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第2話「導かれし試験の刻」

俺――レオン・アルヴァレストは、今、魔法学園アストラ・セレスティアの正門前に立っている。


その門は、まるで大陸を貫く古代の石壁のような重厚さを備え、中央に刻まれた紋章は、太陽を抱いた八芒星と、その中心に浮かぶ一本の羽ペン。その瞬間、空間が揺らぎ、俺の目の前に“文字”が浮かび上がった。


淡い蒼光を放ちながら、空中に静かに出現したそれは、誰かの声すら聞こえてくるような不思議な感覚をもたらす。周囲の誰もが、それを神聖なものとして自然と立ち止まり、見上げていた。


光の幕に浮かび上がる文字は、こう記されていた。


_______________________


魔法学園アストラ・セレスティア

魔法歴208年度 入学資格認定試験


・試験は「筆記」「実技」「魔法適性」の三部構成で行われます。

・受験者は登録番号に従い、誘導に従って指定の会場へ向かってください。

・魔法具の使用は禁止。補助道具、指導者の介入も同様。

・合否は当日、学園中庭掲示板にて通達されます。

・暴走魔術、ならびに破壊行為を行った者は即時失格とします。


────いざ、理への階段を上れ。選ばれし者たちよ。


_______________________


厳かで、どこか心を打つ文言だった。

俺のような庶民出の少年には、背筋が伸びる想いすらする。


「……本当に、始まるんだな。」


胸の奥に、小さく火が灯る感覚があった。


思い返せば、ここまでの道のりは楽なものじゃなかった。俺は南部の辺境村で生まれ育ち、魔法に触れたのは12歳の時。父が残した日記の中に書かれていた、ぼろぼろの魔導理論書がきっかけだった。まともな教師もいない中、必死に独学で魔術を読み解き、夜な夜な詠唱を繰り返しては失敗し、時には爆発に巻き込まれて気絶したこともある。


それでも、魔法は俺にとって夢だった。

空を駆けること。風を従えること。人を守れる力を持つこと。そんな“当たり前じゃない日常”を、俺も手に入れたいと思ったのだ。


「おーい、レオン。突っ立ってたら門に呑まれるわよ?」


隣から聞こえた声に、現実へと引き戻された。金色の髪を揺らす少女――リィナ・シュトラーデが、涼しげな笑みを浮かべて俺を見ていた。


どこか気品を漂わせながらも、言葉は軽妙で、でも品の良さを崩さない絶妙なバランス。それが、俺の幼なじみであり誰よりも魔法に対して誠実なリィナだった。


「大丈夫。門に飲み込まれるほど鈍くはないさ。」


「ふふっ、そうだと良いけれど。やっぱり門を前にすると緊張する?」


「少しだけな。でも、心臓の音が聞こえる程度だよ。」


「……それ、わりと重症なんじゃないかしら?」


軽口を叩き合うことで、少しだけ緊張がほぐれる。どれだけ準備をしてきたつもりでも、この場に立てばやはり特別だ。そう感じるのは、きっと俺だけじゃない。


周囲には、様々な種族の若者たちがいた。

長耳を揺らし、蒼い瞳で周囲を見渡すエルフ。

体格のいい獣人の少年たちは、既に背比べを始めている。さらに、漆黒の肌を持つ魔族の少女が、呆れたようにそれを眺めていた。


──この学園には、いろんな者が集まる。

そして皆が、“魔法”というただ一つの道を目指してここにいる。


「レオン、あなたの登録番号は?」


「ええと……309番。確か、筆記試験会場は第五講堂だったと思う。」


「私は312番よ。近いわね。」


「じゃあ、同じエリアか。」


「うん。……行きましょ。あなたの一歩を、私も見届けたいから。」


その言葉に、自然と胸が熱くなった。

リィナは、幼いころから誰よりも俺の魔法への執念を知っている。どんなに失敗しても、俺が諦めなかったのを、ずっと見ていてくれた。


「行こう。……未来を、掴みに。」


そうして、俺たちは門をくぐった。


魔導文明の崩壊から、千と二百八年。新たな時代の継承者としての一歩を


"今、踏み出す"

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