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第8話「交錯する戦術の牙」




残る二体――フロスト・サーペント(水)とヴォルト・ファング(雷)。それぞれが異なる魔力構造を持ち、さらに激しく三人を試すように動き始めていた。


「次は……私がやるわ」


珍しく、シャナが自ら前に出た。

冷気を纏った彼女の瞳が、蛇のようにうねるフロスト・サーペントを静かに捉えている。


「リィナ、援護を。レオン、視界の制御を頼む」


その言葉に、二人がほぼ同時に動き出す。


リィナは、氷の霧の中でも魔力を細く制御し、霧の流れを読んで展開位置を変える。レオンは魔術式の組み換えを即座に行い、反応遮断の結界をその場に構築。


「なるほど……環境そのものを、こっちの有利に変える気か」


敵の構造を見抜いた上での“連携”――三人の連携は、初めて本当の戦術に昇華しようとしていた。


――そして、シャナの氷が、再び戦場に降る。


シャナはゆっくりと前に出ながら、冷気を帯びた魔力を両手に集中させる。その魔力は氷というよりも“静寂”そのものであり、触れればすべての動きを奪われるような凍てつきを孕んでいた。


「……視線を逸らさないで。あれは、正面からでないと誘導できない」


「任せて。遮蔽は私が調整する」


リィナは両手を広げ、空中に展開された水の粒を制御し始めた。小さな反射面が次々と空中に浮かび上がり、まるで一面に鏡が配置されたかのような光景が広がっていく。


その中で、フロスト・サーペントが姿をくねらせ、狙いを定める――だが。


「今だ、リィナ」


レオンの合図とともに、反射面の一部が一気に収束し、光の錯乱と魔力の乱反射がフロスト・サーペントの視界を乱した。


「“氷の迷宮”……完成」


その瞬間、シャナの魔力が爆ぜる。宙に構築された魔法式は、三重の氷輪として展開され――


「《氷鎖結陣・零哭》」


発動と同時に、氷の鎖が空間を這うように走り、サーペントの動きを封じ込めた。さらに、氷輪の中心に生まれた一条の氷槍が、わずかに膨張しながら一気に射出される。


拘束、集中、貫通――すべてが重なるその一瞬。


氷の杭が、フロスト・サーペントの核に直撃した。


魔力が悲鳴のような音を立てて砕け、二体目の幻影獣が、光の粒となって空に散る。


「……撃破、確認」


リィナの報告に、レオンも一つ深く息をついた。


(……シャナ、やっぱりただの火力型じゃない。

あれは狙って組み立てた戦術だ。冷静すぎるくらいに)


「残り、一体」


ヴォルト・ファング――雷の幻影獣が、気配を絶って獲物を伺う。


だが今の三人には、確かな“呼吸”が生まれていた。


次の戦いに向け、レオンの目が細く鋭く光る。


「最後は……俺がやる」


雷鳴のような低音が、訓練場に響いた。


ヴォルト・ファング――雷を纏う幻影獣が、空気を裂いて疾走する。その動きは、まさに予測不能の閃光だった。


「視覚じゃ追いつかない……!」


リィナの声と同時に、獣影がシャナの至近に現れる。

しかし、彼女は揺らがず、瞬時に氷壁を展開。衝撃をいなす。


「滑らせて誘導します!」


「雷の流れ、拡散して中和する」


リィナとシャナがそれぞれの魔術を放ち、幻影獣の動きを限定するように布を張っていく。そしてそのすべてを読み、レオンは地面に魔力を込めた。


(来る……次で、仕留める)


「《重写陣式・地盤の檻》!」


魔法陣が瞬時に展開され、ヴォルト・ファングの脚が封じられる。


次の瞬間、レオンは詠唱を省略し、掌に魔力を集中させた。


「――《地穿・終式》!」


奔流のように放たれた岩槍が空気を裂き、封じられた幻影獣の胸部を貫いた。


刹那の静寂。

ヴォルト・ファングの身体が閃光とともに砕け散り、光の粒子となって宙に舞う。


完全撃破――最後の一体も、地に還った。


レオンは小さく息をつき、拳を静かに下ろす。


(これで……終わりだ)


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