第1話「始まりの審査日(アセスメント・デイ)」
朝靄が晴れきらぬ森の小道。
白銀に煌めく朝露を踏みしめながら、
俺──レオン・アルヴァレストは、革鞄を背負って歩いていた。
目的地は、《アストラ・セレスティア》魔法学園。
魔法歴208年の今も、最古にして最も格式高い、伝統ある学び舎だ。
今日は、その入学前の最終選別。
魔力資質の測定、適性魔法の分析、そして、第一魔法寮へ入るための実技審査。全ての項目で基準を満たさなければ、門前払いもあり得る。
そんな厳しい日に、俺の隣を歩くのは──
「……レオン、あまり緊張していないのね」
柔らかな声と共に、横から涼しい風が吹いたかのような気配がする。
栗色の波打つ髪をゆるく結い、上品なリボンを留めた少女。制服の下に着た白のブラウスには、刺繍が細やかに施されている。
彼女の名は──リィナ・シュトラーデ。
幼なじみにして、貴族出身の才媛。
自他共に認める優等生で、俺なんかと違って、審査に通るのは確実だろう。
「んー、してないって言えば嘘になるけど……
ま、今さら足掻いたって仕方ないしな」
俺がそう答えると、リィナはくすっと笑った。
「……相変わらずね。いつだって、“なるようになる”主義」
「だって、気張って落ちたら、それこそ格好悪いだろ?」
「そういうところ、嫌いじゃないけれど……心配にもなるわ」
そう言って、彼女はそっと俺の袖口を掴んだ。
昔からこうだった。俺が無理をしようとすると、リィナは決まって側にいてくれる。
その細い指先が、"少しだけ強く握られた"のを感じて── 俺は、深呼吸した。
学園の門は、もう目前だった。
この魔法文明の再興を担う者たちが集う場所。
“選ばれし者”しか入れない場所。
──そして、俺たちの運命が
"大きく動き出す場所"でもある。