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赤い花

「まぁま、赤いお花」

「あれが欲しいの?」

「探してるお兄さん」

「良くわかんないけど、買っていけば良いのかしら?」

「うん」


 花屋さんで花束を買ってからバスに乗った。

 300円だったらしい。かなりの高額だ。


 病院前に着くと、こちらを見た若い男性が近寄ってきた。

 ひょろっとした体格で、ストライプのスーツを着ている。


「無理を承知でお願いします。その花を譲っていただけませんでしょうか?」


 母は私を見て、私が頷いた。


「良いですよ」

「もちろん無理なお願いであることは重々承知していますが、どうしても」

「だから、良いですよ!」

「え?良いんですか?」

「はい。どうぞ」


 母は花束をその若い男性に渡した。


「ありがとう!病院の花屋には白っぽい花ばかりで困ってたんです。これ、花の代わりと言ってはなんですが、貰ってください。ありがとうございます!」


 母に封筒を無理矢理渡すと、その若い男性は走って行ってしまった。


「あれでよかったの?」

「うん!」

「そう。……これはなにかしら?」


 母は渡された封筒を開けて見ると、中には聖徳太子の壱万円札が入っていた。


「花の代金には多すぎるわ……」


 母はせいぜい千円札だろうと考え、儲けちゃったわと思っていたのに、その10倍のお札を見て、娘を末恐ろしいと思ってしまった。



 鈴木さんの奥さんはとても元気だった。

 一昨々日(さきおととい)緊急手術をした人とは思えない元気さだ。

 ただ、「絶対に笑わせないで!」とは言っていた。


「アオイちゃんのおかげよー。あの時家に帰っていたら間に合わなかったかも知れなかったんですって!」

「間に合って良かったわね」

「本当に、なんてお礼言ったら良いのか」

「苺のケーキがいいです!」

「苺のケーキが好きなの?」

「こら、アオイ!」

「じゃあ、退院したら苺のケーキ持っていくわね」

「やったー!」

「請求したみたいですみません」

「やだ、分かりやすくて助かるわよ。嫌いなものだったらお礼したいのに迷惑になるじゃないのぉ」

「お姉さん早く元気になってね」

「どうぞお大事に」

「どうもありがとう。アオイちゃんまたねー」


 病室をあとにし、待合室の冷水機で水を飲んでからバス停に向かった。


 バス停に着く前に、花を譲った若い男性に会った。


「あの、先程の」

「あ!先程は助かりました!」

「少し、いえ、大分多いのでお返ししようかと」

「いえいえ、あのまま受け取ってください。本当に助かったんで」


「おい、ヤスなにやってんだ!!」

「あ、兄貴!」

「カタギの方に迷惑かけんな!」


 低い声の主は三つ揃えの高そうなスーツを着た、強面の体格の良い男性だった。

 え、その筋のかたなの?

 そう思った母は青くなっていた。


「こちらの方が、先程の花を譲ってくれたご婦人です」

「そうか、うちのもんが迷惑お掛けしました。迷惑料に……お納めください」


 強面の男性から財布ごと渡され母はパニックになっていた。

 仕方なく、母の代わりに説明することにした。


「お兄さん、こっちのお兄さんからいっぱいもらったの。まぁまは多すぎるから返したいんだって」

「ヤス、そうなのか?」

「はい!預かっていた聖徳太子(壱万円札)をそのまま渡しました!」

「お嬢ちゃんは将来有望だな。ご婦人、怖がらせて悪かった。財布は無しにするからヤスから受け取ったものはどうかそのまま納めてください」


 母は首を縦に振るばかりで声にならなかった。


 二人は頭を深く下げてから去っていった。


 少しすると落ち着いたのか母が大きく息をはいた。


「はぁー、怖かった。アオイはよく怖くないわね?」

「怖いの?……なんで? なにもしないよ?」

「そうね。なにもされなかったわね」


 母は疲れたらしく肩を落としてバス停まで歩いた。

 バスはすぐに来て、椅子に座ることができた。


 行きに乗った駅より手前の駅で母が降りたので、不思議に思っていると、ケーキ屋さんに寄ってくれた。


 初めて見るパラダイスに非常に興奮した。


「凄い!ケーキがいっぱいある!見たこと無いケーキがいっぱいあるし、苺のケーキもいっぱいある!」


「2つ買ってあげるから好きなのを選びなさい」

「はーい」


 一番上の段は見えないので抱っこして見せて貰った。

 そこにはプチフールがあった。


「ぷ、ち、ふー、る?ってなぁに?」

「アオイ、あなたカタカナ読めるの!?」

「絵本も読めるよ?」

「じゃ、これは?」

「ま、ろ、ん、ぐ、ら、つ、せ」

「これは?」


『本日中にお召し上がりください』

 

「・・・にお、し、がりください」

「流石に漢字は無理ね。アオイ凄いじゃない誰が教えてくれたの?」

「にぃにだよ!」

「え?」


「お嬢ちゃん、凄いね。何歳だい?」

「3歳です!」


 指を三つだした。あまり上手く指が立たない。


「凄い英才教育だねー。うちの息子なんて、5歳になってもひらがなも怪しかったのに、女の子は違うねー!」

「あの、ではこのプチフールセットをください」


 お店のお姉さんは、これサービス!と言って棒つきキャンディーをくれた。

 私は右手にハンカチを持っていたので左手を出して受け取った。

 お姉さんは左利きだったらしい。


 触ってしまった。左手で左手を。

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