たちばたさん再び
家に帰ると、歩き疲れたのかケーキを食べる間もなく娘は寝てしまった。
妻から息子の手紙と話を聞いた。
うちの子供たちは魔力があるのか。
亡くなって尚、家族の心配をする息子は立派すぎる。
この子達の親として俺は釣り合っているのだろうか。
あ!これか!妻が落ちいたのは。
例え釣り合いがとれなくたって、子供をしっかり愛そう。
大事にしよう。
しかし、いきなり「あーちゃん」と呼んだら驚かないだろうか?
ところが、起きた娘は「にぃには『カエデにぃに』、アオイは『あーちゃん』だよ」と言った。
どうなってるのだ?と不思議に思っていると、「にぃに、あ、カエデにぃに、言ってた!」と、カエデから聞いていたと教えてくれた。
既に話を通して了承しておくなんて、本当に良くできた子供たちだ。
それからしばらくは平和に過ごした。
妻にはたまにカエデからのメモ手紙があるらしい。
退院してきた鈴木夫妻がケーキを10個も持ってきたときは流石に驚いた。
我が家の小さな冷蔵庫にケーキはそんなに入らないのでそのまま無理矢理上がって貰い、まず1人1個ずつで5こ消費した。
翌日に3個、翌々日に2個。3日間ケーキを食べた娘は上機嫌だった。
最初の赤い車の件から約1ヶ月後、再び父の友人が訪ねてきた。
海外に行っていたらしく、真っ黒に日焼けし、外国語の書かれたお菓子を持参していた。
父と外で遊んでいたら声をかけられた。
「こんにちはアオイちゃん」
「あ!あくしゅのお兄さん!」
「握手のお兄さんか。そうだ自己紹介してなかったんだね。僕は橘幸男といいます」
「たちばたゆちお?」
「あー言い難いか。たちばな でも、ゆきお でも、好きなように呼んで良いよ」
「たちばたさん!」
「花守さん、お久しぶりです。これ、お土産です」
「ひさしぶり!どこ行ってたの?」
橘さんと父は話し込んでいるので、貰ったお土産を母に見せに行った。
「まぁま!おみやげもらった!」
「まあ、チョコレートね。何かナッツが入っているみたいね。外国語は読めないけど」
それは平たい箱に入ったマカダミアナッツチョコレートだった。
「誰か来たの?」
「たちばたさん!」
「たちばなさん?」
「そだよー」
「あーちゃん、カエデにチョコレート見せてくると良いわよ」
「わかったー」
母は橘さんにこれ以上会わせたくなかったらしい。
兄の部屋へ行ってチョコレートを見せてすぐ帰ろうとしたら兄に引き留められた。
今まで、戻るように言われることはあっても、引き留められたことはなかったので少し驚いた。
◇◇◇◇◇
「こんにちは橘さん」
妻の真子がお茶をもって顔を出した。
「こんにちは、お邪魔してます。あれ?お嬢さんは?」
「何か疲れたのか眠ってしまいました」
「そうなんですか。残念だなぁ」
恐らく妻は娘をあまり会わせたくないのだろう。なので、追求されないように話を戻してみた。
「この前の、電車よりバスの結果を、今、聞いていたんだよ」
「そうなんですよ!おかげで、飛行機にギリギリ間に合って、最初の予定の電車は故障で止まったそうなんです!」
「そうなんですか。間に合ってよかったですね」
妻はお茶をおくとあっさり下がっていった。
「何かありました?」
「あ、いや、その」
「アオイちゃんですか?」
「んー。娘な、又倒れたんだ」
「あーあの予知能力……」
「まあ、そういうことだ。すまんな」
「いえいえ、調子に乗ってしまってすみませんでした」
「ちょっと妻は今神経質になってるんで、まあ……」
「わかりました。お嬢さんに会っても左手は触りません」
「ありがとう」
「こちらこそ、助けて貰ったがわです。恩人に無理は言いません」
これならば橘君は大丈夫だろうと思った。
確かに、しばらくは大丈夫だった。