次の日、昨日あそんだ子たちとまた遊ぼうと近づいたとき、一緒に本を読んだあの子が僕に言ったんだ。
「〇〇と遊ぶと楽しくないから、遊ばない」
その時、僕は「同年代と仲良くすることは無駄だ」と学んだ。最後は裏切られるから。
時がたち、小学生になった。
やはりというべきか、僕は孤立した。
小学生は残酷だ。理解できないものを排除しようとする。
気がつけば、僕へのいじめが始まった。
ある時、僕はいじめに抵抗した。
そうしたら、逆に教師に言われた。自分がいじめていることになった。
もちろん冤罪だと訴えたが、多勢に無勢。僕が悪になった。
その時に、僕は「大人を信用しなくなった」。結局、最後は裏切られたから。
そのままいじめられながら中学生になった。
中学生になると、いじめはさらに陰湿なものになった。
教科書などを隠すような古典的なものから、出所不明の「僕がいじめを扇動している」などの、根も葉もない噂が立った。
僕のいじめに「正義マン」が参戦してきた瞬間だった。
そんな中で、僕も限界だった。
そのとき、殴り合いの騒動に発展してしまった。
普段なら無視できるはずの言葉に、なぜか耐えられなかった。
殴り合いは、大勢の先生に取り押さえられる形で終わった。
その後、僕は停学処分となった。
母親は僕のことなどどうでもよく、近所の目しか気にしてないようで、ヒステリックに僕のやったことを非難してきた。
「お前のせいで近所から白い目で見られてる」
「お前はなぜ言われたことができないの」
「お前のせいで金がない」
「お前のせいで」
「お前」
「おまえ」
・
・
・
・
「お前なんか生まなければよかった」
この言葉を最後に、母親を信じることをやめた。
そして、僕が誰も信じることができなくなった“最悪な日”だ。
最悪な日々が流れ、受験の時期になった。
どうやら母親は、世間体のために僕を有名な高校に入れるらしい。
受験は当たり前のように合格した。
高校生活は相も変わらず孤立はしていたが、同じ中学の人間がいないことが幸いして、いじめはなくなった。
スポーツが有名らしく、バスケ部にも入った。
二年生になると、部活のつながりで後輩ができた。
そして、恥ずかしいことだが、その後輩に一目惚れをしてしまった。
今にして思えば、いじめがなくなり、信じないと決めていた人を信じてしまった――僕の過ちなのだろう。
三年生になったころ、その後輩に告白した。その返答は――
「先輩のことがきらいです」
どうやら後輩は、自分のバスケの技術以外には用がなかったらしい。
この言葉を聞いた時、昔あったことがフラッシュバックしてきた。
「信じない」と決めていた人を信じ、また裏切られる。
きっと、頭のどこかでは「もしかしたら」なんていう考えがあったかもしれない。
その日以降、後輩とはかかわることもなくなった。
卒業の日が近づいてきたある日、母親が唐突に話しかけてきた。
母親はどうやら、高校卒業後は指定した場所で働かせるつもりらしい。
そして、ついに高校卒業の日。
卒業証書を受け取った。
何も信じられない。ただ、頭が良くて、身体能力が高い。
空っぽの、でくの坊が社会に出る日になってしまった。
ふと、僕は最後に抵抗しようと思った。
どうせ地獄なら、さっさと抜け出したくなってしまった。
ふと、頭の中に自由の象徴である鳩が思い浮かんだ。
思い浮かんでしまった。
そうだ、飛び降りよう。
自由に、青空を翔ける鳥たちのように。
決心してからは早かった。
家を飛び出して、できるだけ高い建物の屋上へと足を速めた。
そして、ついに屋上にたどり着いた。
「普通になりたかった。そうすれば、もう少し楽しく生きられたのかな?」
そうつぶやき、落ちた。
翌朝のニュースで、飛び降り自殺が報道されていた。
どうやら、有名な高校を卒業したての若者が自殺したらしい。
その若者は、部活の大会で優秀な成績を残し、学業でも素晴らしい成績を残したらしい。
そのニュースを見た、どこにでもいる“普通”のサラリーマンはこう思った。
”その才能があれば、自分はもっと稼げたのかな”と妄想しながら出勤準備をし、妻に――
「行ってきます」
そう伝え、今日も平凡な社会の一員として働くのだった。